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「影響力のない人」がわかっていない2つの原則

影響力のある人は何が違うのか?

まずは、2つのたとえ話から始めたいと思います。同じ場面にあなたがいたらどう思うか? を想像しながら読み進めてください。

「みんなが貪欲になっているときこそ恐怖心を抱き、みんなが恐怖心を抱いているときにこそ、貪欲であれ」

これは世界一の投資家ウォーレン・バフェットの言葉です。

あなたがお金を運用してみようと迷っているとき、バフェット本人からこう教わったとしたら、この言葉は座右の銘になるほどはっきりと記憶に残ることでしょう。なぜなら、11歳で株式投資を始め、1代で10兆円を超える純資産を築いたバフェットの教えだからです。

では、もし同じ内容のアドバイスを証券会社の若い営業担当から受けたらどう感じますか? あなたは「何を偉そうに」「ヤバい銘柄でも買わせるつもり?」「誰かの名言のパクリでしょ?」と反発を覚えるのではないでしょうか。

あるいはこんな場面はどうでしょう。順調に仕事が進んでいるとき、職場の先輩から「どうした? いつでも相談に乗るからね」「困っていることがあったら、言ってね」と声をかけられたら?

「どうもしてないけど、先輩いい人だな」もしくは、「おせっかいだな」と思うくらいです。

でも、何か重大なミスをして言い出せないでいるときや、社内の人間関係で悩んでいるときに、「どうした? いつでも相談に乗るからね」「困っていることがあったら、言ってね」と言われたら、その言葉はすっと胸に響くのではないでしょうか。

草花を育てるとき、土を耕してから種を蒔くように、誰かに影響力を及ぼす人になるためには準備が必要です。

2つのたとえ話のまとめとして、あなたに質問したいと思います。

①バフェットにあって、証券会社の若い営業担当にないものは?

②同じ「どうした? いつでも相談に乗るからね」「困っていることがあったら、言ってね」という言葉が胸に響いたり、響かなかったりするのはなぜ?

実はここに「影響力」を理解し、使いこなしていくための2つの原則が隠されています。それは「信用」と「関係性」です。

● 人は、同じ内容でも信用した相手の話に耳を傾けます
● 人は、同じ内容でも「自分と関係がある」と思った話にしか興味を持ちません

 

聞き手に信用され、相手と深く関係する話ができる話し手は信頼されます。すると、聞き手本人、聞き手のいるグループに影響力を発揮することができるのです。

つまり、影響力のある人は、聞き手にとって「信用できる話し手となる方法」を知っていて、聞き手に「この話は自分に関係があると思わせる術」を持っているのです。

短い時間でも「信用」を得るためには

では、家族でも長年の友達でもない相手との間に、短時間で「信用」を築くためにはどうしたらよいのでしょうか。いくつかテクニックがありますが、ここでは聞き手に自信を与え、行動を起こしやすくさせる「ストレングス」というテクニックを紹介しましょう。

影響力のある人はいつの間にか周囲の人を巻き込み、味方にし、動かしていきます。この巻き込む力を支えているのが、「ストレングス」です。

人を動かす秘訣は、自ら行動したくなる気持ちを起こさせること。自ら動いてもらうために必要なのは、命令口調での指示や脅しではありません。人は誰かに認められ、求められていると感じたとき、行動を起こします。

そこで、影響力のある人たちは聞き手に自信を持たせるステップを踏み、「私は力にあふれている、行動力がある、能力がある、チャンスがある」といった感覚を持たせ、行動を後押ししているのです。

実は私も「ストレングス」を頻繁に使っていて、配信する動画で次のようなメッセージを繰り返し発信しています。

「このチャンネルを見ているみなさんは、間違いなく多くの知識を得ています。それはおそらく普通の人が一生触れないようなレベルの知識です」

「みなさんは解決方法となる知識、ツールを持っています。つまり、行動を起こす準備は整っているのです」

いずれも噓偽りのない本心です。ただ、それをメッセージとして繰り返し発信しているのは、聞いた人に強さを与えることができると知っているからです。

「ここを見れば何か対応策が得られる」と思える動画チャンネルを知っていると、それだけで少し力が湧いてきます。そして、その情報を発信している人、自分の行動を後押ししてくれる人を信用するようになっていくのです。

過去と現在を比較してもらう

私は動画を通じて「ストレングス」を行なっていますが、もちろん、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションではより高い効果が期待できます。

大切なのは、聞き手の自己重要感を満たすよう働きかけること。人は誰かに認められ、求められているとき、自分は重要な存在だと信じることができます。すると、失われていた自信が回復し、モチベーションが高まり、行動力も増していくのです。

たとえば、今、あなたの身近に仕事や勉強でつまずき、自信を失っている人がいるとしましょう。あなたなら、どんな声掛けをしますか?多くの場合、「がんばろう」「この失敗も次につながるよ」など、ポジティブな言葉で相手を励ますのではないでしょうか。

しかし、影響力のある人は相手が自己重要感を取り戻すよう、もうひと工夫加えます。聞き手が「過去の自分」と「今の自分」を比較するきっかけとなるような言葉を贈るのです。

「ここまで努力してきたプロセスに目を向けてみよう。以前よりできることが増えていない? それは成長の証だし、このつまずきだってきっと次につながるよ」

「あなたのがんばりは僕も仲間もずっと見てきたし、知っているよ。一度結果が出なかったくらいで信頼は揺らがないし、挽回のチャンスはすぐにやってくるよ」

そんなふうに投げかけることで、聞き手が自分では気づけないままでいる成長と変化を指摘します。本人に自分を客観視するきっかけを提供するのです。

ポイントは誰かとの比較ではなく、本人の過去と現在に目を向けること。人は誰しも、自分のことを重要だと思いたいものです。その願いが満たされず、心が揺れ動いているときこそ、話し手は「あなたの存在そのものに価値がある」と伝えましょう。

相手が自分の成長や変化、持っている能力、価値を再発見できたとき、やる気は一気に高まります。まさに話し手の言葉によって、「ストレングス」されるのです。

「ストレングス」で自信を取り戻した人は…

好意は、人やグループに影響力を発揮するうえで欠かせない感情です。話し手であるあなたに対して聞き手が好意を抱くと、それが信頼関係を結ぶ土台となっていきます。

たとえば、歴史に名を残す大衆扇動家たちは聞き手である大衆の心に届く言葉を繰り出し、好意を引き出しています。アドルフ・ヒトラーは第1次世界大戦後の大不況で苦しい状況にいる国民に向け、「あなた方には戦う力があるはずだ」「どんな苦境に立たされてもドイツ国民としての誇りは失われていないはずだ」と働きかけ、支持を拡大。巧みな演説で国民の好意を引き出し、「我々が一致団結して戦うことができれば、必ず勝利が見える」と戦争に向けて国民を煽っていきました。

ヒトラーのしたことは許されるものではありませんが、彼が一流の大衆扇動家であったことは事実です。強い影響力を発揮する人は、周囲の人に対して「過去」と「現在」を比較しながら「あなたなら、できる」「あなたには、力がある」というメッセージを発し続けます。

『超影響力~歴史を変えたインフルエンサーに学ぶ人の動かし方』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

「内向的な性格だからこそ、丁寧な仕事ができる」

「慎重な人にしか、気づけないことがある」

「どんな人も、必ず人生を変える力を持っている」

上滑りしていくお世辞や社交辞令ではなく、あなたの感情を込めた言葉で伝えましょう。

心からの期待を込め、相手の力を引き出すメッセージを伝えることで、人はポジティブな方向に動き出します。逆に、口からでまかせの励ましは利己的で、すぐに噓だと見破られます。そこに真実がないからです。

もし、あなたがパートナーや子ども、職場の上司や後輩など、周囲の人を説得し、動かしたいと願っているのならこの「ストレングス」を心がけてください。

相手の自己重要感を回復させ、自信を持たせること。これがうまくいけば、必ず相手は行動力を取り戻します。そして、自分に力を与えてくれたメッセージとその言葉を贈ってくれた人のことをずっと忘れずにいてくれるはずです。