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企業や飲料も「ダウンサイジング」が進む必然

緊急事態宣言の延長、コロナ禍の長期化が続くなか、日本の社会にダウンサイジングの波が押し寄せている。その象徴が大企業、有名企業の本社ビル売却だ。電通、JT(日本たばこ産業)、エイベックス、日本通運と名だたる企業が売却を発表、もしくは検討中だという。

このうち日本通運は港区の本社ビルを売却して、千代田区に建設中の新社屋に移転する計画だが、2020年12月期連結決算で過去最大の1595億円の赤字となった電通は東京・汐留にある現在の本社ビルを売却後、同ビルをグループで賃貸し、本社機能そのものは移転しないと報じられている。

いわゆる「セールアンドリースバック」だが、その背景にはスリム経営、経営資源の集中がある。広告市場縮小による業績悪化に加え、コロナ禍で在宅勤務が主流となるなか、オフィス面積を縮小し、売却で得た資金を事業の構造改革に充てようという狙いがあると見られている。

本社機能の移転または縮小の検討

本社機能の縮小については、注目のアンケート結果がある。国土交通省国土政策局の「企業等の東京一極集中に係る基本調査」によると、東京に本社がある上場企業(回答375社)のうち、「本社事業所の移転または縮小」を検討している企業は26%(97社)だった。このうちコロナ禍に見舞われた2020年に入ってから具体的に検討を開始したのが14%(52社)あった。

この52社の内訳は「全面移転を検討」35%、「一部移転を検討」17%、「縮小のみを検討」48%。形はともあれ、本社ビル売却や本社機能の縮小が今後も続きそうなことを示唆するデータである。

企業に関していえば、事業の売却・縮小も続いている。資生堂は「TSUBAKI」「uno」などの日用品事業を外資系ファンドに売却すると報じられた。グループ再編を進める日立製作所は日立建機、日立金属の売却検討が取りざたされている。オリンパスはデジタルカメラを中心とする映像事業を国内ファンドに売却した。大企業の事業再編、経営資源の集中化というダウンサイジングが進行中なのである。

ダウンサイジング志向は日常生活の中でも随所に現われている。総務省の家計調査によると2020年の2人以上世帯の年間消費額は月平均27万7926円で、コロナ前の2019年に比べ5.3%の大幅減少となった。

コロナ禍で縮小化が顕著なのが葬儀や法事だ。都内の寺院の住職は、「コロナ禍の前は40~50人の参列は当たり前でしたが、今は10人いるかどうかという状況ですね」と漏らす。

「コロナ禍におけるお葬式の実態調査」(2020年9月 鎌倉新書)によると、約9割の葬儀社がコロナ禍で「参列者は減少した、また今後減少していく」と回答している。葬儀の小規模化は以前から見られていたが、コロナ禍以降は一層進んでいるようだ。

外出自粛要請が続くなか、レジャーシーンでも個人志向の傾向が目立つようになってきた。昨年あたりから話題になっているのがソロキャンプだ。2020年のユーキャン新語・流行語大賞のトップテンにも選ばれた。

山を買ってソロキャンプを始めた芸人・ヒロシがブームの火付け役と言われている。ユーチューブの「ヒロシちゃんねる」は登録者数が107万人(2月19日現在)にも達している。さらには、女子高生が主人公のキャンプマンガ『ゆるキャン△』にもソロキャンプのシーンが登場する。

100均ショップにアウトドアコーナーも

アウトドア市場は1990年代のブーム以来の盛り上がりを見せ、2018年ごろから30~50代男性が牽引役となり、活況を呈しているという。専門店はもちろんのこと、100均ショップにもアウトドアコーナーが設置されているほどだ。

コロナ禍で人気が高まるソロキャンプ(写真:筆者撮影)

ソロでの山歩きが好きな筆者もよくソロキャンプをしてきた。大自然の中で何の束縛も、密もなく、気ままに自分の時間を過ごすことができる。

北八ヶ岳の双子池や白駒池の畔で、ウイスキーのお湯割りをすすりながら、夜空一面に輝く星を眺める。まさに至福のひとときだ。コロナ禍を機に、ソロキャンプに目覚め、その魅力に取りつかれる人たちが増えているのだろう。

もっと身近なシーンでも個人向けの現象が進んでいる。巣ごもり需要でおひとりさま用の小鍋が人気化していることに加え、ペットボトルにもダウンサイジング志向の傾向がみられるという。

飲料業界関係者はこう指摘する。「企業を訪れると面談時にお茶やコーヒーを出していただきますよね。コロナ禍以前は、ひと手間かけて茶碗、カップ、グラスに注いだものが出てきましたが、コロナ禍以降は小容量のペットボトルを出す会社が増えているんです。お茶の用意や後片づけの手間が省けるのはもちろんですが、衛生意識の高まりが最大の要因です。

小容量化するペットボトル(写真:筆者撮影)

2020年6~12月のサントリーの『伊右衛門 お茶どうぞ』(195mℓ)の出荷数量は、前年同期の約3倍となっています。同様に『サントリー天然水』280mℓペットボトルも出荷が3割強増えています。

キリンは『やわらか天然水』(310mℓ)が昨年は年間で前年超え、12月単月では前年同月比25%増と、こちらも好調です。飲みきりサイズの小容量タイプのペットボトル飲料は、カーディーラーやエステ店、美容院などでも導入するところが増えているようです」

今年は、コロナ禍による大学のオンライン授業増加や保護者の経済状況、生活コスト、感染リスク防止などを背景に受験生の地元志向が顕著になっていると指摘されている。上京して有名大学でキャンパスライフを謳歌する時代ではなくなってきている。これも1つの縮み志向だろう。

企業経営から個人のライフスタイルまで、さまざまな局面にダウンサイジングの波が押し寄せている。人口減にコロナ禍が拍車をかけた現象といえそうだが、この先、どんな影響を及ぼすのだろうか。

まず懸念されるのは、大企業の経営効率化に伴うリストラの加速や新規雇用の抑制が進むことだ。すでにコロナ禍による業績悪化でコロナ倒産は1000件に達し(帝国データバンク調べ)、リストラにも拍車がかかっている。しかも、その対象は中高年から30代へと低年齢化している。

経済活動との両立は難しい

こうした動きが加速することになれば、日本の国内経済、消費活動はますます縮んでしまう。医療費圧迫に伴う公立病院の病床削減など、医療態勢の縮小化も懸念されるところである。

一方、個人レベルでの縮み志向は、孤立化というネガティブな側面もあるが、従来の価値観の見直しにつながる可能性を秘めていると思う。ひとりで過ごす時間が増えることで、SNSに費やす時間だけでなく、映画、書籍をはじめとするコンテンツに触れる機会が増え、インプットが増大する。

家族と触れ合う時間も増える。その過程において、個々人がライフスタイルや人生、働き方などを顧みるようになれば、新たな思考、行動様式が生まれてくる可能性がある。会社や学校という集団から距離を置くことで、個としての可能性について思考し、これまで目を向けてこなかった地元・地域に軸足を置いたコミュニティーへの参加という形が出てくるかもしれない。

従来型の価値観、意識が変容していくなかで、東京一極集中のなかでの組織・集団依存的なライフスタイルからの脱却という選択や、個人の意思表示としての選挙投票への参加というアクティブな動きにつながっていくかもしれない。日本が成長から成熟へと舵を切る時代に突入するシナリオの可能性だ。

もちろん、これらは筆者のあまりにも楽観的な理想論にすぎないかもしれない。むしろ逆に、100年前のスペイン風邪の大流行、終息後に、世界の主要国が不況下でブロック経済化に走り、第2次世界大戦へ突き進んだような悪夢が訪れる可能性も否定できない。

ダウンサイジング志向で大きな転換期に

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大規模な戦争はともかく、地域衝突・紛争の増加や資源・食料の地球規模での争奪戦など、ブロック化やナショナリズムの高まりによる弊害が顕著になってくる恐れは十分にある。国連や関連機関の存在感が乏しい現状では、国際的な調整力や抑止力は期待できそうにない。

ともあれ、少子高齢化・人口減が進んでいく日本社会は今後、総体として確実に縮んでいく。コロナ禍によるダウンサイジング志向、縮み化現象は、国にとっても、企業にとっても、そして個人にとっても、かつてない大きな転換期となる予兆なのではないだろうか。