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自動運転バスが“絵にかいた餅"で終わる理由

自動運転は、乗用車や商用車を中心とした「オーナーカー」と、バスやタクシーなど公共性がある交通機関「サービスカー」という2つの領域で、日本を含めた世界の国や地域で、自動車メーカーや自動車部品メーカー、そしてアップル、グーグル、中国のバイドゥなどといったIT系企業が、継続的な事業化について戦略を練っている段階である。

こうしたオーナーカーとサービスカー、どちらについても本格的な普及に対する課題は、社会受容性とそれに見合うコスト管理にある。社会受容性については、「2025年『自動運転レベル4』に立ちはだかる壁 自動運転普及のカギは『社会受容性』にある」にて紹介した。

今回はコスト管理について、筆者がエボリューション大使として町の政策に参画している、福井県吉田郡永平寺町の事例を軸足として話を進める。

ゴルフカートベースの実験車両

2021年3月25日、サービスカーとして日本初の1:3(1人が3台を同時監視する)の遠隔型自動走行車両による自動運転レベル3実用化を記念した出発式が行われ、福井県の杉本達治知事や永平寺町の河合永充町長、そして関係省庁と地元の交通事業者や商工関係者らが参加した。

運行管理を町が出資するまちづくり会社ZENコネクトが行い、永平寺町の門前に近い2km区間で、遠隔管理室にいる1人が3台を同時に監視して無人走行させる。運賃は大人100円、子どもが50円。

2021年3月25日に行われた1:3遠隔監視によるレベル3自動走行実用化の出発式(筆者撮影)

自動運転車両は、ヤマハが製造開発し、全国各地のゴルフ場や遊興施設などで数多く使われている電磁誘導方式のゴルフカートをベースに、国の産業総合技術研究所が一部を改良したものだ。

地中に埋設した誘導線の磁力線を車両下にある3つのガイドセンサーが検知し、設定されたルートを走るというのが、基本的な走行システム。地中に埋設したマグネットの上を走行すると、車両のマグネットセンサーによる電圧発生で車両位置を検知し、得られた信号をコンピューターが解析して車両の動作を制御する。

電磁誘導方式は事実上の軌道交通であり、運用の自由度はあまり高くないという見方もある。一方で、走行ルートから外れて暴走しないこと、積雪や落ち葉などの路面環境の変化に強いこと、10年以上とされる耐久性の高さや、月額数千円程度の電気代で済むという経済性が、メリットとして挙げられる。

また、明確な金額は公開されていないが、車両本体はベースとなるヤマハ製ゴルフカートの販売価格から数百万円程度と考えられる。

さらに、遠隔管理は運行管理の人件費を抑制するためでもあるが、永平寺町の事例は専用空間を走行するため、遠隔管理者の精神的な負担も比較的少なくできるメリットもある。

“身の丈”を考えた“現実解“として

この地が、「専用空間における自動走行などを活用した端末交通システムの社会実装に向けた実証」として国に認定されたのは、今から4年前の2017年3月だった。

同年4月には、京福電鉄の廃線跡を利用した遊歩道に、自動運転を行うための電磁誘導線などの付帯設備の工事が行われ、同年5月より産業技術総合研究所などによる試験走行が開始された。なお、工事費用には、地方創生拠点整備交付金(国:6000万円、県:3000万円、町:3000万円、合計1億2000万円)が投じられている。

2019年4月から5月の大型連休にかけては、車両10台を使った1カ月実証が実施され、同年6月から12月までは当時、日本で最長期間となる6カ月連続実証が、さらに2020年7月からは車内無人でのレベル3の実証などが行われてきた。

1:3遠隔監視を行う永平寺町内の施設(筆者撮影)

こうした各種実証には、全国各地の自治体、民間企業、大学などの教育機関の担当者が現地視察に訪れ、筆者も参加し、永平寺町の社会実情と自動運転の社会実装に対する可能性について意見交換してきた。

その中で、町側からは「継続的な運用に向けたコスト抑制」が強調された。グーグルカーやアップルカー、またはヨーロッパのベンチャー企業などが実用化を目指す、走行場所の制約をあまり受けずに走行可能な高級な自動運転車両の導入は、町の財政状況を考えると難しく、国や県と連携した永平寺町としての“身の丈”を考えた“現実解”として、自動運転の実用化を考えるというものだ。

永平寺町では、もう1つ“身の丈”交通がある。約1年間の試走を経て2020年10月に実用化した、オンデマンド型交通システムの「近助(きんじょ)タクシー」だ。

永平寺町内の郵便局で、一時的に待機する「近助タクシー」(筆者撮影)

福井県内の全トヨタ販売企業が共同で車両のサポートをする体制を敷き、地元住民がミニバンを運転して、高齢者の通院や買い物、小学生の通学などを支援するものだ。

また、経済産業省の支援事業として、近助タクシーのドライバーがゆうパックの配送を行う日本初の貨客混載の実証も2021年2月に行われた。

自家用有償旅客運送は全国各地で実用化されている手法だが、国は2020年2月に地域公共交通の活性化とそのための法改正を行っており、近助タクシーのような新たな事業の実現に向けて国土交通省が後押しする体制が整ってきている。

日本郵便と連携した「近助タクシー」による、ゆうパックの貨客混載実証の様子(筆者撮影)

全国各地から永平寺町への視察では、自動運転と近助タクシーの現場に案内し、それぞれの長所と短所を実感してもらう。その中でよく出る話題は、コミュニティバスから自動運転車両への転換だ。

コミュニティバスは、路線バスより車両がこぶりで、集落の中の比較的細い道まで路線がある地方自治体が運用し、地元のバス会社やタクシー会社に運行管理を委託する公共交通機関として全国各地に広まっている。

自動運転車を赤字でも続ける理由

コミュニティバス発祥の地とされる東京都武蔵野市役所にもうかがい、同地における公共交通会議の活発な議論について市職員から話を聞いたが、年間で1億円を超える収入があっても収支は若干の赤字であるという。

一方、永平寺町のコミュニティバスは年間4000万円強の財源を要して、年間収入は数十万円程度である。それでも、コミュニティバスは住民サービスであり、また住民に対するセーフティネットという観点から、赤字体質でも事業を継続することに住民が反対するケースは少ない。永平寺町を含めて、全国各地のコミュニティバス事業を実際に取材すると、そうした声が多い。

一方でバスやタクシーのドライバーの高齢化と、ドライバーのなり手不足という課題も全国共通にある。そこで、「コミュニティバスから自動運転車への転換」という発想が生まれるのだが、多くの場合は“絵にかいた餅”で終わる。

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なぜかといえば、自治体の財政状況によらず「どこで」「誰が」「いつ」「どのように利用し」「コスト管理をどうするのか」という出口戦略の詰めが甘いからだ。

実際、自動運転と自家用有償旅客運送の2つをやっと実現した永平寺町の事例についても、筆者の立場として言えば、自動運転事業の継続はサービス事業として数多くの課題があり、解決に向けた議論は今度さらに難しさを増すと感じている。

それでも、「小さな歩みを続けていこう」と地元の皆さんと交流を深める中で、自らの気持ちを整理している。地域交通をよりよい形にするのは、並大抵のことではない。