シュワルツェネッガーとトランプが憎み合う訳

トランプ大統領と俳優のアーノルド・シュワルツェネッガーの対立が、またもやヒートアップしている。

先週、バイデン次期大統領を正式に選出する手続きを行っている両院議会にトランプ支持者たちが殴り込むという行動に出たのを受け、シュワルツェネッガーは現地時間10日、ツイッターに動画を公開し、アメリカ人たちにメッセージを送った。

オーストリア出身のシュワルツェネッガーは、暴動に参加したトランプ支持者をナチの嘘にダマされて追従した人々になぞらえ、「トランプは公正な選挙の結果を覆そうとした。嘘をつき、人々を間違った方向に率いて、クーデターを企てた。私の父や隣人たちも、(ナチの)嘘に惑わされた。その先にあるものを私は知っている」と警告している。

また、「トランプは大統領として失格。史上最悪の大統領だ」とも言い切った。このツイートには、現地時間14日現在、121万の「いいね」がついている。

シュワルツェネッガーがこのような行動をとったのは、決して驚きではない。むしろ筆者は、きっと何か言ってくれるのではないかと、シュワルツェネッガーに期待をしていたほどだ。近年、トランプとシュワルツェネッガーの関係は最悪。民主主義が危機に陥れられたのを見たシュワルツェネッガーが黙っているはずはない。

実はかつては友人だった2人

ふたりの対立が始まったきっかけは、まぎれもなくトランプが大統領になったことだ。それ以前、ふたりは友人で一緒に出かけたこともあった。

だが、シュワルツェネッガーは、2016年の大統領選でオハイオ州知事のジョン・ケーシックを支持し、トランプが共和党代表に選ばれた後も「トランプには投票しない」と明言したのである。

にもかかわらず、シュワルツェネッガーは、大統領立候補で降板したトランプを引き継ぎ、リアリティ番組『The Celebrity Apprentice』に出演することに同意した。タイトルは、『The New Celebrity Apprentice』。トランプの「You’re fired!」に代わり、「You’re terminated!」がシュワルツェネッガーの決め言葉だと発表された。

しかし、大統領就任式前の2017年1月2日、番組の放映が始まると、視聴率は凋落。それを見たトランプは、たちまちツイートでこけ下ろし、「まあ良いさ、奴はケーシックとヒラリーを支持したんだ」と斬り捨てた。

翌2月のナショナル・プレイヤーズ・ブレックファストでの演説でも、トランプは、「大統領に立候補した時、私は番組を降りなければならなかった。そして大物映画スターのアーノルド・シュワルツェネッガーが代わりに雇われた。結果はご存じだね。視聴率はガタ落ちだ」と言っている。

さらに、「アーノルドのために祈りを捧げよう。視聴率が上がるように。できるなら、だが」と言って、嫌味な笑いまで浮かべた。

2人の激しい罵り合い

それを聞いて、シュワルツェネッガーは、「ヘイ、ドナルド。良いアイデアがあるよ。仕事を取り替えっこするのはどうだい? 君がテレビをやる。君は視聴率のエキスパートだから。そして俺が君の仕事をやる。人がようやくまた安眠できるようにさ。どう?」と、ツイッターで反撃。

それに対しトランプは、「アーノルド・シュワルツェネッガーはカリフォルニアの州知事としても無能だったが、『The Apprentice』ではさらに酷かった。まあ努力はしたがね」と対抗する。

その翌月、「大統領になってもトランプが『The Apprentice』のエグゼクティブ・プロデューサーとして関わっているという理由から、人々は嫌悪感を抱き、番組を見たいと思わないのだ」とシュワルツェネッガーは言って次のシーズンには戻らないことを発表。

すると、トランプはまたもやツイートで「アーノルド・シュワルツェネッガーは自分から辞めるのではない。情けない視聴率のせいでクビになったのだ。すばらしい番組は、悲しい形で終わった」とけなした。

その後も、ふたりの罵り合いは続く。

トランプがパリ協定から離脱を表明すると、環境問題に強い関心を持つシュワルツェネッガーは、「誰も昔に戻ることはできない。私にはできるが」と、『ターミネーター』に引っ掛けたジョークを言いつつ、後ろばかり見て、未来のためにクリーンエネルギーに投資しようとしないトランプを批判。

一方でトランプは、2019年夏、ホワイトハウスに集まったレポーターに向かって、「アーノルド・シュワルツェネッガーは死んだよ。私はそこにいたんだ」と言っている。

その報道を聞いたシュワルツェネッガーは、「まだ生きているよ。確定申告を見せっこする?」と未だに税金申告の内容を公表しないトランプをからかった。

トランプの憧れはシュワルツェネッガー?

どうしてふたりの争いはこんなに尾を引くことになったのか。それについてはシュワルツェネッガーが、2019年秋、男性フィットネス雑誌「Men’s Health」の取材で明かしている。『ターミネーター:ニュー・フェイト』の公開に合わせて受けたこのインタビューで、シュワルツェネッガーは、「トランプは自分に憧れているのだ」と言ったのだ。

その根拠として、シュワルツェネッガーは、ふたりの仲が良かった頃、一緒に見に行ったレスリングの試合で、完璧な肉体を持ち、パフォーマーでもあるレスラーたちをトランプが崇め、褒め称えていたことを挙げた。

シュワルツェネッガーも元ボディビルダーの肉体を持ち、映画で人々を魅了する人気者だ。「彼は私を愛しているんだ。彼は私になりたいのさ」と、シュワルツェネッガーは、トランプが自分に執着する理由を語っている。

レスリングの試合中、トランプは映画で本当には起こっていないシーンをどう信じさせるのかについても、シュワルツェネッガーに聞いてきたという。「どうすれば人にそれを本物だと思わせ、人の心を動かせるのか」を、トランプはひたすら知りたがった。

そして今、トランプはそれを半ば成功させたわけである。彼の言う嘘を信じた人々を暴力行為に駆り立てたのだ。しかし、トランプの小手先でやれることには限界がある。

民主主義は、ひとりの人間よりも大きく、強い。今週、シュワルツェネッガーが投稿した動画で言っているように、民主主義は、コナンの剣のように、打たれれば打たれるほど強くなるのだ。

映画に出てくる正義のヒーローに憧れるのなら、トランプは今こそ、すっぱりと潔く退いたほうがいい。二度目の弾劾を待つまでもなく、辞職するしか道はない。途中までひどかった映画も、エンディングがよければ多少印象は変わる。ここで格好よく立ち去っていけば、シュワルツェネッガーもきっと、お褒めのツイートをくれるはずだ。