· 

日本だけじゃない「人口減少」が映す心配な未来

世界的なコロナ禍の中で「人口減少」が話題となる日が多くなった。人口減少といえば、日本の代表的な課題だが、いまや世界全体が来るべき「人口減少時代」に備えなくてはならない時代が訪れようとしている。

といっても、実際に世界全体が人口減少時代に入るのは2050年代以降の話だ。日本では実際の人口減少時代に陥る20年以上も前から「少子高齢化」が叫ばれ、同時に賃金給与は大きく減り、企業業績も悪化した。日本経済は、少子化が叫ばれ始めたあたりから衰退を続けているような気がしてならない。

世界もまた、2050年代に至るまで、厳しい衰退の歴史を辿る可能性があるということだ。加えて、今回の新型コロナウイルスによるパンデミックは、世界の人口減少に追い打ちをかけ、世界全体が衰退するきっかけになる可能性もある。日本の人口減少とあわせて、世界の人口減少について考えてみたい。

短期的影響と長期的影響の2つが問題に

人口減少問題には、実は大きく分けて2つの問題がある。短期的問題と長期的問題だ。短期的な問題とは、新型コロナウイルスによるパンデミックで、急激な人口減少や出生率低下が起こるリスクだ。

実際問題として、厚生労働省は2020年1月から10月の妊娠届の件数が、前年同期に比べて5.1%減となったと発表している。パンデミックによって、妊娠を控える人が増えたとみられているが、とりわけ2020年5月は前年同期比17.6%減少、7月も10.9%減と2桁の減少幅となっている。

厚生労働省の「人口動態統計速報」によると、2020年1~10月の日本の出生者数は前年同期よりも1万7000人減少しているそうだ。やはり、コロナ禍の影響と考えるのが自然かもしれない。日本では、いまのところ死亡者数は他の国に比べれば少ないレベルにとどまっているものの、その影響はやはり深刻と言える。

そして、総務省によると外国人も含めた日本の総人口は2020年に概算で42万人減少したと報道された。過去最大だった19年の32万9000人を大きく上回った。コロナ禍による外国人の流入6割減が影響したと分析されている。

パンデミックによる人口減少は、日本だけではない。新型コロナウイルスによるパンデミックによって世界中で220万人以上が亡くなり、その被害は今後も長期に続くとみられている。ワクチン接種の開始によって、急激に収束に向かうのではないか、とも予想されているが、人口問題にまで影響を及ぼすパンデミックの怖さは、改めて言うまでもないだろう。

45万人の死亡者数を出し、世界で最も感染者が多いアメリカでも深刻だ。アメリカの人口増加率は、この120年間で最も低い上昇にとどまっており、新型コロナの感染拡大による死亡者数の急増と出生率の低下によるものが原因と言われている。

アメリカの人口は約3億2900万人だが、2019年7月から2020年7月までの1年間で、全米の人口増加率はわずか0.35%にとどまっている。

アメリカは世界の先進国では唯一、人口が増加している国だが、近年その傾向に変化がみられる。実際、2019年には人口減少の兆しが出ており、同年の出生数は370万人。過去36年で最低水準となった。2020年はここにパンデミックが重なり、年間の出生数は300万人を割り込むのではないかとさえ言われている。

こうした傾向は、世界的に拡大している。2021年1月27日現在の数字を紹介しよう。新型コロナの感染者数は世界で1億人を超え、死亡者数は216万人を超えている。国別では、アメリカが42万5000人、ブラジルが21万8000人、インドが15万4000人。ワクチンの接種が始まったものの、収束に至るまでにはまだ相当の時間がかかると見られている。

すでに200万人以上が犠牲になった新型コロナウイルス。今後の展開次第ではさらなる犠牲者を覚悟しなくてはならないだろう。いまだに、新型コロナを「ただの風邪」という人がいるが、たとえば英国では2020年に69万7000人が死亡している。これは過去5年の平均を約8万5000人も上回っている。

いわゆる「超過死亡」に相当するものだ。今後のパンデミックの進捗状況によっては、こうした超過死亡が急激に増えていく可能性が高い。現在、われわれが目にしている死亡者数よりも多くなる可能性が高いのだ。いずれにしても、コロナが短期的な人口減少につながる可能性が高い。

2050年代には世界中の国が人口減少になる!?

一方、人口減少の長期的な問題とは、日本を筆頭に世界中が「人口減少時代」に突入しつつあるという問題だ。一時、世界の総人口が爆発的に増えていく未来が心配されていたが、今回の新型コロナウイルスや気候変動による影響によって、先進国を中心に出生数が大きく減少。加えて、医学の発展などによって高齢化が進み、今後世界は長期的な人口減少と高齢化の時代に入る、という問題だ。

国際連合が発表した2019年版の「世界人口推計」によれば、現在の世界の人口は77億人。2030年には85億人、2050年には97億人、2100年には109億人に達するだろうとしている。人口減少ではなく人口増加だろう、と思われるかもしれないが、同推計によると、地域によって大きなばらつきが出ると警告しているのだ。

具体的には、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国では、現在の人口が2050年には2倍(99%増)になるものの、それ以外の地域では2050年までの人口増加率を次のように予測している。

●欧州・北米……2%
●東・東南アジア……3%
●ラテンアメリカ・カリブ……18%
●中央・南アジア……25%
●オーストラリア・ニュージーランド……28%
●北アフリカ・西アジア……46%

これを国別にみると、インド、ナイジェリア、パキスタン、コンゴ民主共和国、エチオピア、タンザニア、インドネシア、エジプト、アメリカの順に増加するとしている。

一方、国際連合の人口推計に対して、「世界の人口は2064年に約97億人に達してピークを迎えた後、人口減少に転ずる」とする研究発表もある。

「ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)」による、この未来予測の内容は衝撃的なものだ。2064年にピークをつけた後、世界は人口減少時代に入り、気候変動同様の深刻な問題になると指摘しているのだ。

研究者の間では、2050年代以前から世界が人口減少時代に入ると予測する人も少なくない。2050年代なのか、それとも2060年代なのかはともかくとして、その影響は今後の世界経済にも大きな影響を与えそうだ。

イタリアは6100万人→2800万人へ

たとえば、イタリアは2017年には6100万人とピークをつけ、今世紀末の2100年までに約2800万人へと急減すると予想されている。日本が、1億2700万人(2017年)から5300万人(2100年)まで減少する予測より、さらにインパクトのある人口減少といえる。ちなみに、日本の2060年の人口は8674万人(厚生労働省・人口動態統計)まで減ると予想されている。

2060年になっても人口増加を続けられると予測されているアメリカやイギリスも例外ではない。イギリスは、現在の人口6665万人(2019年)から2063年には約7500万人まで増えるが、それ以降は減少に転ずると予測されている。

実際に、世界の大半の国が人口減少を経験することになりそうだ。IHMEのシミュレーションによれば、2060年までに世界195カ国中183カ国で、出生率が「人口置換水準」を下回ることになる。人口置換水準とは、人口が増減しない均衡した状態になる「合計特殊出生率」の水準が、人口増加を意味する「2.1」を下回ることを意味する。世界の大半の国が、人口減少に陥ることを意味するわけだ。

世界的にも有名な日本の少子高齢化。今回のコロナ禍がさらなる「少子化」に拍車をかけそうだ。

そもそも日本の出生者数は、年々減少傾向にある。かつてはコンスタントに年間100万人を超えていたのだが、いまやその数は急速に減少し続けている。2019年には86万5000人まで減少。いわゆる「86万ショック」と言われるレベルにまで下落してしまった。

日本の人口は、20世紀初頭の1900年には4385万人だったが、徐々に増加し続けて第2次世界大戦以前は毎年50万~70万人ほど増え続けてきた。終戦後は、いわゆる「団塊の世代」が誕生し、1946年以降は年間200万人以上の人口増加があった。その後も年間100万人のペースで人口が増える人口増加時代を迎える。

高度経済成長の波に乗って、人口もまた急激に増えていったわけだ。1967年には人口が1億人を突破。1970年代初頭には団塊ジュニア世代のピークもあり、日本の人口は1億2000万人を突破した。

ところが21世紀になって以降、前年の人口がマイナスを記録するなど「人口減少時代」を迎える。その最大の原因は、言うまでもなく「少子化」であり、毎年100万人増えていた出生者数は、2020年には80万人をも割り込むのではないかと言われている。

子供が減少すれば、当然総人口は減少していく。将来的には、人口が100万人規模で毎年減っていく「人口激減時代」を迎えるのではないかと予想されている。よく引き合いに出されるのが、「毎年、鳥取県の人口が消えていく」という表現だが、100万人ともなれば鳥取県(56万人)どころではない。「静かなる有事」ともいわれる。

とりわけ深刻なのが、人口減少の中身だ。65歳以上の高齢者人口は増え続けていくものの、15歳から64歳までの生産年齢人口は減少を続ける。2060年の日本の人口は9284万人(国立社会保障・人口問題研究所の将来推計、2016年)、生産年齢人口は4793万人まで減少する。

とてつもない高齢化が世界を襲う?

人口が半分になってしまう国は日本やイタリアだけではない。IHMEの予想では、スペイン、ポルトガル、タイ、韓国など23カ国で、人口が半数以上減少するとしている。とりわけ、懸念されるのが「高齢化社会」への大幅な転換だ。

IHMEの予想によると、世界の人口の構成比は、今世紀末までに下記のような❝大転換❞が起こるとしている。

●5歳未満の人口……約6億8100万人(2017年)→4億100万人(2100年)
●80歳以上の人口……1億4100万人(2017年)→8億6600万人(2100年)

IHMEの調査を報じたイギリスのBBCは「とてつもない高齢化が進み、誰が高齢者のための医療費を支払うのか」と伝えている。現在、世界第1位の人口を持つ中国も、2029年をピークに人口減少国家の仲間入りをすることになっている。世界銀行のデータによれば、現在の13億8600万人から14億4000万人まで人口が増加したのちに、一人っ子政策の反動などで人口減少が進むことになる。

おそらく人類は、2050年代には史上初めて人口がピークを打ち、人口減少時代に入っていくわけだが、IHMEの指摘によれば、中国のような人口大国が人口減少時代に入り、移民を必要とすれば、世界中で移民の争奪戦が始まるかもしれない。

国際連合の人口推計でも、2019年現在、世界人口の11人に1人が65歳以上になっているものの、2050年には6人に1人になると予測。25歳から64歳までの生産年齢人口が、65歳以上人口に対する割合を示す「潜在扶養指数」を見ると、もっとも低い日本の「1.8」を筆頭に、世界的に低下傾向がみられる。欧州など、すでに29カ国が潜在扶養指数「3」を下回っているそうだ。

2050年までには、48カ国で同指数が「2」を下回ると国際連合は指摘している。高齢化の進行は、世界中で生産年齢人口が減少することを意味しており、それは人類が今後も繁栄できるか、それとも衰退していくかの分岐点になるのかもしれない。

移民争奪、食料不足、景気低迷が加速される?

そもそも人口減少は、経済成長に大きな影響を与える、とよく言われる。しかし、その一方で、人口の動静よりも技術革新=イノベーションが続いていけば人口減少は怖くない、という説もある。

以前から人口減少が警戒されてきた日本では、すでに2003年には経済財政白書で高齢化・人口減少化での経済成長についてレポートしている。これらのレポートを参考にまとめると、大きく分けて次の3つが大きな影響と言っていいのかもしれない。

①経済成長への影響

少子化による生産年齢人口の減少によって、経済成長のための「労働力不足」が問題になる。さらに高齢者比率が高まれば国全体として「貯蓄率低下」となり、経済成長のために必要不可欠な「資本投資不足」が蔓延化する。これらの要素が複合的に徐々に経済成長鈍化させる懸念があるというわけだ。

②公的部門への影響

人口減少やそれに伴う経済成長の鈍化によって「税収不足」となり、社会保障制度の支えである現役世代に対する負担が高まる。医療や年金、教育といった公的サービスが量、質ともに減少、低下していく。

③国民負担率の過度な高まり

現役世代の家計や企業の可処分所得が低下し、個人は消費意欲や労働意欲をなくし、企業は設備投資意欲を減退させていく。

問題は、日本だけにとどまらずに、国際的に人口減少、高齢化が起きたときに、世界経済にはどんな影響がもたらされるかだろう。加えて、新型コロナによるパンデミックなどが多発すれば、人口減少の勢いは加速される。とりわけ、サハラ砂漠以南の人口増加地域は、最貧国が多く、医療設備なども整っていないため、パンデミックでは甚大な被害が出やすい。

 

人口減少の影響を正しく見極める必要があるということだ。次のような5つのポイントが考えられる。

1.経済成長の決め手は「人口ボーナス」

国連の人口推計レポートでも指摘しているが、生産年齢人口が他の年齢階層よりも大きく増加している国では、人口ボーナスによる経済成長が望めるとしている。ただし、政府が若者向けの教育や保健に投資し、持続可能な経済成長を推進する努力が必要だ。

言い換えれば、人口減少する国は経済成長が鈍化し、日本のように国際競争力を徐々に失っていく可能性がある。イノベーションが進めば、人口減少があっても経済成長が鈍化する事態にはならない、という考えもあるが、問題はイノベーションを担う世代を育てられるかどうかだ。

2.「移住したい国」になれるかどうかが経済成長のポイントに

世界的な人口減少になれば、介護などの公共サービスを提供するために、海外からの移民受け入れが不可欠になる。一人っ子の多い中国が人口減少国の仲間入りをすれば、大量の移民が介護要員として中国に流れる恐れがある。国を維持していくのに移民は不可欠な存在になるわけだ。「移民したい国」になれるかどうかが、今後の経済成長のカギを握っていると言っていいかもしれない。

日本のような、外国人労働者を冷遇する国はますます移民争奪競争に置いて行かれることになる。法務省「出入国管理統計年報」などから算出したシミュレーションでは、2050年には、日本の在日外国人は757万人になると試算されている。現在(2010年)よりも554万人増える勘定になる。

3.財政健全化が人口減少時代を生き残る共通の課題に

人口減少=税収不足は大きな課題になる。本格的な人口減少時代に入る前に、税収不足への対策を急ぐべきだ。財政健全化、社会保障制度をきちんと整備した国が、国際競争力を高める可能性が高い。

「負の連鎖」が起こりうる

4.食料不足、エネルギー不足が頻繁に起こる

景気が低迷すれば、食料や原油価格は下落する。人口減少→景気低迷→デフレ→食料不足、エネルギー不足の「負の連鎖」がたびたび起こる社会になる。日本だけの人口減少であれば克服できる問題も、世界全体となると深刻度は大きく増すはずだ。

5.アメリカの没落に備える

アメリカが、2050年代以降も人口増加を維持できるかどうかで、世界のパワーバランスは大きく変化していく可能性が高い。さまざまな分野で中国に肉薄されているが、移民排除のトランプ前政権によって国が分断され、アメリカ最大の成長要因と思われていた、人口増加と海外からの優秀な人材の吸収が滞ってしまっている。この影響は、今後大きな意味を持ってくるはずだ。

 

人口減少というリスクを知りながら未然に有効な手を打てずにきた日本政府の罪は重い。とはいえ、どの国も有効な手を打てずに苦慮しているのも事実だ。気候変動と並んで、世界共通の課題という認識を持つところからスタートしないと解決策は見いだせないのかもしれない。