· 

「頭がいい人」が結果を出す「図で考える」習慣

田の字」で思考を深める

読んで字のごとく「田の字」の図は、タテ軸とヨコ軸のシンプルな2次元の枠組みで問題を考えることによって、複雑な現象の本質を切り取り、思考の整理をし、解決策を導き出すために役に立つものだ。

『武器としての図で考える習慣:「抽象化思考」のレッスン』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら

コツを理解するために、まずは企業の事業機会探索を例に「田の字」を使ってみよう。

最初の作業は、タテ・ヨコの軸の設定だ。企業が事業を行うべきなのは、「自社の強み」と「市場の魅力度」が重なる領域である。

この2つを軸にとると、最も理想的で、目指すべき領域は図の右上のマスということになる。(外部配信先ではグラフや図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)。

次に、その軸を評価する指標を定義しよう。「自社の強み」には、ブランド力、コスト競争力、実績、イノベーション力などいくつものキーワードが、また、「市場の魅力」には、その市場の大きさ、成長率はどうか、競争率はどのような状態か、ニーズの大きさはどうかといった評価ポイントが見えてくるだろう。

出所:『武器としての図で考える習慣』

いざやってみると非常に難しい作業だが、軸の定義づけの巧拙が、戦略の質そのものを大きく左右するため、図をにらみながら脳に汗をかく気持ちで取り組む必要がある。試行錯誤そのものが目的でもあるのだ。

対立する2つの要素を「軸」に

軸の選定における思考の効率と精度を高めるために、いくつかの「切り口」を頭に入れておこう。

まずは、対立する2つの項目を考えてみるという切り口だ。例えば、「量を増やせば質が落ちる」というのは定説だが、あえて対立する「量」と「質」を軸に取った「田の字」を描いてみてほしい。すると、量も質も高めて、右上のマスに近づけることが最も理想的だという目標が見える。そこで、右上のマスに向かう道筋をシミュレーションしてみるのだ。

右上のマスに向かうには「質を上げてから量を増やす」「量を増やしてから質を上げる」「質と量を同時に上げる」の3つの道筋があるが、それぞれが実現可能か、難易度はどうか、何に依拠するか、どんな影響が考えられるか――これらをとことん考えることで、現実的な方策が見えてくる。

同様に「チャレンジの回数を増やせば成功率は下がる」というような相関関係も、「回数」と「比率」をあえて軸にした図を描くと、既成概念を打ち破り、新たな視野を見いだす取っ掛かりになるだろう。

このように、「量×質」「絶対値×比率」など相反する2つの要素は、「田の字」で見ることで、てんびんにかけてどちらかを取るというものではなく、「掛け算にできる2つの要素」として捉えられるようになるわけだ。

■1つの要素を2つの属性に分解する

考えている要素を2つの属性に分解するという切り口もある。例えば、小売店における「品ぞろえ」という要素を分解してみよう。コンビニやスーパーなどの売り場を眺めて、「品ぞろえが多いな」と感じる要素はなんだろうか。

1つは、歯ブラシから電球、お弁当までのカテゴリーの多さ、つまり「幅」だ。もう1つは、歯ブラシの中でも異なるメーカーや種類など取り扱いがどれだけ豊富か、つまりそれぞれのカテゴリー内の「深さ」がある。

出所:『武器としての図で考える習慣』

整理すると、コンビニのように「幅」の広さを重視するタイプ、成城石井や紀ノ国屋など高級スーパーのように「深さ」でインパクトを出すタイプがあるとわかるだろう。1つの要素を2つの属性に分解するという作業は、思考を深め、自身の考えや目指す方向性を客観視することにもつなげられる。

「田の字」に見る製造業の鉄則

では、実際に日本の製造業のビジネスについて「田の字」で分析してみよう。多くの企業が「モノからコトへ」を合言葉に、「物売り」から「サービス業」への転換を図っているが、これは今に始まったことではない。

出所:『武器としての図で考える習慣』

例えばIBMなどのコピー機メーカーは、1990年代にはすでにプリンター「本体」を売って儲けるのではなく、インクやカートリッジなどの「周辺」で儲けるサービスモデルを実現していた。

 

ジレットのひげ剃りも同じだ。利益を得るのはひげ剃り「本体」ではなく、替え刃などの「周辺」であり、さらに本体を買った「今」ではなく、替え刃購入時の「後」で儲けるという仕組みを構築している。これを図で見ると、同じ形・同じ論理が当てはまることがわかるだろう。

軸は、「本体か、周辺か」「今か、後か」である。「本体」は、モノそのものだけではない。顧客をつなぎとめるための仕組みや価値提供を「本体」と定義すれば、アマゾンのプライム会員や、システムベンダーのIT導入時の経営コンサルなども当てはまる。

すると「いかに周辺を守るか」が重要であることがわかり、サードパーティー品をどう防ぐか、顧客のロイヤリティ向上をどう維持するかなどの課題や、「いつ、どこから、どう儲けるか」という利益の方程式にもおのずと光が当たるのだ。

マトリックスを増やして思考の強制深化

もっと柔軟に発想を広げて、4象限にこだわらず、3×3の9マス、4×4の16マスなどのマトリックスに拡張することもできる。正方形にこだわらず、3×4でもよい。

出所:『武器としての図で考える習慣』

マス目が増えると、この図のなかでグルーピングしたり、セグメンテーションしたり、優先順位をより緻密に考えたりすることができ、工夫の自由度が増大する。

では、これらの論理を応用例として、事業展開について見ていこう。

あなたは、自社の東南アジア進出プランを練っている。複数の製品ラインを持ち、新たに東南アジア地域全体へ進出しようとしているところだ。

出所:『武器としての図で考える習慣』

まずは、A国からE国まで、5つの国ごとの市場の大きさと、自社製品の強みで優先順位を決め、A国から順番に攻略していくプランを練った。しかし、相手は市場の成長や進化のスピードが速い東南アジアの国々だ。優先度を下げたD国やE国に進出する頃には、時すでに遅しで、参入できなくなるかもしれない。

そこで、複数の製品ラインがあることを踏まえ、製品ラインと東南アジアの国々をタテ・ヨコにしたマトリックスを描いてみる。

東南アジアへの参入戦略②

出所:『武器としての図で考える習慣』

すると、当初の切り口「国ごと」に縛られることなく、もう1つの変数「製品」で順番を考えるという新たな視点に気が付くだろう。もともとのプランは、図の左から右へと参入していくものだったが、「製品」を切り口にすると、図の上から下へという方向性が見えてくるのだ。

ここで、「自社の強み」と各国の「市場の魅力」について存分に試行錯誤しながら、この図をグルーピングしセグメンテーションしてゆく。

東南アジアへの参入戦略③

出所:『武器としての図で考える習慣』

まずA国・B国・C国に、競争力が高い製品①で同時に進出する。次にD国・E国において競争力がある製品③で、D国・E国に早めに進出する。そこからそれぞれの国で、ほかの製品を順次導入するというプランが見えた。こうすると、どの国にも出遅れることなく、A国・B国・C国での製品①の販売経験をD国・E国でも生かすことができるし、シナジー効果も期待できそうだ。

いかがだろうか。図は、それを作る過程から思考の強制深化が促され、思い込みや暗黙の前提を打ち破るきっかけをつかむ武器になる。新たな発想を生み出すために、「田の字」を使いこなしてみてほしい。