脳は文字を4時間で50%忘れる
体全体に占める脳の重さは体重の約2%にすぎません。しかし脳が消費するエネルギーは体全体のエネルギーの約25%、つまりおよそ4分の1にも及ぶのです。
何かを覚えるという作業は脳にとって、とてもエネルギーを要する仕事なのです。ただでさえ大量のエネルギーを消費するところにもってきて、さらに働かされたら脳にとってはたまったものではありません。
脳研究者の池谷裕二氏によると外からの情報、例えば目に見えるもの、聞こえるもの、香り、手触り等々、それらを漏れなく脳が記憶していくとしたら5分以内に限界になると著書の中で紹介しています。
そんなわけで脳はできるだけ、ものを覚えないようにしているのです。要するに脳は省エネ思考でできているというわけです。そこで、節約家である脳はよりエネルギーを要する「文字」の吸収をとにかく嫌がるのです。
そうはいっても文字や文章をまったく覚えられないことは当然ながらありません。仮にそのままの形で覚えたとしたらその記憶はその後どうなってしまうのでしょうか。このことを実験で確かめた研究者がいます。
ドイツの心理学者であるヘルマン・エビングハウス博士は、単語を覚えたときどのくらいの速さで忘れていくかを調べました。すると、仮に10個の単語を何の工夫もせずそのまま丸暗記したとしたら、覚えてから4時間後には半分の5個程度、つまり覚えたものの50%は思い出せないということだそうです。
こんな結果からも文字や文章の形で記憶を保つことがいかに難しいかがわかります。
人類本来の脳を取り戻す読書=「イメージ」で読む
文章を追う読書が内容を覚えることに向いていないのであれば、どんな読書をすれば内容を忘れずに覚えておけるのでしょうか。
実際に世の中には大量の本を読み、しかもその内容を忘れずにいつでも取り出せる膨大な知識を頭の中に保管している人物がいます。そういう人たちに何か質問をすると、まるで見てきたかのように本から得た知識の中から適切な情報を提供してくれます。
今「まるで見てきたかのように」と言いましたが、ここに1つ目のヒントがあります。つまり、人類の脳に適した読書は、「イメージ」で読む読書です。
人類はつい最近に文字を発明するまでの間、どのように世界を捉えていたか。それはすべてイメージでした。視覚で見たイメージ情報をイメージのまま保存し、イメージのまま思考していました。
南アフリカで生まれて世界各地に広がった言語的人類は、なんと6万年以上もの間、文字を持たずに過ごしていました。つまり文字はヒトが生きていくうえで必需品ではなかったということです。
アフリカのサン族の洞窟絵画には、動物を線画のように単純化したものもありますが、文字には発展しませんでした。ヨーロッパのラスコー壁画も、文字を生み出してはいません。要するに人類というのは文字が嫌いでイメージが好きということを物語っています。これを引き継いでいる現代人の脳も当然、イメージが好きというわけです。
例えば何も習わなくても、自然と皆さんのお家の玄関のドアや扉の色や形はすぐ思い浮かべることができるはずです。今、頭の中に国会議事堂を思い浮かべてくださいと言われて「国会議事堂」という文字を浮かべる人はまずいないでしょう。あのニュースや新聞などでよく見る国会議事堂の姿が浮かぶはずです。
また、子どもの頃の思い出などは、何十年もたった今でもありありと頭の中に思い浮かべられるはずです。
記憶の専門用語で言えば、文字や文章による「意味記憶」に対して、このようなイメージによる記憶を「エピソード記憶」といいます。このようにエピソード記憶というのは脳で行われる思考ととても親和性が高く、もはや覚えようとしなくても覚えていられる類いの記憶なのです。
つまり、先ほどの博識の人たちというのは、意図はしていないにせよ、何かしらのきっかけにより、「人類古来の脳を取り戻す」ことで、イメージを中心とした思考で、「忘れない読書」が実現できているのです。
ですから、本を読むときに文字を文字のまま処理しようとするのではなく、文字をイメージ化して読むことで、「忘れない読書」が実現できるのです。
「本をイメージでインプット」する3大メリット
①脳にインパクトを与えて、「一度」のインプットで忘れなくなる
脳の性質として、最初にその情報に接した際にインパクトのある情報は強く記憶に残るということがあります。その点からも文字情報は脳にとってインパクトに欠けるところがあるのでしょう。
しかしこれが、古来から脳機能が優先してきた「イメージ」となると話は違ってくるのです。
原始の人類にとっていちばんの脅威は「生命の危機」でした。つまり生命に関わる情報が脳にとっていちばんのインパクトであったのです。その生命に関わる情報のほとんどは視覚による映像の姿でインプットされます。つまり生命の危機を回避するために脳にとっていちばんインパクトがあり、その結果、強く記憶に残せる情報になりうるのはイメージだったというわけです。
その脳の性質が現代社会のわれわれにも脈々と受け継がれているのです。イメージは文字と比べて6万倍速く脳に伝達されると言われますが、そこにはそんな理由があるのです。よってイメージというものは脳に与えるファーストインパクトがとても強いのです。
インパクトとは脳への刺激。イメージからの刺激はいい意味でも悪い意味でも強く感情を揺さぶります。その中にはもちろん楽しい、面白いというものも含んでいて、だからこそ簡単に刺激を味わえる漫画や映画やテレビドラマなどの娯楽がこれだけの人気を集めるのでしょう。
本を読むときもこの原理を利用しない手はありません。イメージを利用し本の情報のファーストインパクトを強烈にすることによって、1冊の本を何度も読まなくても「1回読むだけで」いつまでも忘れない情報として頭に保管しておけるのです。
②情報量を500分の1に圧縮し、本の内容が100%頭に入る
イメージにすることで本の内容の情報量を圧縮することができます。要するに文字情報をイメージ化するということは、真空にして容積を減らして収納を楽にできる布団圧縮袋のようなものなのです。
情報を圧縮する方法をチャンキングといいます。チャンクとは「かたまり」のことです。このチャンキングの考え方を読書にも応用できれば、覚える負担がかなり減ることになります。そのために必要なのがイメージなのです。
例えば携帯電話の番号なども1個1個の別々の数字として見ると、11個の数字の情報ですが、これを3つのかたまり、◯◯◯・△△△△・□□□□として認識しているので皆さんもよく使う番号を覚えておけるのです。
ほかには、体の健康のためのバランスのいい食材の覚え方「まごわやさしい」や和食の基本調味料の覚え方「さしすせそ」なども情報を圧縮したチャンキングの例です。
まごわやさしい
「ま」……豆類 「ご」……ゴマ 「わ」……わかめ(海藻類) 「や」……野菜 「さ」……魚 「し」……しいたけ(キノコ類) 「い」……イモ類
さしすせそ
「さ」……砂糖 「し」……塩 「す」……酢
「せ」……醤油(せうゆ) 「そ」……味噌(みそ)
例えばこういうふうに考えることもできます。平均的な実用書1冊に使われている文字数は約10万文字。そしてページ数は約200ページです。文字数だけ見ると10万個の情報量です。
しかし、仮に1ページの内容を1つのイメージに変換することができたとしたら、ページ数は200なので、情報量は200個に圧縮できるということになります。
10万から200。実に500分の1の圧縮率です。だからこそ、イメージで読めば、本の内容を100%覚えることができるのです。
自由に取り出せてこそ“記憶”したことになる
③1秒で取り出し可能。必要なときにいつでもアウトプットできる
先ほど紹介した「意味記憶」。これは文章による知識・情報の記憶のことですが、この記憶の性質として、たとえ頭の中に入っていたとしてもその情報を取り出しにくいというのがあります。何かのきっかけがなければ、自由に取り出すことができないというマイナス面があるのです。
その一方、本の内容をイメージの形で「エピソード記憶」として頭の中に入れた情報は自由自在に、それこそ1秒もかからず取り出すことができるのです。
記事の冒頭で読書から得た大量の知識を頭の中に蓄えている博識の人がいると書きましたが、博識であるということはその大量の情報をすぐに取り出すことができるということを意味します。
一概に「記憶」といいますが、心理学的には定義が決まっています。一般的には記憶というと覚えることがメインに思われがちですが、記憶の定義としては、「記銘」(覚えること)→「保持」(覚えておくこと)→「想起」(思い出すこと)。この3つの段階がすべてそろってはじめて記憶として定義されるのです。
つまり何かを覚えたとしても、それを思い出せなかったら、それは記憶したことにはならないのです。
となれば、先ほどの博識の人は大量の情報を覚えて、それを頭の中に保持しており、さらにそれをいつでも取り出すことができる人とも言えるのです。たとえ頭の中には入っていても、取り出すことが困難であればそれは「使える」記憶とは言えません。
自由自在に取り出すことができるので、仕事をはじめさまざまな場面で使える情報として活用することができます。
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