· 

「ビットコイン型SNS」じわり広がっている意味

ドナルド・トランプ氏のアカウント停止に踏み切ったツイッター。だが、同社のジャック・ドーシーCEO(44)は、ツイッターは力を行使しすぎているのではないか、という問題と苦闘していた。ドーシー氏は、暗号通貨ビットコインに使われている新技術がソーシャルメディアの検閲問題を解決する突破口になるのではないか、という問題意識を口にするようになっている。

ユーチューブやフェイスブックが何万人ものトランプ支持者や白人至上主義者による投稿を禁止すると、彼らの多くはLBRY(ライブラリー)、マインズ、セッションズなどの代替アプリに群がった。これらのサイトに共通しているのは、ビットコインの設計に感化されてつくられているということだ。

管理者なきソーシャルメディア

背景には、技術者、投資家、普通の利用者の間に広がる、あるムーブメントがある。インターネットをフェイスブックやグーグルといった巨大テック企業に支配されにくいものとする動きが活発化してきているのだ。

そうした目標を達成する手段として、彼らはビットコインによって導入された新たな技術にますます注目するようになっている。主に権力を分散させる目的でつくられたネットワーク技術だ。

ビットコインは他のデジタル通貨と違って、中央銀行や金融機関ではなく、広く分散したコンピューターのネットワークによって生み出され、流通させられている。単一の出版社ではなく、誰もが編集に参加できるウィキペディアに似た仕組みともいえる。ビットコインの基盤技術はブロックチェーンと呼ばれ、ネットワーク内の分散型台帳にすべての取引情報が記録・保存される。

このブロックチェーンや、それに触発された類似の技術を使って、中央で集中的にネットワークをコントロールする管理者を排除したソーシャルメディアやオンラインサービスをつくり出そうとする試みが広がる。政府や企業がアカウントを禁止したりコンテンツを削除したりするのを、はるかに難しくする動きだ。

この実験はここに来て、新たな重要性を帯びるようになっている。巨大テック企業が問題アカウントの停止に次々と踏み切り、言論空間に対するその強大な影響力が改めて議論の的となっているためだ。

フェイスブックとツイッターは、1月6日のアメリカ連邦議会議事堂襲撃を受けてトランプ氏のアカウントを凍結した。暴力を扇動するという規約違反があった、としている。

アマゾン、アップル、グーグルは極右の間で利用が広がっていたソーシャルメディア、パーラーが暴力的なコンテンツを十分に制限しなかったとして事業関係を停止した(パーラーに対してアマゾンはクラウドサービスの提供、アップルとグーグルは同アプリの配信を止めている)。

「これまで見てきた中で最大の波」

こうした措置はリベラル派や有害コンテンツの反対派から称賛されたものの、保守派や「言論の自由」を保障する合衆国憲法修正第1条の専門家、アメリカ自由人権協会からは非難されている。誰がオンラインで発言してよくて、誰がダメなのかを一民間組織が決めるのはおかしい、という主張だ。

「今回の措置には同意できたとしても、こうした決定を下す人たちの判断がつねに正しいとは1ミリたりとも思わない」と、分散型の動画配信プラットフォームLBRYの創設者、ジェレミー・カウフマン氏は語る。

「個人的にどれほど同意できない内容であったとしても、世の中からのけ者にされている人々が、このサービスによって声を届けられるようになっていることは誇りに思いたい」

今では何十社というスタートアップ企業が、フェイスブック、ツイッター、ユーチューブ、アマゾンのウェブホスティングサービスに代わるものを提供しているが、これらはすべて分散型ネットワークとブロックチェーンの技術の上に成り立っている。データ会社シミラーウェブによると、その多くはここ数週間で数百万人の新規ユーザーを獲得している。

「これまで見てきた中で最大の波だ」と話すのは、データサイエンティストで、分散型テクノロジーに移行する右派の動きを扱った著作もあるエミ・ベベンシー氏だ。「これまではニッチなコミュニティの議論にとどまっていたが、今ではこうした新興テクノロジーが世界にかなり大規模な影響を及ぼす可能性が議論されるようになっている」。

ウェブサイトを永続的に保存・表示するブロックチェーンベースのプロジェクト、アーウィーブは昨年、中国政府を怒らせた香港の抗議デモに関するサイトや文書のアーカイブを作成した。

フェイスブックに代わるものとして2015年に設立されたブロックチェーンベースのマインズは、一般的なソーシャルメディアから追い出された右翼の有名人やネオナチの一部、あるいは他国で政府から弾圧されている非主流派のホームグラウンドともなっている。マインズや他の類似のスタートアップ企業には、アンドリーセン・ホロウィッツやユニオン・スクエア・ベンチャーズといった有力ベンチャーキャピタルが出資している。

ツイッターの影響力を「弱める」狙い

ツイッターのドーシー氏は、分散型トレンドの最大の推進者の1人だ。同氏はツイッターを通じて分散型ソーシャルネットワークの将来性を語り、同じく同氏が経営する金融テクノロジー企業、スクエアを通じてビットコインの価値を宣伝してきた。

ドーシー氏がビットコインやその関連技術を公に支持するようになったのは2017年頃。2019年後半には、ユーザーによるサービス利用の可否に対するツイッターの影響力を弱めることを狙いとした技術開発プロジェクト「ブルースカイ」を発表している。

ツイッターでトランプ氏のアカウントが停止されると、ドーシー氏はこう語った。ブルースカイのためのチームを雇い、ビットコインが掲げた理想を追求することで、ツイッターの権力にまつわる不快感に対処する。

ツイッターはドーシー氏に対する本紙のインタビュー依頼に応じなかったが、「近日中に詳しくお話しするつもりだ」と述べた。

ただ、イーロン大学で新しいコンピューターネットワークを研究しているミーガン・スクワイア教授によれば、ブロックチェーンベースのネットワークは、コンテンツに対してコントロールが利かなくなるという難題を抱えている。

スクワイア氏が言う。「技術としてはとてもクールだが、これで言論が完全に自由になる、と能天気に構えていてはならない。そこには人種差別主義者もいるだろうし、人々が互いを激しく攻撃し合うだろう。そういうものも丸ごとひっくるめての技術になるということだ」。