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シェアが急伸!レノボ・NEC「二刀流」戦略の破壊力

 

エンゼルスの大谷翔平選手の活躍が連日話題を集めているが、日本のパソコン市場でも、「二刀流」で成果をあげている企業がある。それがNECレノボ・ジャパングループだ。

調査会社の調べによると、2020年度(2020年4月~2021年3月)の国内パソコン市場において、レノボ・ジャパンは16.5%のシェアを獲得。前年の5位から、一気に首位に躍り出た。レノボ・ジャパンがブランド別シェアでトップを獲得したのは初めてだ。NECパーソナルコンピュータも15.9%で2位となり、前年の4位から浮上。同じグループが1位、2位を獲得した。

グローバルモデルにより、コストパフォーマンスを追求するレノボのパソコンと、日本のユーザーニーズに合致したパソコンを作り続けるNECパーソナルコンピュータによる、異なるモノづくりの二刀流が成功している。

レノボは富士通のパソコン事業も傘下に

中国企業であるレノボグループは、2005年にレノボ・ジャパンを設立して、日本市場に本格参入。同年にIBMのパソコン部門の買収を完了しており、その代表製品であるThinkPad(シンクパッド)は、日本の大和研究所で開発されるなど、日本との強い結びつきを持った形で参入した。

2011年には、NECのパソコン事業とのジョイントベンチャーであるNECパーソナルコンピュータを設立。現在、レノボグループが66.6%の出資比率を持つ。2021年7月1日には、ジョイントベンチャー開始から10年目の節目を迎える。

さらには、2018年には、富士通のパソコン事業を行う富士通クライアントコンピューティングに51%を出資し、傘下に収めている。

レノボ・ジャパンとNECパーソナルコンピュータは、NECレノボ・ジャパングループとして一体経営を進めるが、富士通クライアントコンピューティングは分離した経営を行っているのが特徴だ。

レノボ・ジャパンが首位を獲得した最大の要因は、政府主導により小中学校に1人1台環境を整備したGIGAスクール構想において、圧倒的ともいえる強みをみせたからだ。

GIGAスクール構想によって、日本の教育現場に導入されたパソコンは、1年間だけで約800万台に達したとみられ、世界中を見回してもこれまでに例がないほどの特需だった。レノボは、この領域において、他社を圧倒している。その理由は3つある。

1つ目は、いち早く「GIGAスクールパック」を商品化したことだ。レノボ・ジャパンは、2020年3月3日に、他社に先駆けて「GIGAスクールパック」を発表。同構想に準拠した仕様のレノボブランドのパソコンに、NTTコミュニケーションズのクラウド型教育プラットフォーム「まなびポケット」、東京書籍の学校用プログラミング教材「みんなでプログラミング」などをセットにして、4万4990円で発売した。政府による補助が1台あたり4万5000円であり、それに収まるパッケージを用意した点が受けた。

 

日本への供給量を積極的に増やした

2つ目は、教育分野向けパソコンとして、Chromebook(クロームブック)に着目した点だ。日本ではほとんど存在感がなかったクロームブックだが、セキュリティ環境を自動でアップデートしたり、クラウド上にデータを保存できたりといった安全性や管理性に優れた点が、海外の教育機関で評価され、導入が進んでいた。そのことを背景に、日本でも導入が進むと予測。製品ラインアップを強化し、教育分野向けには、Windowsを超える台数を供給してみせた。

そして、3つ目にはこうした旺盛な需要に応えることができる供給量を確保したことだ。コロナ禍において、パソコンの需要は増加したものの、半導体の慢性的な品不足、サプライチェーンの分断による部品調達の遅れなどにより、パソコンの安定的な供給が難しい1年だったが、レノボ・ジャパンでは日本向けの製品を大量に確保。結果として、前年比1.7倍のパソコンを日本に送り込んだ。他の外資系パソコンメーカーが前年の9割程度のパソコンしか日本市場に供給できなかったのとは大きな差がついた。

レノボ・ジャパンとNECパーソナルコンピュータの社長を務めるデビット・ベネット社長は、「GIGAスクールパックは、2019年夏時点から準備を開始し、2019年12月に閣議決定したのにあわせて、一気にアクセルを踏んだ。本社にも、日本市場向けに、多くのパソコンを回してもらえるように交渉した」と語る。

政府は、当初3年間で整備する計画を、1年間で整備する計画へと修正。レノボ・ジャパンは、この動きを捉えて日本への供給量をさらに増やした。

レノボ本社が、日本市場に対するパソコンの供給を優先したのは、ベネット社長が就任した3年前から、日本の教育市場を重点分野に位置づけて、事業体制を強化してきたことに加えて、レノボにおける日本の存在感が、これまで以上に高まっている点が見逃せない。

レノボグループでは、2020年度(2021年3月期)の決算発表では、日本の業績も初めて公開した。これによると、日本市場での売上高は67億8000万ドル(約7500億円)。中国、アメリカに続いて、全世界で3位の売り上げ規模になっており、グローバル全体の約11%の売上高を日本が占めた。レノボグループ全体での成長率は20%増だったが、日本での成長率はそれを大きく上回っているという。

世界ナンバーワンシェアを持つレノボの調達力と生産力の強みが、そのまま日本市場に向けられた格好であり、これがなかったら、2021年3月までに96.5%の整備が完了した日本のGIGAスクール構想は、そこまでの整備率に至っていなかったかもしれない。ある意味、GIGAスクール構想の実現は、レノボが支えたともいえる。

レノボブランドのパソコンは、グローバルモデルとして、価格競争力を持ったモノづくりが得意であるのに対して、NECパーソナルコンピュータは、日本のニーズに合致した付加価値モデルのモノづくりを得意する。レノボとは正反対のモノづくりであり、この2つのモノづくりを実現しているメーカーはほかにない。

グローバルモデルと、ローカルモデルを展開する、まさに「二刀流」である。調達力と大量生産の強みを生かしたことで、GIGAスクール構想の需要に応えたのがレノボブランドのパソコンだった。

NECブランドのパソコンはテレワーク需要に威力

それに対して、付加価値モデルのNECブランドのパソコンは、2020年度のもう1つの特需となったテレワークへの対応で威力を発揮した。

コロナ禍では、政府や地方自治体により、在宅勤務が推奨され、テレワークが一気に進展。2020年度前半には、量販店店頭ではパソコンが品薄になるといった状況が生まれた。この市場において、最も売れたのがNECブランドのパソコンであった。

日本において最も売れ筋のノートパソコンは、15型液晶ディスプレイを搭載し、DVDドライブなどを内蔵した、いわば「全部入りモデル」である。これは日本のパソコンメーカーが得意とする分野であり、NECはそのリーダー的存在だ。

さらに、テレワーク需要が本格化するのにあわせて、ミーティング機能などの搭載により、音が聞こえやすく、周りの雑音を拾わずに相手に聞こえやすくするといったオンライン会議に最適な独自機能を搭載。キーボードのタイピングを静音化したり、ノートパソコンでは持ち歩くために軽量化したり、カフェやシェアオフィスでの利用時にも、後ろからのぞき見されないための機能を搭載するなど、日本のテレワーク環境を強く意識した機能強化を図った点が受けた。

さらに、NECはGIGAスクール構想向けにも特徴を発揮している。多くの実績を持つ独自の教育クラウドプラットフォーム「Open Platform for Education(OPE) 」を提供し、レノボブランドのパソコンとは違う形で教育市場にアプローチした。

そのほか、国内パソコンメーカーとしては、初めてクロームブックをラインアップする、比較的安定した供給体制を確立する、といったレノボグループならではの開発力、調達力を生かした点も見逃せない。

レノボブランドのパソコンは、日本HP、デル・テクノロジーズ、ASUSなどのグローバルモデルを展開する外資系パソコンメーカーと戦う製品であり、NECブランドのパソコンは、富士通、Dynabook(ダイナブック)、パナソニック、VAIOなど、日本のニーズを追求する日本のパソコンブランドと戦う製品だ。

2020年度のブランド別シェアで、レノボ・ジャパン、NECパーソナルコンピュータが1位と2位を独占したことは、異なるパソコン市場での戦いにおいて、それぞれに勝利を収めた結果といえる。

ライバルも対抗商品を相次ぎ投入

だが、2021年度もこの状況が続くとはいえない。GIGAスクール構想による需要がなくなり、レノボの供給力やグローバルモデルの強みを生かせる場は限定的となる。また、NECが得意とする分野にも、日本のパソコンメーカー各社が対抗製品を相次ぎ投入している。

「レノボの知名度は日本ではまだ低い。トップシェアになったチャンスを生かして、さらに知名度をあげたい」(デビット・ベネット氏)と語る。

2021年度は、レノボにとっては一般市場に対する供給力とコスト競争力を生かすために、あらためてブランド価値を訴求する必要があり、NECは動きが鈍化しはじめた日本のテレワーク需要を喚起するような製品づくりが課題となるだろう。

追い風の中で、それぞれの特徴を生かすことができた2020年度の「二刀流」と、逆風のなかで、ブランド力や市場を開拓する力が求められる2021年度の「二刀流」では、使う筋肉が異なる。NECレノボ・ジャパングループが、市場変化に対応した二刀流にシフトできるかどうかがカギだ。