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USJ「任天堂ワールド」はドン底・大阪を救えるか

「このエリアがやっと開くということで感無量です。今まで夢に見ていた、遊んでいた世界に生身で入れることを楽しんでいただきたい」

ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)を運営するユー・エス・ジェイの山本歩マーケティングコミュニケーション部長は笑顔で熱く語った。

USJは3月18日、任天堂のキャラクターや世界観をテーマにした新エリア「SUPER NINTENDO WORLD」をオープンした。着工は2017年6月。当初は2020年7月の東京五輪開幕までの開業を目標にしていたが、コロナの影響で大幅に延期。大阪府の緊急事態宣言の再発令と解除を受けてようやく開業を迎えた。

マリオの世界をそのまま再現

任天堂のキャラクターなどを生かした施設は世界初で、マリオの生みの親である任天堂の代表取締役フェロー・宮本茂氏が開発に携わった。総工費は600億円超。今年、開業20周年を迎えたUSJにとって、国内外から客を呼び寄せる最重要プロジェクトだ。

新エリアは、ゲーム内でおなじみのグリーンの土管を抜けると、目前に広がるのはスーパーマリオの世界そのもの。クッパ城やピーチ城がそびえ、コインやブロックも並ぶ。キャラクターたちもゲームと同様、生き生きと動き回る。エリア面積は公表していないが、子どもでも十分に回れる広さだ。

大小さまざまなアクティビティーもある。クリボーやノコノコ、パックンフラワーなどのキャラクターが登場するゲームは5つ。うち3つをクリアすると、クッパJrと戦うボスバトルに進める。手首に付ける「パワーアップバンド」(税込3200円)を購入し、USJの公式アプリと連携させるとコインが貯まり、仲間との競争も可能だ。

至るところに配置された四角のブロック(ハテナ・音符など)は、下からパワーバンドで叩くと音が鳴り、マリオのようにコインをゲットできる。スロットマシンや双眼鏡などのアクティビティーもある。

目玉の1つはマリオカートのライド・アトラクションだ。専用のヘッドセットを装着してマシンに乗り込むと、ヘッドセットの映像と現実のコースが錯綜する。並走するキャラクターを攻撃したり、攻撃を受けた際のスピンも体感できる。

見どころはアトラクションにとどまらない。街灯の一部に小さなスーパースターが飾られていたり、ベンチはキノピオのキノコ柄。パイプの一部にクッパをイメージしたトゲトゲがあったり、マリオカートの施設のBGMにゲーム内の曲を使うなど、細かな部分までマリオの世界が再現されている。

ほかにもマリオやピーチ姫に出会うことのできる撮影スポットがあり、カフェやショップではキャラクターをイメージしたメニューやグッズをそろえた。SNS映えもバッチリだ。

アクティビティーを先行体験した女子大生の2人組は終始ハイテンション。「マリオは知っている程度だけど、楽しかった。小さな子どもでも楽しめると思う」と話していた。

マリオで海外にアピール

新エリアは従来と異なる試みでもある。後ろ向き走行のジェットコースターをはじめ、USJは比較的若い世代向けの刺激的なアトラクションが多い。だが、今回はマリオをプレイしてきた親世代と子どもが一緒に楽しむような、幅広い層向けの造りになっている。

ブロックを叩いてキャラクターを倒すゲーム(記者撮影)

また、マリオは海外で日本以上の人気を誇る地域もあるなど、海外に向けた明確なアピールでもある。

山本部長は「任天堂とともに開発し、いろいろなプレッシャーを受けながら、5年以上を要して互いに満足できるものになった。日本が誇るマリオで遊びの本能を開放してもらい、元気になってもらいたい。また、マリオは海外の人気が高く、アジアや北米でも人気がある。海外の方にも存分に楽しんでもらいたい」と語る。

期待を寄せるのはUSJだけではない。提携するホテルの関係者も「USJはわれわれにとってものすごい観光資源。USJと買い物を目的に短期で来日するアジアからの訪日客も多かった。新エリアも大いに期待している」という。

実は、大阪は観光が全国で最も冷え込んだ地域なのだ。2020年の宿泊数は前年比約64%減。インバウンド客は消失し、コロナ感染者数は多く、GoToトラベルの恩恵も受けられなかった。しかし、緊急事態宣言が解除されて今後は回復局面に入る。その際、屈指の観光資源であるUSJの盛り上がりが欠かせない。

USJはこれまで、強気の値上げを繰り返しつつも、順調に入園者数を伸ばしてきた。2013年に1010万人と大台を突破した後も伸び続け、2019年には1450万人となった。

巨費を投じた任天堂エリアの開業により、潜在的な集客力はさらに増したはず。現在は1日の入園者数を1万人以下に制限して営業しており、新エリアも当面は制限を設けて営業する。コロナ禍を経て本来の実力を発揮できるのはいつになるか。マリオたちも、その時を今か今かと待ち構えている。