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ジム・ロジャーズ「20年先はドルより人民元だ」

今回はジム・ロジャーズ著『大転換の時代 世界的投資家が予言』(プレジデント社)から、今後「米中貿易戦争」がさらに激化した場合の「資産の守り方」について考えていきたいと思います。

米中の「貿易戦争激化」は必至

ロジャーズ氏は言います。「今、世界的に多くの国々が門を閉じ始めている。これは世界経済に悪影響を及ぼすと私は予想している。(中略)何か悪いことが起きるとき、外国人のせいにするのは最も簡単な方法なのだ。世界の国々の鎖国政策はこれから数十年続くだろう」

アメリカの前トランプ政権が中国の動画アプリであるTikTokについて利用禁止にしようと動いたことは、みなさんもご存じでしょう。現バイデン政権下でどうなるかは引き続き注目ですが、米中の覇権争いは収束するとはとても思えません。

歴史上、貿易戦争から戦争を免れなかったケースはいくつもあります。

「1941年にはアメリカによって日本の海外貿易はほぼ不可能な状況に陥った。(中略)日本の真珠湾攻撃は、アメリカの輸入規制に対する誤った反応だったと言える。だが当時の日本人は、貿易の規制は宣戦布告だと思い込んでいた。戦争は些細な理由から始まるものだ。すでに貿易戦争は始まっていて、それがいつか銃を使った戦争にエスカレートする可能性がある」

ロジャーズ氏は、コロナショック後の米中の「罵り合い」や「香港問題」が今後、戦争の原因の1つになりうると懸念しています。過去のベトナム戦争やイラク戦争などでも、結局は根拠が必ずしも明確でない理由を作って戦争が始まっているからです。

アメリカの政権が変わったこともあり、中国側の反応も今のところは意外に冷静です。しかし「アメリカから何度も『ストレートパンチ』を顔面に食らい続ければ、中国も静かにし続けてはいられない」とロジャーズ氏は言います。

私たちは引き続き米中対立を見守る必要があります。当然のことながら、資産運用をする際にもそれを考慮に入れて投資対象を選ぶ必要がありそうです。

万一の際に備えて資産は安全通貨へ

「もし戦争が起こったら、資産は安全通貨に入れておくべきだ。戦争時は政府が金融資産などを封鎖する傾向がある。その場合は他通貨に交換したり、海外に送金するのが不可能になる。そうしたことをする可能性がある国の通貨で資産を預けてはいけない」。

もちろん現在はグローバル経済時代なので昔と比べれば、特に先進国では預金封鎖のリスクはかなり低いとは言えます。そんなことをすれば、外国からの投資が呼び込めなくなるからです。

しかし、国や通貨を間違えると、資金を外に出せなくなったり、最悪の場合は手持ちのお金が全部消えるリスクもあるとロジャーズ氏は言います。途上国では国によっては米ドル預金に対して高い金利をつけている国もありますが、それはカントリーリスクと言えそうで、うっかり手を出してはいけません。

「預金封鎖をした国が勝てば資産価格は戻るかもしれない。だが、勝者の国に投資していなければ意味がない。中立的な国、あるいは戦争に関係のない国に資産を置いておくべきだ」

スイスなどはプライベートバンクとして数百年の歴史があり、戦争が多かった欧州で富裕層の資産を守ってきた経緯があります。香港が中国の影響を受けているため、今はシンガポールなどもアジアのスイスのような地位を獲得しつつあります。

「ただし、もし戦争が起こらなかったとしても、日本でも銀行口座の封鎖リスクは十分存在する。国の債務が爆発的に増え、人口減少に歯止めがかからないなか、日本にさまざまな危機が想定されるからだ。日本政府は国を支配したがり、国民は政府に従う傾向があるからだ」

世界を知ると、国際的に開かれたシンガポールやスイスなどと比べると、海外送金等をしづらくしている国も多くあります。日本も決して海外送金がしやすい国ではありません。日本人でも本当の富裕層は、万一に備え、円の銀行預金だけではなく、米ドル、金、海外も含めた不動産などを保有するなどの分散投資をしている人が少なくありません。

ロジャーズ氏は、アメリカの政治や先行きに関してかなり悲観的ですが、それでもまだ大量の米ドルを保有していると言います。世界の投資家はまだ米ドルを安全資産として見ており、基軸通貨としてのドルは当分続くと考えているからです。しかし、20年後を考えるなら米ドルよりも人民元を選ぶと言います。

「もし人民元と他通貨と変換が自由になれば、当初は中国から資金を持ち出したい人々が売って、別の通貨に変えるだろう。つまり、人民元安になる。しかしそれは短期的で、それが収まれば、その後は私のように中国に投資をしたい人たちが殺到すると予測する」

一方、香港に関しては、治安面などでの不確定要素がある限りは都市としての魅力をさらに失い、人の流出は避けられないと言います。そのいっぽうで中国本土への投資は衰えず、今後は再び上海の時代が到来し、香港は残念ながらエキサイティングな都市ではなくなる、と断言します。

今こそ資産を海外に分散すべきだ

ただし、ロジャーズ氏は世界のブロック経済化が進む中でも「今こそ資産を海外に分散すべきだ」と言います。矛盾があるように聞こえますが
なぜでしょうか。

「海外に移せば資産防衛になるだけでなく、国内ではお目にかかれないようなさまざまな投資商品に巡りあうことができる。それは大きなチャンスでもあるのだ」

世界の富裕層の多くは、お金の置き場や投資対象などをつねに分散させています。例えば日本にしても、現段階でお金を自由に動かせなくなる日が来る可能性は今のところゼロに近いかもしれません。しかし日本も含め、数十年後にはそうした事態が起こりうるとロジャーズ氏は言います。

もちろん海外投資と言っても、詐欺的な商品もあるために十分に注意が必要です。初心者は、手始めに日本語でも利用できる外資のオンライン証券などでETF(上場投資信託)を売買するなどして練習を始めるのもいいかもしれません。

新型コロナという予想もできないショックで世界中が翻弄されたように、今後も予測不可能な危機は度々起きそうです。自分の資産や家族を守るためには、資産分散などを今から始めたほうがよさそうです。