スクールへ参加しても“稼げていない”という悲惨な現実
3年くらい前からプログラミング技術をマンツーマンで習得するスクールが増えています。自分専用のインストラクターと対面で学習する方法もあれば、オンラインツールを使って学習する方法もあります。
マンツーマン学習を得意としているプログラミングスクールは、オンラインで教材だけを提供している学習サイトと比較すると、参加費が高額になる傾向があります。例えば3カ月コース、6カ月コースで30万円というところもあれば、80万円、100万円というところもあります。とくに最近注目されることの多い、AIや機械学習、データサイエンスに関する学習コースは、より高額になっています。
将来の収入不安から、IT関連企業へシステムエンジニアやプログラマー(以下、SE・PG)として転職を考えている人、プログラミングスキルを身に付けて「場所と時間と収入」の自由を手にするため「独立」を考えている人が増えており、これらの目標を持った人たちが、一日でも早くスキルを身に付けるために、高額なプログラミングスクールに通う傾向が強いのですが、たいへん残念なことに、学習を修了しスクールを卒業された後、自分たちが思っていた状態に到達できないという話を聞くことがしばしばあります。
具体的には、以下のようなケースです。
・転職活動しても採用されないので稼げない
・無事に転職できたが激務が待っていて収入と合わない
・すぐに辞めてしまって稼げていない
・フリーランスとして独立したけれど仕事がないので稼げない
要するに「転職前や退職前よりも収入が激減した」ということです。
私のまわりのエンジニア仲間も、自分たちがスクールで教えた生徒さんが、なかなか転職できないことや、転職してもプログラミングさせてもらえなかったのですぐに辞めてしまったことなどの話をよく聞くそうです。
プログラミングスクールの卒業生の中で、転職や独立を考えていた人のうち、どのくらいの割合が成功しているのかを第三者機関が分析しているわけではありません。そのため、裏付けのある論理的な数字を提示することはできないのですが、まわりで聞く話やインターネットでの発言を見る限り、「70%の人は成功できていないのではないか」と私自身は感じています。
転職できない、仕事がないのは「スクールの学習内容」が原因
プログラミング技術を頑張って勉強しても転職できない。独立しても仕事がない。転職しても収入が激減した。こういったことになる理由は、スクールの学習内容にあると考えています。
というのも、スクール学習で参加者に伝えられることの大半は、プログラミング技術の基礎である「コードの書き方」だからです。
多くの場合、スクールは課題を用意し、参加者はレッスン中や、次のレッスンまでに課題を解決します。わからないことがあると担当インストラクターへ質問し、解決まで導いてもらいます。この学習が終わると、参加者自らが設計して作る「アプリケーション開発」を行います。
スクールが準備しているカリキュラムとしてはよくできているのですが、実のところ、こういった「すでに用意された課題」を解決するスキルだけでは転職や独立するのは難しく、仮に転職しても独立して仕事を獲得しても収入が減るケースが多いといえます。
そして、プログラミングスクールに通う人が勘違いしがちなのは、以下のようなことです。
(1)プロとアマチュアで求められるものは違う
どの業界でも、プロとアマチュアでは求められることが違います。
例えばミュージシャンの場合、プロの現場で求められることとアマチュアバンドで求められることはまったく違います。この違いは現場に入っていないとわからないため、アマチュアがいくら自宅やスタジオで練習し、卓越した技術を身に付けたとしても、プロからは「よく練習しましたね」と評価されるだけで、プロの現場で通用することはありません。もしアマチュアがプロの現場で通用できるようになろうとすると、プロから教えてもらうしかありません。
おそらく、皆さんが勤めている職場でも、同じことがいえると思います。そしてIT業界のSEやPGにも、まったく同じことがあります。
SEやPGが現場で求められることは、最新技術を使いこなすことやコードを暗記することではありません。「決められた納期までに安定して動くものを作る」ことが最優先になります。アマチュアの場合、難しいことができたり知っていたりすると自慢できるので楽しいですが、プロの現場では「納期」「わかりやすい」「安定動作」を求められるのです。
技術と同じくらい大切なコミュニケーション
(2)技術だけでは仕事はできない
プログラミングスクールに通う人の中には、次のようなイメージを強く持っていることが多くあります。
「システムエンジニアやプログラマーって、人と接しなくていいんですよね?」
人と話をすることが苦手だから、コンピューターだけを相手にしていられる職業を選んだという方です。確かに、コンピューターを相手にしている時間は、ほかの職業よりも圧倒的に長いです。最低でも1日8時間、残業があると12時間以上パソコンに向き合うこともあります。
だからといって、人とのコミュニケーションがゼロになるかというと、そんなことはありません。SEやPGという仕事は、コンピューターを相手にしてプログラミングや資料作成をしていますが、手を動かす前には「ミーティング」を行い、メンバーとコミュニケーションを取る必要があります。
また、仕事で大切だと言われる「報告、連絡、相談」も必要です。しかし、こうした地味なスキルの重要性がスクールでは教えられていません。
転職の面談も、独立して仕事を請け負うときも、スムーズにコミュニケーションができないと選ばれる確率はグンと下がります。これは私が会社員時代に面談をしていたのでわかりますし、個人事業主になってから仕事の依頼をいただく場面を経験することからも言えることです。
(3)仕事の設計書はクイズではない
プログラミングスクールで学習しているときは、「クイズ形式」で課題を解決していくことが多くあります。しかしSEやPGとして仕事をするとなると、手渡される設計書はクイズ形式ではなくなります。そもそも設計書はありますが、唯一の正解というものがありません。そのため、設計書に書かれた文章や図を丁寧に読み解くコツを知っている必要があります。
とくに未経験者から転職した人や独立した人が困るポイントは「設計書の意味がわからない」ということ。本来ならスクールで学習をするときに、現場で使われているものに近い、ある意味「雑な設計書」に慣れておくことも大切です。しかし、そういった設計書を使って学習を進めるスクールは極めてまれです。
スクールに参加して成功する人の特徴
プログラミングスクールに参加し、転職や独立に成功する人の特徴として、私は次の5つの点があると実体験から感じています。
・学習する目的(転職または独立)が最初から明確である
・目的に合わせた基礎スキルにフォーカスして学習を継続できる
・連絡や質問のレスポンスが速い
・自分の得意な業務知識がある
・良い質問ができる(コミュニケーション力でもあります)
ITエンジニアとして転職や独立を目指す場合、どうしても技術習得ばかり目がいってしまいます。しかし、少し冷静に考えるとわかりますが、転職や独立を成功させるためには、誰かとコミュニケーションを取り、必要な存在だと思ってもらわなくてはいけません。技術だけ身に付けたとしても最初の扉を開くことができないので、失敗することになります。
ITエンジニアとして転職や独立を本気で考えているのなら、スクールでの技術学習と一緒に、社会人としての「基礎的なマナー」や「得意な業務知識」を身に付けることを進めましょう。
「基礎的なマナー」はともかく、「得意な業務知識といっても……」と戸惑ってしまう人もいるかもしれません。
そんな人に、とくに比較的簡単に身につけやすい業務知識としてオススメなのは、まずは社内に蓄積されているデータ分析からスタートすることです。データの特性や分析結果を理解することで、自分の業界の業務知識や特性が明らかになってきます。
たとえば、経理なら売上と経費の過去から現在までの推移を見ることで、利益の伸び率を感覚や経験値だけではなく、「数字」という事実で判断できます。
また、営業や販促業務なら、店舗販売とネット販売の割合を売上データから見つけることで、営業や販促が今後どちらに軸足を置くべきか、テコ入れする部分を明確にすることもできるでしょう。
マーケティング業務なら、売れ筋商品の傾向を分析し、新商品の戦略に生かし展開するときの広告の出し方にも役立てられるはずです。
まずはPythonとExcelを覚えよう
これらのデータ分析をするときに、便利なのが、PythonでのプログラミングやExcel。今ではこのPythonというプログラミング言語や、職場で利用することが多いExcelで、データ分析が簡単にできてしまいます。
これらの機能を覚えていくことで、技術だけで勝負するのではなく「プログラミングスキルを仕事でどう使うのか」がわかり、「技術+業務知識+社会人マナー」という3つの総合力で勝負できるデジタル人材を目指せるようになるのです。
転職や独立を考えている人は、まずはこのように、PythonでのプログラミングやExcelを使ったデータ分析の練習をしてみましょう。
データを活用できるスキルが身に付くことで、転職や独立をせずとも、自分が勤めている会社内で認められ、なくてはならないアイデアパーソンとして尊敬されることになるかもしれませんし、副業などの場面で役立てることができるでしょう。もちろん、収入を増やせるチャンスも格段に広がります。
ぜひ、机上の勉強だけでなく、実践に役立つデータ分析のスキルを身に付けましょう。
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