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「自己肯定感が低い人」が見落としている視点

 物事がうまくいかないと感じる、本当の理由

自尊感情や自己肯定感という言葉をよく見聞きする時代になりました。自己肯定感が高いから人は成功するのでしょうか? 自尊感情さえ高ければすべてがうまくいくと思いますか?

自己肯定感が高すぎる人は、実際のところ自己中心的な思考に陥りやすい傾向にあります。そういった人は、必ずしも物心ともに満たされているとは限りません。

人は誰でも、仕事や人間関係でうまくいったり、充実感を感じたりするときに自己肯定感が高まり、逆に失敗したら自己肯定感が下がります。
つねに自己肯定感が高い人なんて本当はいません。誰もが自己肯定感が上がったり下がったりしながら生きている、それが事実です。

つまり自己肯定感が低いから人生がうまくいかないのではなく、本当は満たされていないのにハリボテの自信でごまかしていたり、本当はできるのに自信が持てず踏み出せなかったり、事実と自分の解釈に距離があるから人生に問題が生じます。

事実と解釈に距離があるのは、等身大の自分と向き合ったことがない、あるいは受け入れられていない可能性が高いです。等身大の自分に直面し事実を明らかにしたら、ダメな自分に落ち込むかもしれません。でもそれは自然なことで、落ち込むことが間違いなわけでもありません。

成熟した大人は、自分のいいところもダメなところも把握した上で「選択」できます。ダメな自分も受け入れた上で「こうありたい」を選べる力が、本当の「強さ」なのです。

強さを手に入れるには、メンタルを鍛えなければと思いがちです。しかし目に見えないメンタルを自分で鍛えるのは、とても難しいのが現実でしょう。だから私は、「こんな私が好き」と思える態度や行為を選ぶことをおすすめしています。

人は空を見上げながら悩むことができないように、行為や行動、態度は心に強く影響します。「こんな自分が好き」という行為の選択は、目に見えない情緒的成熟を確実に後押ししてくれるのです。

「自分軸」を知るために必要な「自分像」とは?

あなたは普段、自分のことをどんな人だと思っていますか?

日々の行動や選択を判断する拠り所となるもの、それが「自分像」です。「こんな自分が好き」という軸で選択するためには、自分を深く理解しておく必要があります。すなわち「自分像」について考えておくことは大切です。

自分像は過去の記憶から作られるもので、断片的な記憶を自らがつなぎ合わせて「私はこういう人間だ」と自分で決めている像にすぎません。

だからネガティブな人は記憶もネガティブな傾向があります。事実、過去につらいことが多かったのかもしれませんが、それを乗り越えていまに至っているという成功体験にはフォーカスせず、「つらかった」というネガティブな記憶で自分像を作ってしまいがちです。

そして恐ろしいことに、人の無意識には自分像と現実に一貫性を持たせようとする作用があります。ネガティブな自分像をそのままにしていると、現実に起こることまで自動的にネガティブになっていく可能性があるのです。

いつも途中でダメになる自分。長続きしない自分。ちょっと運が悪い自分。

そうして繰り返される失敗のパターンには、偏った過去の記憶から作られた自分像が影響している場合が多いのです。それは非常に強固なイメージで、仕事やお金、恋人など自分の外側にどんな付加価値をつけたところでなかなか書き換えることはできません。

でも私たちは、その強固な自分像を書き換えられる唯一のカギを、もともと自分の中に持っています。そのカギこそ、心に置き去りにされ蓄積された「未処理の感情」です。

本当はイヤだったけれど誰かの期待に応えるべく何かを我慢したり、場の空気を乱したくなくて本音を隠したり、そうやって心に生まれた感情を「なかったこと」にしてしまう場面は、誰の人生にだって当たり前に巡ってきます。

しかし、一度生まれた感情は当人が見て見ぬフリをしたからといって、都合よく消えてしまうわけではありません。心の中に押し込んで無理やりフタをしているようなもので、容量をオーバーすれば当然ながらあふれてしまったり、爆発を起こしたりするのです。

つまり未処理の感情が心に積もり積もったとき、私たちの現実にはさまざまな不具合が起こり始めます。

見て見ぬフリをした本音(=未処理の感情)を意識するだけで、人の可能性は広がる

未処理の感情は、いらないものでもなければ、悪いものでもありません。

湧いてきた感情をとっさに押し殺してしまったのは、ほかならぬ自分です。それもそのときの自分なりのベストな判断だったはずで、その判断を悔いることにはあまり意味がないのです。

大事なのは、見て見ぬフリしてしまった未処理の感情をどう処理するか。

とくに日本人は社会生活を営む中で、周りの人の心を推し量るばかりに、多くの本音や感情を隠してしまう傾向があります。感情を抱かないことに慣れすぎて、自分が本当はどう感じていたのか、どうしたかったのかがわからなくなっていることも珍しくありません。

でも、未処理の感情はあなたがちゃんと「感じれば」、自然に消えていくという性質を持っています。「悲しかった」「イヤだった」「愛されたかった」……どんな感情だってそのメカニズムは同じ。

そして未処理の感情は、あなたに発見され「感じて」もらった瞬間に、あなたの可能性を拡大する魔法のカギに早変わりします。

「ありたい」自分で人生を再スタートさせ、本来の力を存分に発揮することができるようになるのです。