トヨタ「C+pod 」発表で超小型EVは普及するか

2020年12月25日に発表されたトヨタ「C+pod」(写真:トヨタ自動車)

2020年12月下旬、トヨタ自動車が2台のEV(電気自動車)を発表した。まず22日、無人運転移動サービス用車両「e-Palette(イーパレット)」の実用化に向けて進化させた仕様をお披露目した。続いて25日には、2人乗りの超小型車「C+pod(シーポッド)」を発売した。

e-Paletteは、2018年1月にアメリカ・ラスベガスで行われたCES(家電見本市)でコンセプトが初公開されたもの。C+podの原型は、2017年秋に開催された東京モーターショーに出展された「コンセプト-愛i RIDE」となる。

トヨタは12月22日に、実用化に向け進化した「e-Palette」も発表している(写真:トヨタ自動車)

e-Paletteは、ひと見てわかるとおり公共交通的な使い方を想定しており、C+podはEV普及に向けて検討を進めてきた法人ユーザーや自治体などを対象とした限定販売としている。個人向けを含めた本格販売については2022年を目途に開始する計画というが、主体はあくまで法人や自治体などであろう。

注意したいのはこのC+pod、黄色いナンバープレートを装着していることでわかるように軽自動車の一種ではあるものの、ほかの多くの軽自動車と同じカテゴリーではないことだ。軽自動車の中に設定された「超小型モビリティ」に属する。

超小型自動車は戦前からあった

超小型モビリティというカテゴリーは、国土交通省が定めたものだ。同省ウェブサイトに説明があり、認定車と形式指定車がある。近い立ち位置の乗り物として、第一種原動機付自転車(ミニカー)の紹介もある。

ミニカーは軽自動車と同様に日本独自の規格だが、超小型モビリティのようなカテゴリーは、ヨーロッパに昔からあった。19世紀末にフランスで登場したヴォワチュレット、1910年代に英国などで流行したサイクルカー、第二次世界大戦直後に敗戦国の西ドイツやイタリアで普及したバブルカーだ。BMWがイタリア・イソ社のライセンスで生産した「イセッタ」が、バブルカーの代表格だろう。

1950年代に生産されたBMW「イセッタ」(筆者撮影)

ちなみにヴォワチュレットとは“小さな自動車”を表すフランス語で、バブルカーはバブル経済とは関係なく、泡のように丸いスタイリングの車両が多かったことからこの呼び名がついた。

これらはいずれも一時的な人気だったが、1973年のオイルショックを契機に生まれたクワドリシクル(フランス語で4輪自転車という意味)は、まもなくヨーロッパ統一規格が定められ、本格的に普及した。

クワドリシクルには、L6eとL7eがある。L1e〜L5eは2輪または3輪車であり、オートバイの延長と考えているようだ。特筆すべきはL6eで、最高速度45km/h以下、最高出力6kW以下に制限される代わりに運転免許が不要で、フランスでは小中学校で交通安全証明書の最上位を取得していれば、14歳以上で運転可能だ。

クワドリシクルのメーカーは、多くが専業で組織も小規模だが、2012年にはルノーが「トゥイジー」を発表したのに続き、2020年にはシトロエンが「アミ」をデビューさせるなど、フランスでは近年、大手メーカーの参入もあるカテゴリーだ。

フランスの路上駐車枠に並ぶ色とりどりのシトロエン「AMI」(筆者撮影)

アミがL6eのみとしたのに対し、トゥイジーは L6eだけでなく、80km/h出せるL7e仕様もある。なお、1998年にダイムラーが発表した「スマート」は、最高出力や最高速度などがL7eの規定を超越しており、超小型モビリティではない。

2013年「超小型モビリティ認定制度」を制定

日本の軽自動車も1949年に規格が作られた当初はこれに近い車格で、運転免許も普通自動車とは異なっていたが、高速道路の走行が禁止されているクワドリシクルとは違い高速道路も走行可能で、免許や安全基準、環境基準が普通自動車と共通になっていくなど、独自の進化を遂げた。

その結果、地球環境問題や地方の交通弱者問題など、近年の日本に降りかかる諸問題解決に適した車両が存在しないという事態になった。そこで、国交省ではヨーロッパL6e/L7eに範を取り、2013年に超小型モビリティ認定制度を発表したのである。

これに対応してトヨタは「i-ROAD(アイロード)」、本田技研工業は「MC-β(エムシーベータ)」を発表。日産自動車はトゥイジーの姉妹車を「ニューモビリティコンセプト」と名付けて送り出した。

「i-ROAD」は前2輪、後1輪の3輪タイプの超小型EV(筆者撮影)

いずれも一般向けの販売はなく、シェアリングなどに使われた。一方、トヨタ車体は2000年から販売しているミニカー登録の「コムス」をモデルチェンジした。

このときの超小型モビリティは、軽自動車をベースにした認定制度で、走行には運行区域の地方公共団体または同団体が組織する協議会、あるいはこれら団体から了承を得た者の申請が必要であり、走行区域も決められるなど厳しい条件が存在していた。そのため、普及はいまひとつだった。

日産が「ニューモビリティコンセプト」として国内でも展開したルノー「トゥイジー」(筆者撮影)

状況が動いたのは2020年。前年から新しいルールの検討を進めてきた国交省が概要を2月に公表すると、パブリックコメントを受け付けたうえで、9月に道路運送車両の保安基準と道路運送車両法施行規則を一部改正し施行した。

車両面では、ボディサイズと最高速度がミニカーと共通になり、出力と乗車定員(ミニカーは1人、超小型モビリティは2人)で差別化されたことが、大きなポイントだ。

さらに超小型モビリティの形式指定車には、走行実態や事故実態を踏まえ、前面衝突はフルラップ/オフセットともに衝突速度を40km/hとすることが定められた。これまでの認定制度では、衝突時の乗員保護や歩行者保護などについて、構造要件を満たしていれば衝突試験が免除されていたので、規制強化になる。

C+podの価格は165万円~

今回、発売されたC+podの外寸や性能は、この新しいルールに準じており、ニュースリリースにも「新たに設定された超小型モビリティ用の安全基準に対応」とあることから、超小型モビリティの形式指定第1号車となるだろう。

「C+pod」の全長は2490mmと、軽自動車よりも約900mm短い(写真:トヨタ自動車)

認定制度のもとで生まれた従来の超小型モビリティやヨーロッパのクワドリシクルでは、形式指定を受けることは難しそうだが、出自が明らかでない粗悪な超小型EVなどの上陸を防ぐという点では、衝突試験は有効に働いてくれそうだ。

ベースグレードで165万円というC+podの価格は、三菱「i-MiEV」の約半分、「ミニキャブ・ミーブ」の2/3で、EVとしては安いが、2人乗りの軽自動車としては高いと見る人もいそうだ。

ちなみに、フランスでのシトロエン・アミの価格は6000ユーロから。既存の自動車に近い性能を与えようとする日本と、多くの人に移動の自由を提供しようとするフランスの思想の違いを感じる。

EV普及に向けて検討を進めてきた法人ユーザーや自治体などを対象とした限定販売としたのも、この価格がネックになると判断したためもあろう。そのためトヨタでは同社が運営するカーシェアリングなどでの展開を予定していると、ウェブサイトで公表している。

この点はアミと似ている。同車は「シェアリング」「長期レンタル」「購入」の3つの乗り方が選べ、1分あたり0.26ユーロというカーシェア料金も発表している。家電量販店で実車を見たりテストドライブしたりできるという試みも画期的で、C+podでも採用されるかもしれない。

超小型モビリティでは、インフラも大事になる。筆者は5年前、i-ROADを1カ月にわたって借りて使用した経験がある。そのとき悩んだことのひとつが、駐車場所だった。都内では数カ所に専用の駐車枠を用意してくれてはいたが、それ以外はコインパーキングを使うことになり、スペースも料金ももったいないと感じた。

「スマート」を通常の駐車枠に止めるとこれだけのスペースが余る(筆者撮影)

ヨーロッパの都市は路上駐車できる場所が多いうえに、枠ではなく帯なので、クワドリシクルは縦に停められる。場所を取らないメリットが生かせる。本気で超小型モビリティを普及させたいのであれば、警察や道路管理者などの協力が必須になろう。

大人の対応をしたトヨタの考え

e-PaletteとC+podが続けて発表されたことでわかったのは、トヨタはマイカーについてはハイブリッド車(HV)や燃料電池車(FCV)を主力とし、EVはシェアリングや公共交通などで投入していくという姿勢だ。EVの特性を考えればこれは納得できる方針だと思っている。

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豊田章男社長は昨年末、日本自動車工業会会長の立場として、一部のマスコミが「電動化=EV化」と報道する姿勢に触れ、仮に乗用車400万台をすべてEV化すると、夏の電力使用ピーク時には電力不足となり、解消には発電能力を10~15%増やす必要があるという試算を公開した。

一部のマスコミはこれを受け「トヨタは電動化に反対」と報じたが、実はEVの特性に見合った導入を考えているわけであり、一部マスコミよりもはるかに大人の対応をしていると感じている。