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「ソーシャルビジネス」で失敗しがちな人の特徴

ビジネスモデルの前に必要なもの

ボーダレスグループでは、これまでに40の事業を立ち上げてきました。もちろん、すべてソーシャルビジネスです。従来のビジネスと比べて、ソーシャルビジネスがいちばん違うことは何でしょうか。

最大の違いは、ビジネスプランを考える順番です。まずソーシャルコンセプトを固めてから、それをビジネスモデルに落とし込んでいきます。

1.ソーシャルコンセプト:誰のどんな社会問題を、どのように解決して、どのような社会を実現していくのか。つまり、社会をどのようにリデザインしていくのかを描いたもの。

2.制約条件:ソーシャルコンセプトに当てはまるビジネスアイデアを考えるうえで押さえておくべき条件。

3.ビジネスモデル:誰に・何を・どのように提供するのか。制約条件を満たした商品やサービスをビジネスに落とし込んだもの。

必ずこの順番で考えます。

わかりやすく比較するために、従来のビジネスの作り方を思い出してみてください。起業の成否を決めるのは、何といってもビジネスモデルです。魅力的なビジネスモデルがなければ、起業資金を集めることができません。十分な資金がなければ人も採用できません。資金も人材も、結局は優れたビジネスモデルがあるからこそ集めることができるわけです。

また、どんな起業指南書にも、「成長マーケットに入れ」と書いてあります。縮小する市場で減っていくパイを狙って戦ってもみんなが消耗するだけです。逆に、市場全体が大きくなっていけば、その中で多少の競争やシェアの奪い合いがあっても、どこかにおこぼれはある。そうした理由から、これから伸びていくであろう成長マーケットを見定め、そこで優位性を保てるビジネスモデルを考えていくのが一般的です。

それに対し、ソーシャルビジネスはまったく異なるアプローチをとります。貧困や人種差別、環境問題といった「社会問題が生まれている原因」を捉え、その原因に対して有効な対策を考える。そうやって社会を確実に変えていくのがソーシャルビジネスです。ですから、理想の社会づくりの設計図=ソーシャルコンセプトをつくり、それをビジネスモデルに落とし込んでいく、という順番で考えていくのです。

ビジネスモデル先行だと薄っぺらくなる

ところが、下手にビジネス経験のある人ほど間違いがちです。ついつい、うまくいきそうなビジネスアイデアが先行してしまう。ビジネスアイデアが先にあって、それを後付けで社会問題にはめ込もうとするのです。残念ながら、この順番では社会問題に対する本質的なアプローチにはなりません。

こういう“なんちゃって社会性ビジネスは、いくら概念上はきれいに見えても、現場の実態は大したインパクトになっていないことが多いのです。後付けの社会貢献はPRにはなっても、実態は薄っぺらいことは自分自身がいちばんよくわかっています。それをPRし続けても、自分が後ろめたい気持ちになるばかりです。そういう人ほど、「ソーシャルビジネス」という言葉を否定します。ビジネスは本来ソーシャルなものであって、あえてソーシャルビジネスという必要はない、と。

でも、本物のソーシャルビジネスは違います。最初はビジネスアイデアなんかいっさい考えません。考えるのは、「この社会問題が起こっている本質的な原因は何なのか」。現場に入って、課題を抱える当事者に何度もヒアリングを重ねながら、徹底的にその原因を追究していきます。

そうやって社会問題の「原因」を突き止めることができて初めて、それに対する「対策」が見えてくるのです。ボーダレスグループの起業家にも、このソーシャルコンセプトができあがるまでに1カ月以上かかる人もいますが、僕はソーシャルコンセプトができあがるまではビジネスの話はいっさいしません。

こうやって見えてきた社会問題の原因に対する「対策」を忠実に体現した商品・サービスを作り、それをビジネスモデルに落とし込んでいく。この順番でなければ、ピントの外れたビジネスモデルになってしまい、社会問題を解決する社会ソリューションにはなりません

当初考えたビジネスアイデアがそのままうまくいくとは限りません。ビジネスアイデアというのは、あくまでも仮説です。実際にやってみないと、うまくいくかはわかりません。頭がいい人が考えればうまくいくのなら、東大出身者はみんな起業したら成功するはずです。でもそうはなっていませんよね。何度も試行錯誤を繰り返し、やりながら修正を繰り返していくのです。

だから、うまくいかないビジネスモデルはどんどん変えていかなければいけない。そのときの拠り所となるのが「ソーシャルコンセプト」なのです。ソーシャルコンセプトという社会づくりの設計図=「幹」がしっかりあるからこそ、ビジネスアイデアという「枝葉」の部分はどんどん変えていけるのです。

一方、「このビジネスアイデアはうまくいく!」と思って始めた事業がもしうまくいかなかったらどうなるでしょう。そこでパタッと止まってしまいますよね。「ビジネスモデルの前に、まずソーシャルコンセプトをつくろう」と僕が口を酸っぱくして言っているのは、そのためでもあるのです。

成功するかどうかは、続けるかどうか次第

ソーシャルコンセプトがしっかり固まっていれば、あとは続けるかどうかだけです。続けていれば100%成功します。失敗するのは、途中でやめてしまうからです。

従来のビジネスは、ビジネスチャンスを狙って勝負に出ます。逆に、チャンスがないとわかれば撤退するのも早い。それに対して、社会問題解決のためのビジネスは「何のために事業をやるか」が明確なので、儲からないからといってすぐにやめるわけにはいきません

ソーシャルコンセプトに沿って粘り強くやり続けていれば、ビジネスモデルは変わっていっても、いつか必ず成功します。「9勝1敗」、いや、「10勝0敗」にすることだって不可能ではないはずです。