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コロナ後に残る会社と落ちる会社の決定的な差

2020年は、新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックの影響でビジネスの世界が大きく様変わりした。世界中の国々で「ロックダウン(都市封鎖)」が実施され、セクターによってはそれまでの成長戦略が根底から覆された産業も見られた。

同時に、外出禁止令などが出されて、「巣ごもり需要」と呼ばれるまったく新しいニーズも誕生した。それまで大きな成長が見込めなかったセクターが、いきなりビッグビジネスとして認識される事態が起きたわけだ。

そしていま、ワクチン接種が世界中で始まり、世界は「コロナ後」の時代を迎える準備に入りつつある。停止していたビジネスが一気に再稼働を始め、株式市場や債券市場などの金融マーケットでも、コロナ後の世界を先取りしようと動き始めている。

パンデミックでわかった産業構造の地殻変動?

とはいえ、コロナが収束しても、再びコロナ前の世界に逆戻りしてしまうと考える人は少ないのではないか……。都市封鎖や緊急事態宣言下で起きた、産業構造を根こそぎ揺るがすような地殻変動は、コロナ後も続くと考えるのが自然だし、一度始まった改革の波はそうたやすく消えるものでもない。

たとえば、日本で始まった行政や医療現場での「デジタル化」の動きは、ハンコ文化を捨てるぐらいでは収まらないはずだ。感染者の集計にFAXが使われていたことは驚きだったが、今回のコロナ騒動で、日本社会のデジタル化が絶望的に遅れていることに国民が気づいたのは大きな成果だったとも言える。

地方銀行では、いまだに「フロッピーディスク」を使っている企業のニーズに応え続けているところが数多くある、といわれる。にわかに信じがたい話だが、スーパーコンピューターは世界一でも、産業界全体を見れば、いまだに発展途上国以下のデジタル化しかできていない現実を知ることになった。

コロナ後の世界には戻らないことを前提にした場合、今後の産業界はどんな展開になるのか。パンデミックで変化が求められるビジネスについて考えてみたい。

 

では、コロナでの勝ち組とはどんな業者や企業だったのだろうか。アメリカのナスダック市場に上場されているハイテク企業の多くが「勝ち組」とされたのは周知の事実だ。ナスダックに限らず、ハイテク産業の多くがロックダウン中の世界では大きく注目を集め、業績も伸ばした。いくつか具体例を出すと次のようになる。

●アマゾン・ドットコム……2020年の売上高は前年の2805億ドルから3860億ドルとなり、株価も史上最高値を更新。2021年の業績予想でも4740億ドルの売上高が予想されている。改めてネット販売業の強さを示した

●ズーム・ビデオ・コミュニケーション……2020年の売上高は前年の4倍となり、2021年も40%超の増収を見込んでいる。日本でも、Zoomを使ったビジネスが定着しつつある

●ドアダッシュ……宅配サービスの大手。2020年10~12月期は前年同期比3倍の注文件数。12月に上場したばかりだが、株価は一時急騰した

●ショッピファイ……中小企業向けクラウドベースのプラットフォームを提供する独自のオンラインショップ。同じような業態の日本の「BASE」にも大きな注目が集まった

●テスラ(TSLA)……EV(電気自動車)のパイオニア。このところのアメリカの長期金利の上昇で株価は3割下落したが、コロナ禍によって世界中が「グリーン化」を目指すなかで、その象徴的な存在となっている

3つの大きなキーワード

今回のコロナによるパンデミックで起きた産業界の地殻変動には、3つの大きなキーワードがあるといわれている。

① IT(eコマース)化
② デジタル(DX=デジタルトランスフォーメーション)化
③ グリーン化

都市封鎖や外出自粛の期間が続いた影響で、インターネットによるリモートワークや会議が当たり前の時代になった。ネットを使った通信販売=eコマースなども大きくその需要を伸ばした。

たとえば、長期にわたるロックダウンを経験したイタリアの銀行「メディオバンカ(Mediobanca)」は2020年1~9月期の多国籍企業160社を調査した結果を発表しているが、その業種別売上高を見ると以下のようになっている(前年同期比)。

●インターネット  +18.4%
●大規模小売  +8.8%
●IT  +5.7%
●ファッション -21.3%
●航空  -30.6%
●エネルギー  -32.3%

大規模小売というのは、スーパーマーケットなどが好調だったことを物語っている。イタリアのような都市封鎖がきちんと実施された国の場合は、やはり「勝ち組」と「負け組」の差がはっきり出た、といっていいだろう。

ちなみに、アメリカの業種別の株価指数を見ると、S&P500指数の業種別騰落率は昨年末の段階では「情報技術」「一般消費財」「コミュニケーション」が20%を超える値上がりを示し、逆に「エネルギー」などが大きなマイナスになっている。

しかし、コロナ後が見えて来た現在、原油価格の上昇によって、エネルギーのセクターは大きく回復している。原油価格の上昇とともに、将来のインフレ期待から長期国債の金利が上昇。相対的に買われすぎていたハイテク株などを中心に、株価は一時的に大きく下げている。

日本の「勝ち組」「負け組」は?

一方、散発的な緊急事態宣言の発令によって、緩いコロナ対策を実施してきた日本はどうだったのか。日本では、パンデミックの影響を受けた業種といえば、真っ先に思い浮かべるのが「飲食業」や「観光」「運輸」といったサービス産業だ。

経済産業省の「サービス産業動向調査」によると、2020年12月の「売上高」は惨憺(さんたん)たるものだったといっていい。この2月26日に公表された速報によるとつぎのようになる(カッコ内は20年12月の前年同期比)。

●サービス産業全体……11カ月連続のマイナス(-7.4%)
●生活関連サービス業、娯楽業……70カ月連続のマイナス(-19.5%)
●運輸業・郵便業……15カ月連続のマイナス(-12.3%)
●宿泊業・飲食サービス業……11カ月連続のマイナス(-26.5%)

注意したいのは、サービス業全体がすでにコロナが始まる前から、売上高減少の波にのまれており、そこにコロナが拍車をかけた構図といえる点かもしれない。ちなみに、同じく経済産業省の「商業動態統計」の「業種別商業販売額」の前年比を見ると、不振だった2019年に続いて2020年はさらなる試練の年になったようだ。とりわけ、卸売業ではその影響の大きさがわかる(カッコ内は2019年の対前年同比)。

●商業計  -9.5%(-2.5%)
●卸売業  -12.2%(-3.6%)
●小売業  -3.2%(+0.1%)

要するに、コロナによってモノやサービスが10%程度売れなくなった、と考えていいだろう。財務省の「法人企業統計調査」でも、2020年は売上高が前年同期比でプラスになっているのは、製造業ではほぼない。非製造業でも不動産、情報通信業ぐらいしかプラスになったセクターはない。少なくとも日本企業では大半の企業がコロナの影響をまともに受けたといっていい。

 

もっとも、株式市場などの金融市場は、日銀による大規模な金融緩和やETF(上場投資信託)買い、そして世界的な株高現象を背景に上昇し続けている。たとえば、業種別の株価動向で見ると、3月19日現在で業種別指数ランキングではトップの海運をはじめとして、通信、陸運、電気機器、その他製造、非鉄・金属などがいずれも80~100%近い対前年比を示している。株価が2倍近くになった業種が多かったわけだ。また業種中最も低い電力でもプラス圏にあり、株価だけでは勝ち組、負け組ははっきりしない。

 

さて問題はワクチン接種が進み、コロナ後が見えてきた現在、コロナ禍で勝ち組となった企業がそのまま高い成長力を維持していけるのか。逆に、コロナで大きく業績を悪化させた企業は、コロナが収束すればまた元の業績に戻ることができるか……。

株式市場ではコロナ後が見えて来た段階で、それまでの流れが大きな変化を遂げている。とりわけ、アメリカでは20年ぶりの大差で「バリュー株(割安株)」が「グロース株(成長株)」をリードしていると報道された。

アップルやアマゾンといった巨大なハイテク企業が、これまでずっと自動車とか鉄鋼、素材と言ったバリュー株を上回って上昇してきたトレンドが、ここにきて逆転した。

バリュー株の中でも、とりわけエネルギーや金融、ヘルスケアが買われているといっていい。その背景にあるのが、アメリカの長期金利の上昇だ。ハイテク銘柄の多くは、コロナ禍の中で買われすぎになっており、「金利上昇→株価下落」の連想から売られやすくなっており、コロナで買われすぎている株は当面売られることになるかもしれない。

問題は、コロナで成長の原動力となったIT、デジタル化、グリーン化といったキーワード関連の企業が、今後も高い業績を上げられるかどうかだが、コロナの収束の仕方によって、そのシナリオは微妙に変わってくるかもしれない。

いつまでも、ロックダウンが散発的に実施されるような事態が続けば、再びコロナで成長した企業が注目される。現に、フランスはここに来て再びロックダウンに入っている。実際に、キーワード別にビジネスの変化を見てみよう。

IT戦略やデジタル化が肝に

IT(eコマース)化

人の流れを止めてしまったコロナによるパンデミックでは、生活必需品を販売するスーパーやコンビニなども含めて、ビジネスの形態が大きな変化の兆しを見せている。たとえば、無人店舗の積極的な展開が目立つようになってきた。セブン-イレブン・ジャパンは、2025年末までに全国1000カ所に無人販売所を配備すると発表しているし、NTTドコモもITや5Gを使って、あらゆるモノがネットにつながるIoT(モノのインターネット)機器を搭載した自販機などを駆使した無人店事業に乗り出している。人手不足の解消という狙いもあるが、コロナ禍によってその動きが加速されたとみるべきだ。

ZARA(ザラ)といったアパレル大手も、巨大スタジオの新設などを通して電子商取引へのシフトを鮮明にしている。小売りの世界では、もともと既存のビジネススタイルだけでは生き残れない兆候が表れていた。そこに現れたコロナ禍は、既存のビジネススタイルからの脱皮を後押しすることになったわけだ。

ただ同じ業種の中でも、今後はこうしたIT戦略やデジタル化に乗り遅れてしまう企業と、時代の先を読んで変化に対応できる企業との格差が明確に出て来ることが予想される。たとえば、アマゾン・ドットコムなどはコロナの前から無人店舗の開発に乗り出していた。

デジタル(DX)化

コロナ禍によって日本のデジタル化の遅れが目立ったが、企業間の競争の世界ではデジタル化の遅れが命取りになる。アメリカでも、今回のコロナ禍によってデジタル化関連企業が注目された。

ズーム・ビデオ・コミュニケーションなどが代表的なものだが、それ以外にも電子サイン認証の「ドキュサイン」、金融サービスやマーケティングサービスを提供する「スクエア」などは業績を伸ばした。

日本国内でも、金融のデジタル化をつき進めたロボアドバイザー活用の全自動資産運用サービス提供会社の「ウェルスナビ」、先にも触れたが個人や小規模事業者向けECプラットフォームの運営会社「BASE」といった新興企業が、コロナ禍では大きな注目を集めた。

既存の勝ち組企業でさえも、デジタル化の波に遅れれば負け組になる可能性がある。コロナによるパンデミックは、ビジネスにおけるDX化が不可欠であることをあらためて教えてくれたとも言える。

日本のデジタル化は中国や韓国にも引き離されている

ちなみに、日本では政府機関のアナログ化がさまざまな形で露呈した。感染症対策にも大きな影響を及ぼしており、ある意味で日本の経済成長を妨げているレベルであることがはっきりした。菅政権は、今年9月にもデジタル庁を創設して行政のデジタル化を推進しようとしているが、行政だけではだめで裁判などの司法の世界でもデジタル化を進める必要がある。すでに、中国や韓国にも大きく引き離されている。

せめて、日本経済の成長を妨げないレベルにまでデジタル化を推進させなければ、日本経済の遅れはますます目立つことになる。

グリーン化

新型コロナウイルスによるパンデミックが発生した原因のひとつに、気候変動があることは周知の事実だ。気候変動によってロシアの凍土が解凍され、未知のウイルスが一斉に地球上に出て来るという説もある。

そんな中で急速に関心が高まっているのが、経済の「グリーン化」だ。グリーン化とは、単純に考えれば「脱炭素化」のことだが、日本ではコロナと脱炭素化を同列に考えるのは一部の企業だけのようだ。

 

アメリカのトランプ前大統領が、脱炭素化に後ろ向き政策を続けた影響も大きい。感染症は、人類の活動範囲が拡大して野生動物との接触が増えることで、生態系が崩れて発生するメカニズムを持っていると指摘されている。新型コロナウイルス対策と同時に脱炭素化を進めていかなければ、今後も人類は延々と新たな感染症と戦い続けなくてはならない。

BIS(国際決済銀行)は2020年1月に、気候変動に関するレポート「グリーンスワン」を発表し、今後最大18兆ドル(約1900兆円)の「座礁資産(Standed Asset)」が気候変動によって棄損すると警告。フランスの銀行のビルロワドガロー総裁も、ECB(欧州中央銀行)は2.4兆ユーロ(約310兆円)の保有資産を脱炭素化に向けて拠出するべきだとコメントしている。

コロナ対策と脱炭素化への投資はセットにして進めなければいけない――というのが世界共通の認識になっている。そんな中で、デジタル化、グリーン化の両方で世界に後れを取ってしまった日本では、菅政権がやっとグリーン化への道筋を表明した。

日本は、福島原発の事故を機に大きくグリーン化に向けて舵をきれる絶好の機会を逃してしまった。既存の産業や既得権益者の就縛から逃れられなかったのは政治の責任だろう。

たとえば、日本の製造業の中核に位置する自動車産業ひとつにしても、クルマは製造、走行、破棄のすべての段階でCO2を大量に消費するといわれており、自動車産業自身も製造過程のエネルギーを再生エネルギーに転換していかなければ生き残れないといわれる。日本ではクルマを生産できなくなる、という指摘もあながちオーバーではない。

金融セクターでも投資先の脱炭素化が必須

コロナ後の産業構造の大きな変化のひとつが、脱炭素化であり、グリーン化経済への転換というわけだ。たとえば、銀行などの金融セクターでも投資先の脱炭素化が必須項目になってきており、SDGs=持続可能な産業社会やESG(環境、社会、ガバナンスへの取り組み)に向けた投資ができる金融機関と、できない企業の格差が拡大していくことになる。

衣料販売店大手の「丸井グループ」は、デジタル化を活用してCO2排出削減を目指す事業に取り組み始めた。2020年9月からスタートさせた電力契約の申込サービスだ。

スマホを使って電力の検針票を撮影、自分の名前や住所などを画面で確認するだけで、再生可能エネルギー由来電力へ申し込める。

デジタル化、グリーン化双方を見据えた未来志向型のビジネスといっていいだろう。こうした取り組みを先取りして推進できるかが、企業存続のカギになるのかもしれない。

コロナ禍の中で、気の早い金融市場は次のステージにシフトする準備を進めている。しかし、現在世界中で打たれているワクチンも、半年後も有効かどうかさえもわかっていないのが、現在の「COVID-19」の実態だ。

株式市場では、グロース株からバリュー株へのシフトが始まり、ハイテク株が売られる状況が続いているが、いまだに世界中で1日当たり50万3467人(3月19日現在、ロイター)の新規感染者数が発生している状況では、まだまだ景気回復を望むには次期尚早といっていいだろう。ワクチン接種が進むアメリカでもいまだに1日当たり5万5591人(直近7日間の平均値、同)が新規に感染している。

コロナ後を考える以前に、いまをどう生き残っていくのかが問われそうだが、コロナ禍を生き残っていくノウハウこそコロナ後の世界にも通用する、と考えたほうがよさそうだ。デジタル化、IT化そしてグリーン化というキーワードを生かした次世代を意識したサバイバル法が大切ということだ。

Z世代の感性と価値観がカギに

たとえば、コロナで勝ち組となった企業も、今世紀の主流となるビジネスになれるのか……、今後の時代の変化にきちんと対応できるのか……、きちんと見極める必要がある。巣ごもり需要で業績を伸ばしたとされるゲーム産業の場合、現在のゲーム業界の活況さはコロナというよりも「Z世代」の成長が追い風になっている、と考えるほうが大きいのかもしれない。

Z世代というのは、生まれたときからPCやスマホがあって、物心ついたころからGoogle検索ができた、現在16~26歳程度の若者世代のことだが、ファッションやグルメなども独特の感性と価値観を持っている。こうしたZ世代をターゲットとしたビジネスこそ、コロナ後の世界に通用するビジネスとも言えるし、今世紀の主役になる可能性を持っている。

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日本では、デジタル化、グリーン化で大きく後れを取ってしまったが、その背景にはさまざまな要因がある。社会全体が安全で、現状に対する満足感が高い。しかし、そうした国民性もZ世代などの台頭で徐々に変化していく可能性が高い。

コロナ禍による経済の影響は、これからが本番という見方もある。世界中の中央銀行が、規制緩和やゼロ金利政策によって経済の落ち込みを支えたが、今後は財政基盤が脆くなった国の通貨暴落や財政破綻、金利上昇による株価暴落などなど、さまざまなシナリオが考えられる。

そんな中で、企業がどうやって生き残っていくのか……。いま、世界中の企業が直面している問題であり、とりわけ日本は財政上の懸念が他の国よりも一段と大きい。コロナ後の世界を生きる準備をしなければ、どんなに大手の企業でさえも消し飛んでしまう危うさを世界は抱え込み始めている。