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いきなりステーキと「俺フレ」明暗分かれた理由

ビジネスには大きく分けて2種類ある

ビジネスは、大別すると2種類ある。

「安く仕入れて普通に売る」ビジネスと、「普通に仕入れて高く売る」ビジネスである。

この2種類のうち、私は「安く仕入れる」ことに競争優位性を置くほうがいいビジネスであると考えている。理由としては、「高く売っている」ということは外部から観測されやすく、結果として競合の参入を招きやすいからである。

例えばスターバックスのコーヒーがドトールより高く、プレミアムが取れていることは、明らかに公知の事実であり、結果としてドトールによるエクセルシオールという新ブランドの立ち上げや、タリーズコーヒーの日本参入などが起きている。

これに対して、「安く仕入れる」タイプのビジネスは、なぜ安く仕入れることができるのか、なぜこの値段で利益が出るのか、という点について秘匿しやすく、結果として、儲かっているという事実を長期間隠すことができるのである。

つまり、商売のうち、継続的差別化要因を作りやすいのは、商売の工程において上流に差別化要因があるほうがよく、販売よりは仕入れ、流通などにおいて差別化が設計されているほうが望ましいのだ。

注)
スターバックスの人気を見たドトールコーヒーが、緑色のスタバのロゴに酷似したロゴを用いて「エクセルシオールカフェ」としてエスプレッソ系カフェ業態に参入した。スターバックスがロゴの使用差し止めを求め、ドトール側がロゴを青に変更することで和解した。

いい仕入れをする方法を考える際に、まず思いつくのは、「大量に仕入れることで、卸売業者の上得意客となり、優先的にいい品を卸してもらうこと」である。

これはもちろん、資金力があるという前提での手法になるし、この前提であればいい品を優先的に出してもらうことは可能であると言える。

しかし、そもそも資金力がある状態というのは、ビジネスが成功しているということで、それはこの本の趣旨とするところではない。

資金力がない場合の「いい仕入れ方」は?

そこで、もう1つ考えられるのは、「わかってる客」として卸売業者に認知してもらうことである。

実際、個人の鮨屋などは、個人店であるがゆえに、大量に仕入れるわけではない。しかし、「あそこの大将はよくわかってるから」ということで、お互いの緊張関係の中でいい品を卸してくれるようになるのである。

余談だが、この種の緊張関係は店と客との間でも成立している。鮨屋というと、「ミシュランに載っていたから」「食べログで4.0以上だから」「3万円するから」という理由で「美味しい」という感想を持つ人を多く見かけるが、実際は、超有名店でなくても、大将と個人的な信頼関係を構築することで、優先的に美味しいネタを出してくれることはしばしばある。

その際に重要なのは、味について、あるいは旬の魚について適切な感想を述べることで、「この人にこれを出せば美味しさがわかってもらえるはずだ」という心象を大将に抱かせることである。仕入れのテクニックは、あらゆる局面で役に立つのである。

注)いい仕入れ
究極の仕入れは、かつてのホルモンや大トロのように、「捨てられている、実は役に立つもの」を発見して、ただで仕入れてくる、というものである。ただし、この手法は、価値がつくことが露見してしまうと次第に値段がついてしまうことが弱点なのである。

もともと、「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」は、ブックオフの創業者である坂本孝氏が立ち上げた飲食系ベンチャーである。

俺のイタリアンの基本的な戦略は、

①高単価で高回転させれば、高原価率でも、元が取れる

②食事を高原価率にしておけば、ワインなど飲み物に関しては通常の原価率でも注文が出る

③料理の高品質を支えるシェフは、3つ星レストランなどででっち的に働いている安月給の人間を雇うことができる

という3つの戦略筋に支えられていた。

数段深い「俺のイタリアン」の仕入れ

ところが、「いきなり!ステーキ」は、「立ち食いで高回転」という表層だけの差別化要因を真似して参入し、参入当初は勢いがあったが、その後急激に失速してしまった。

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実際のところ、最重要な差別化要因は「高品質を支える3つ星レストラン出身のシェフ (かつ彼/彼女らの給与は不当に安いことが多いので、少し給与に色をつければ引き抜くことができる)の雇用」という点にあった。

つまり、俺のイタリアンの究極的な差別化要因は「料理人の仕入れ」という点にあり、差別化要因がいきなり!ステーキよりも数段深いところに設計されているのである。

もっとも、この戦略は坂本氏の著書によってほぼ公開されているので、今後同様の戦略を取る飲食ベンチャーの参入による競争激化も予想されることである。

 

<まとめ>
安く仕入れられる秘密のルートを作れ
外から見えないところで差別化しろ