塾不要!家で「プログラミング的思考」鍛える術3つ

やみくもに「プログラミング教室」に通わせても逆効果

近年、小学校でのプログラミング教育がスタートしましたが、このプログラミング教育とはどのようなものか、ご存じですか?

「プログラミング教育」の目的は、プログラミングのスキルを鍛える(プログラマーやエンジニアを育てる)ことではありません。

『専門職に就かなくても現代に必要な「プログラミング的思考(≒コンピュテーショナル・シンキング)」等の思考法に親しみ、利用し、応用すること、世の中がコンピューターを高度に活用して動いていることを実感すること、自ら動かすことも不可能ではないと知り、試しに実践しながら学んでいくこと。』

そういった背景を持って生まれたものなのですが、どうしても「プログラミング」という強力な用語のせいもあり、イメージを引きずられている人が多いのが現実です。

もちろん、これを理解し「プログラミング的思考」を育む手段として教室に通わせるのはとても有意義なことなのですが、こういった前提や背景を抜きにして、「これからはプログラミングの時代だから」と、お子さんが興味がないのに、やみくもに「プログラミング教室」に通わせても逆効果になることだってありえます。

「プログラミング」そのものの知識やスキルは、あくまで「リテラシー」などと対になる、自己実現手段(の1つ)でしかないのです。

では、子どもの「プログラミング的思考」を育てるために、親として何ができるのか、どんな工夫ができるのか、現役のITエンジニアでありIT教育者である私が家庭や学校で、実際に子どもに対して行ってきた取り組みをいくつか紹介していきましょう。

教科書が必要なわけでもありませんし、堅苦しいお勉強をするわけでもありません。日常生活の中に、いわゆる「プログラミング的思考」に通じる考えを育む素材は無限に転がっているからです。

①「ブラックボックスあてっこゲーム」

「ブラックボックス」とは、内部の動作原理や構造を理解していなくても使える装置やソフトウェア、仕組みのことを指します(対して、中の仕組みが完全にわかっていることを「ホワイトボックス」と呼びます)。そこから転じて、身のまわりで「本当は中で(あるいは見えないところで)どんなことが起こっているのかよくわかってないもの」という意味合いもあります。

このブラックボックスの中身を想像・推測したり、本当にそうなのかを試してみたり、調べてみたりする遊びを、私は「ブラックボックスあてっこゲーム」と呼んでいます。

簡単にいえば、「仕組みを想像してみる」というイメージです。

たとえば、「コンビニとかスーパーって、いろんな商品が売ってるよね。これって、どこからくるんだろう?」「お店が閉店してから翌日に開店するまでの間、お店の人たちはどんな仕事をしているんだろう?」「お店の隅によくある『関係者以外立入禁止』と書かれた扉の向こうには何があるんだろう?」などなど。

重要なのは、「想像してみる」「推測してみる」ことです。

子どもならではの、自由な(ときにはほほ笑ましい、ときには奇想天外、ときには鋭い)発想でいろいろなアイデアを出してくれるものです。

それらを起点にして、さらに「その商品が作られたところでは、どんなふうに作っているんだろう?」とか、「じゃあ、その推測でうまくいくか、スーパーでお仕事をする1日を紙の上でシミュレーションしてみよう」とか、「お店の人に、扉の向こうがどうなってるか、実際に質問してみよう」とか、どんどん進めていくのも楽しいですね。

「自ら仮説を立て、考え、理解する」が重要

そのほか、SuicaやPASMOなどの交通系ICカードを、乗る駅と降りる駅でかざすとき、何が行われているのか、どうやって運賃を計算しているのか、ICカードには何が記録されているのか(あるいは記録されていないのか)を想像してみたりもしました。

もっとアナログでシンプル、かつ身近な例としては、台所や風呂の温度調節機能付き蛇口ハンドル(左に回せば温かく、右に回せば冷たくなる)の仕組みについて考えてみたりもしました。

大人にとっては当たり前なこんな仕組みであっても、多くの子どもにとっては「ブラックボックス」「魔法のような仕組み」に感じられるものですが、わかった瞬間に「そうか! なるほど〜!」とうれしそうに反応してくれます。

「ブラックボックスあてっこゲーム」は、「自ら仮説を立て、考える。そんな段階を踏んで物事を理解する」という一連の思考プロセスを習慣化するのにも役立ちます。

②親子でクッキングも楽しい実験タイム

台所だって、立派な実験室です。毎日の料理を子どもに手伝ってもらうことで、化学・科学・プログラミングの素養を身につけることができます。

たとえば、以前、当時6歳の娘とブリの照り焼きを作ったときのこと。調味料を合わせていた娘が、しょうゆとみりんと酢が自然に対流を起こしてふわふわと変化しているさまに、興味深く見入っていたことがありました。

これは、比重の異なる、かつ、色がついている調味料とそうでない調味料とが自然に混ざっている状態なのだと思いますが、ふと思いついて「同じ量なのに、重さが違うものがあるんだね〜。じゃあ、実際に計ってみよう!」と、調理途中であることを忘れて、計量カップと計りを出し、家にある液体調味料を比べてみたり、入れる順番で動きが変わるのかを調べる実験が始まりました。もちろん、この日の夕食がいつもより遅れたことは言うまでもありません。

ステーキの「焼き加減」を科学する

ステーキのベストな焼き加減を調べるという実験をしたこともあります。同じ厚みの肉を、同じフライパン、同じ火力で、両面10秒ずつ〜60秒ずつ焼いたものを用意、カットした断面の様子をスケッチブックに描いたりしながら、肉に火が通っていく様子を考えてみたりしました。実際に食べ比べてみた結果、娘は両面を40秒ずつ焼いたものがいちばんおいしかったと言っていました。

この応用で、濃さを比べる、なんてこともやりました。

牛乳とカルピス、コーヒーと砂糖、お好み焼きのソースやマヨネーズの量、サラダのドレッシングの量、など、それぞれの比率を変えたものをたくさん作って、いちばんおいしく感じるのはどれか、濃さによってどのように変わっていくか、で遊ぶというものです。

子どもは濃い味付けを好みがちですが、薄めの味にしたときの素材の味とのバランスも悪くない、など、本人にとって意外な発見もあったようです。

ほかにも、お好み焼きやたこ焼きを作る手順をプログラム(番号を振った日本語の文章)として書き出してみよう、という課題を小さいころからよく与えていました。

幼稚園児の頃に書いたものは感想文のような手順書でしたが、年月を経るごとに徐々にブラッシュアップされていき、最後には精緻な分量や火加減まで記載された手順書に進化しました。そのさまは、非常に興味深いものがあります。

③買い物・おつかいもゲーム感覚で遊びになる

親子で楽しくスーパーにお買い物。そんな何げないシーンにも、遊べること、学べることは無尽蔵です。

「魚屋さん」「お肉屋さん」「八百屋さん」「駄菓子屋さん」と、いろいろなお店をはしごして買い物をしていた時代であれば、今日買うものをリストアップしておき、地図を見ながら、どの道順でどの順番にお店を回るか、なんて考えるのも楽しかったでしょう。ところが今はほとんどがスーパーマーケットで済んでしまう時代です。そんな時代でも遊ぶ方法はあります。

たとえば、行き慣れたスーパーなら、何がどの辺りに売っているかを覚えてしまうものです。入口の右手が野菜売り場、左手が果物売り場、その奥が魚介類売り場、さらに奥に精肉売り場。うどんやラーメンなど乾麺類はここ、しょうゆや料理酒はここ、ドレッシングは、牛乳やチーズは、お惣菜やパンは……、などなど。まずは、スーパーの見取り図を紙に書いてみます。わからなければ、実際に行ったときに調べて、帰宅してからまたメモします。そのうえで、今日買い物をする材料が、それぞれどこの売り場で売っているかを調べて、

・ひと筆書きで行けるルートは?
・歩数がより少なくてすむルートは?

など、いわゆる「最短経路問題」をゲームのようにしてチャレンジしてみてもいいでしょう。もちろん、最初から最短経路を見つけられるわけはないので、買い物に行くたびに子どもなりの試行錯誤が行われます。親はそれをサポートするだけ。家からスーパーまでの地図を使って、同じように最短経路はどれか、最も安全に行ける経路はどれか、を遊びながら探っていくのもいいですね。もちろん、途中で出会う野良猫や雑草、植え込み、看板などについてあれこれ話すことも楽しみを倍増させてくれます。

工夫次第で「家庭でできること」はたくさん

このように、やみくもにプログラミング教育に通わせなくても、家庭での工夫によってプログラミング的思考は養うことができるのです。

もちろん、ここに書いたことが「唯一の正解」ではありませんし、お子さんの性格や興味、成長過程によって、それぞれのアクティビティーがどの年齢層で適切かなどは異なりますが、これらを参考にして、いろいろ工夫したりアイデアを出したりしながら、お子さんと一緒に遊んだり会話をする一助になれば幸いです。