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危機的状況のアパレル業界。打開策はあるのか?

「人出が減って店の売り上げは当然苦しいし、ネット通販も昨年春の緊急事態宣言時のようには伸びていない。この状況が春まで続くなら希望退職で本部人員を減らすことを考えないと」。緊急事態宣言が再発令され外出自粛ムードが続く中、都市部を中心に店舗を構える中堅アパレルの幹部はこう打ち明ける。

2020年末から新型コロナウイルスの感染者数が再拡大し、逆風にさらされているアパレル業界。ユニクロなどの実用衣料を扱う一部の低価格ブランドを除き、多くのアパレル企業の月次売上高は昨年12月から再び大幅な減少に陥っている。

東京商工リサーチの調査によると、2020年に早期・希望退職の募集を開示した上場企業は93社と、リーマンショック後の2009年に次ぐ高水準だった。業種別ではアパレル・繊維関連企業が最多で、18社と全体の約2割に及ぶ。

ワールドは昨年に続き100人を募集

2021年が明けて以降も、アパレル業界では希望退職の募集に踏み切る企業が後を絶たない。

「マッキントッシュ ロンドン」などを展開する三陽商会は1月21日、全社員の約1割に相当する150人規模の希望退職者を募集すると発表。その2週間後の2月3日には、アパレル大手のワールドもグループ会社で100人の希望退職者を募るとのリリースを出した。ジーンズ量販店のライトオンも2月9日、同社として初めて希望退職者を約40人募集すると公表した。

三陽商会が希望退職の募集を行うのは2013年以降で4度目。同社の大江伸治社長は「昨年11月から新型コロナの第3波が直撃し、売り上げへの影響が想定を上回った。来期の黒字化を実現するためには、人員体制の見直しに踏み込まざるをえない」と背景を説明する。

一方のワールドは昨年9月、構造改革の一環でほぼ全グループ会社を対象に約200人の希望退職者の募集を行い、計画を上回る294人の退職が決まっていた。わずか半年で2度目の募集となる。今回の対象は百貨店ブランドの運営を行っている子会社と、直営店のスタッフの管理や店舗開発を担う子会社の2社に限定する。

同社は希望退職と併せて、昨年発表した不採算事業の整理などの構造改革(5ブランド廃止、廃止ブランドの店舗を含めた低採算店約360店の撤退)を追加で実施するとして、百貨店を中心に展開する7ブランドの廃止と約450店舗の撤退を2021年度に行う方針も明らかにした。

ワールドの担当者は「都心の百貨店を中心に客足の戻りが弱く、世の中の変化への対応をより急ぐ必要があると判断した。今後は主力ブランドにリソースを集中させ、生活雑貨などの領域も強化していきたい」と話す。

アパレル企業がこぞって人員削減に踏み切るのは、業界の先行きに対する不安が高まっていることを物語る。コロナ禍で一気に需要が蒸発した航空業界などと異なり、アパレル業界は2020年以前から、消費者の衣料品に対する低価格志向の強まりやカジュアル化が追い打ちとなり、業績悪化に苦しむ企業が増えていた。

百貨店を主要販路とする三陽商会は、2015年にライセンス契約が終了した英国ブランド「バーバリー」の穴を他のブランドで補えずに2016年度から営業赤字が継続。ワールドは2015年に銀行出身の上山健二社長(現・会長)が就任して以降、不採算ブランドのリストラや人員削減で収益性こそ改善したものの、2019年度の売上高は5年前比で2割減った。ライトオンも、アメカジブームの低迷に加え、ショッピングセンター向けのブランドとの価格競争が激しく、2017年度と2019年度は営業大赤字に沈んでいた。

元に戻るという見通しが立たない

コロナ禍から在宅勤務が浸透するなど、消費者の生活スタイルが大きく変わった。スーツやジャケット、オフィスカジュアル系の衣料の需要は今後さらに縮まるとの見方は根強い。また、2020年の秋冬には無印良品やジーユーが衣料品の販売価格の引き下げを相次ぎ発表しており、価格競争も一層拍車が掛かりそうだ。「コロナが収束しても、売上高が従前の水準に戻るという見通しはまったく立てられない」(大手アパレルの中堅社員)。

レナウンの経営破綻の影響もあり、アパレル企業に対する金融機関の視線は厳しさを増している。複数のアパレルの幹部は「銀行は借入期間の延長には応じてくれても、それなりの規模の新規融資枠の設定は非常に難しくなっている」と嘆く。コロナ影響が長引くとみて、金融機関からの信頼を得るうえでも、体力のあるうちに人員削減でコスト圧縮を急ぎ、収益体質の改善を図ろうとするのは当然の判断とも言える。

ただし、どの企業も簡単に人員削減に踏み切れるわけではない。希望退職は多くの場合、40代以上の中高年社員が対象で、退職者には「基本給〇〇カ月分」などといった相応の割増金が支払われる。会社にとっては人員を減らす分だけ一時的に多額のキャッシュアウトが避けられず、業況が厳しい中で決断をためらう会社も少なくない。

コロナ禍で再就職市場は冷え込んでいることもあり、冒頭の中堅アパレルの幹部は「この状況で自発的に手を挙げるのは実績や手腕のある人材に偏りがち。本来、削減を図りたいポジションの社員が退職するとは限らない」とも漏らす。決断が遅れるとリストラが手遅れになるが、希望退職を募ると有力な人材が出ていくリスクもあり、その実効性を見極めづらいという悩ましさもある。

希望退職の実施は氷山の一角

もっとも、上場アパレル企業が公表する希望退職者の数は、業界全体で行われている人員削減のほんの一部といえる。非正規雇用の比率が高い販売員やパタンナー、デザイナーなどは、各社が進めている大規模な店舗撤退や事業縮小に伴い、雇い止めや解雇されるケースも珍しくないからだ。経営破綻したレナウンの元社員は「都内の再就職支援のセミナーに足を運んだら、参加者の半分以上がアパレル出身で驚いた」と明かす。

昨年、希望退職に応募して大手アパレルを辞めた50代の男性は「社内には『残ったほうが安全』という雰囲気もなく、今回が割増金をもらって退職できる最後のチャンスだと思った。失業保険を受けつつ、資格取得などの準備をしながらアパレル以外への転職を考えたい」と語る。コロナの影響でアパレル不況が一段と深刻化すれば、各社で生き残りを懸けたリストラが増えることは避けられそうにない。