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「北欧は幸福度が高い」と思う人に教えたい真実

北欧5カ国すべてが幸福度ランキング上位に

何が人を幸せにするかを考えるうえで、どの社会で暮らしている人たちが自分のことを幸せだと思っているのかがわかれば、参考になるはずだ。

2012年以降、国連の持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)が毎年「世界幸福度報告書」を発表しているので、その最新版に目を向けてみよう。

2019年度版(2016~2018年のデータと調査結果が要約されている)では、フィンランドが前回に引き続き「幸福」な国ランキングのトップに輝いた。第2位はデンマークで、そのあとにノルウェー、アイスランドが続く。次いでオランダ、スイスときて、スウェーデンが入る。つまり、北欧5か国のすべてがトップ7にランクインしているのだ。

(画像提供:NHK出版)

トップ8以降はニュージーランド、カナダ、オーストリア。11位から20位はオーストラリアで始まり、チェコで終わる。イギリスは15位、ドイツが17位、アメリカはどうにかこうにか19位に食い込んでいる。

ここまではマスコミでもよく報じられる話。いつだって幸せな北欧諸国をほめそやし、アメリカの(ごく一部の)金持ち連中には幸せなど買えないとこきおろすわけだ。

ところが、何に基づいてこの国別ランキングが作成されたのかは、ほとんど話題にならない。ではここで、幸福度の判定基準となっている6つの要素を紹介しよう。

① 1人当たりGDP
② 社会的支援(「困ったときに頼れる親戚や友人がいますか」という質問への回答で評価)
③ 健康寿命(世界保健機関の100項目に及ぶ健康評価による)
④ 人生の選択の自由度(「人生で何をするかを選択する際の自由度に満足していますか? それとも不満がありますか?」という質問への回答で評価)
⑤ 他者への寛容度(「この1か月間で慈善団体に寄付をしましたか?」という質問への回答で評価)
⑥ 社会(官民を問わず)の腐敗をどの程度と認識しているか

どの指標にもいえることだが、世界幸福度にもさまざまな要素が含まれている。不確かな指標として悪名高いもの(ドルに換算されたGDP)や、文化のちがいがあるために簡単に比較できない回答(人生の選択の自由に対する満足度)もあれば、さまざまな背景を浮きあがらせながらも客観的なもの(健康寿命)もある。

これほど雑多な指標がごちゃ混ぜになっている状態だけを見ても、はたしてこれが正確なランキングになっているのかと疑わざるをえない。

幸福度のスコアは小数点第3位まである!

さらに疑念が深まるのは、マスコミでまったく報じられない点もあること。なんと幸福度のスコアには小数点第3位まであるのだ。たまたま私は2019年に、幸福度ランキングでトップ3の国すべてで講演をする機会に恵まれた。そして、言うまでもないことだが、フィンランド(7.769)の人がデンマーク(7.600)の人より2.2%幸せであるとは察知できなかったし、デンマーク人がノルウェー人より0.6%幸せだとも感じなかった。

とにかく、幸福度ランキングという指標そのものが、実にばかげているのだ。9位のカナダでさえ、1位のフィンランドより6.3%低いだけ。幸福度の指標を構成する要素がもともと当てにならないうえ、いっさいの加重計算(項目ごとの重要度に基づく重みづけ)もせずに単純に計算している。

そのことを考えれば、少なくとも四捨五入して小数点以下をなくすほうがよほど正確で、かつ誠実ではないだろうか(マスコミが騒ぐだけの価値は減ってしまうだろうが)。というより、思いきって国別ランキングの公表をやめて、トップ10か20に入る国名を発表するほうがはるかにいい。

さらに付け加えると、幸福度の高さと自殺率の低さに相関関係は見られない。ヨーロッパのすべての国々で、幸福度と自殺率を比較してみたところ、相関関係がまったくないことが判明したのだ。実際、幸福度の高い国のなかにも自殺率がわりあい高いところはあるし、幸福度が低いとされる国のなかにも自殺率がきわめて低いところがある。

そうなると「北欧に暮らしているお金持ち」という要素のほかに、何が人を幸せにするのだろうか。

その答えのヒントは、幸福度ランキングが意外なほど高く思える国にあり、よく見るとじつにおもしろい事実が浮かびあがってくる。アフガニスタン、中央アフリカ共和国、南スーダンが、156か国のなかで最も幸福度が低いという結果は、残念なことではあるが十分に予想がつく(内戦により、あまりにも長いあいだ国土が荒廃しているため)。

その一方で、意外なランキングもある。メキシコ(麻薬が蔓延し、暴力事件や殺人事件の発生率がきわめて高い)が23位に入っていて、フランスより上位とは。さらには、グアテマラがサウジアラビアより上? パナマがイタリアより上? コロンビアがクウェートより上? アルゼンチンが日本より上? それに、エクアドルが韓国より上とは。

例に挙げた組み合わせの2国を比べてみると、1つのパターンが見えてくる。幸福度では下位の国のほうが経済的に豊かで(はるかに豊かな場合もある)、政情が安定していて、暴力事件が少なく、ずっと暮らしやすい。

幸福度上位の国の共通点

一方、幸福度で上位のほうの国の共通点は一目瞭然。下位の国より貧しく、問題が多く、暴力事件も多発してはいるが、いずれの国もかつてはスペイン領だったため、圧倒的にカトリック教徒が多いのだ。

おまけに、どの国もトップ50にランクインしていて(エクアドルがちょうど50位)、日本(58位)よりだいぶ上だし、中国(93位)よりはるかに上だ。短絡的な欧米人から見れば、中国は幸せいっぱいの買い物客であふれる好景気に沸く国だというのに。

確かにルイ・ヴィトンは中国でたんまり儲けているのかもしれないが、巨大ショッピングモールも、ありとあらゆる情報を収集している共産党指導部も、中国の人々を幸せにできてはいないのだ。内政不安が続き、経済的にははるかに貧しいナイジェリア(85位)の人たちでさえ、中国の人よりも幸せを感じている。

よって、この世界幸福度ランキングから明確に得られた教訓をお伝えしよう。北欧、オランダ、スイス、ニュージーランド、カナダ以外の、どうしてもトップ10に食い込めない国のみなさんは、カトリックに改宗し、スペイン語の勉強を始めればいい。

次に幸福と失業率の関係について見ていこう。

そもそも失業率をはじめとした経済指標はあまり当てにならないと評判が悪い。というのも、その指標が何を計算に入れていて、何を計算に入れていないのかが、たいてい問題になるからだ。

例えばGDPは、大気汚染、水質汚染、土壌侵食、生物多様性の減少、気候変動といった要素がまったく考慮されていない。どの要素も、環境にさまざまなコストを生じさせているにもかかわらず、だ。

失業の指標もまた大切な要素を考慮していない。アメリカが公表する詳細なデータがその代表格だ。アメリカの経済関連のニュースでよく目にするのは、そうした公式発表の数字だろう。例えば、2019年12月のアメリカの完全失業率は3.5%だった。

ただしこれは、労働省労働統計局が「有効活用されていない労働力」を数値化するうえで利用している6つあるカテゴリーの指標の1つにすぎない。

では、その6つのカテゴリーの指標を数値の小さいものから紹介しよう(2019年12月時点のデータ。アメリカの失業率統計は日本などとは定義が異なる部分がある)。

①1.2%:労働力人口のなかで15週間以上、失業状態にある人の割合
②1.6%:失業し、臨時雇いの期間も終えた人の割合
③3.5%:労働力人口のなかで完全失業の状態にある人の割合(公式の失業率)
④3.7%:完全失業の状態にある人と勤労意欲を失った(求職をやめた)人の合計の割合
⑤4.2%: ④のカテゴリーに、「縁辺労働者」(現在仕事がなく、仕事を求めているが、最近4週間は求職活動をしていない人)も含めた割合
⑥6.7%: ⑤のカテゴリーに、経済的な理由で(フルタイムで働きたいのに)パートタイムで働いている人を加えた割合

こうして見るとわかるように、これら6つの数値にはだいぶ差がある。公式発表される失業率③は、失業者の対象が最も広いカテゴリー⑥の半分ほどの数値でしかない。おまけに⑥は①の5倍以上の数値だ。

例えば、あなたが失業したとしよう。その場合、あなたが引き続き新たな職をさがしていなければ、失業者としてカウントしてもらえないかもしれない。求職活動をやめてしまったら、もう失業者としてはカウントされない場合があるのだ。

だから、いわゆる「真の失業率」にできるだけ近い数値を得たいのであれば、労働市場参加率(生産年齢人口に占める労働力人口の割合)を見なければならない。アメリカでは1950年に約59%で、その後、半世紀ほど上昇を続け、2000年春に67.3%のピークに達した。

ところが、そこから減少に転じ、2005年秋には62.5%にまで下落した。その後はゆるやかに上昇し、2019年末には63.2%になっている。そして当然のことながら、年齢階級別の差は大きい。労働市場参加率がいちばん高いのは35~44歳の男性で、約90%だ。

さて、ヨーロッパの失業率に目を向けてみると、ある国で住民同士がどれほど強い結びつきをもっているか、住民がどれほど個人的に満足しているかなどを、失業率から推測するのはきわめて難しいことがわかる。

ヨーロッパで失業率がいちばん低いのはチェコで、2%と少し。一方、スペインは長年、失業率が高い状態に耐えていて、2013年には26%を超え、2019年後半になっても14%を超えている。その後、わずかに減少したものの、2019年には若者の約33%が失業状態にあった。スペインで就職活動をしている人がこの数字を見れば、暗澹たる気分になるだろう。

ところが、チェコの幸福度はスペインより8%高いだけだ。一方、チェコの自殺率は10万人当たり8人強で、スペインの3倍ほど高い。それでも、強盗事件はチェコのプラハよりスペインのバルセロナでよく起こっているのはたしかだ。

数字をどう受け止めるかは人それぞれ

ではスペインとイギリスを比較すると、どうなるだろうか。強盗事件の発生率を比べると、スペインのほうがイギリスよりわずかに高いだけだ。スペインの失業率はイギリスの4倍も高いというのに。

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さあ、これでみなさんにもいくら失業率だけを見たところで、雇用や失業に関する複雑な現実は把握できないことがおわかりいただけたはずだ。

政府が公表する統計では失業者に含まれても、家族の支援や非公式労働のおかげでどうにか暮らしている人は多い。

それに統計上は完全な就業状態に当てはまるとしても、現状に不満がありながらも転職がむずかしかったりできなかったりする人も大勢いる。

たしかに、数字はウソをつかないだろう。でも、その数字をどう受けとめるかは、人それぞれというわけだ。