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常に「思い通りになる人」に共通する思考のクセ

1マイル(=約1.6㎞)。これを人類が4分以内で走破することは無理だと、何百年もいわれ続けていました。1マイル走競技の歴史を見ると、1923年にフィンランドのパーヴォ・ヌルミ選手が4分10秒3で1マイル走の世界記録を樹立します。

これは当時の世界記録を2秒更新するものでしたが、たった2秒の更新でも世界は驚愕しました。なぜなら、このたった2秒を更新するのにも37年かかったからです。

それでもやはり、4分を切ることができなかった。「人類が4分を切るのはやっぱり無理なんだ」という認識が世界中に広がりました。当時このことは「Brick Wall」(れんがの壁)と呼ばれ、「1マイル4分の壁はエベレスト登頂よりも、南極点到達よりも難しい」といわれていました。

不可能と思われていたことが可能に

ところが……。ロジャー・バニスターが「1マイル4分の壁」を破ったことで、それまで世界で思われていた「人類が1マイル4分を切るのは不可能である」という「思い込み」が崩壊しました。「あれ? 実は4分切れるんだ」となったわけです。

すると、バニスターが4分の壁を破ってから1年以内に、4分の壁を破る選手がなんと23人も現れたのです。「絶対できない」と思い込んでいたものが「いや、できるんだ!」とわかった瞬間に、何百年もできなかったことができるようになったわけです。

この話は、心理的な思い込みがあなたの人生にどのような影響を及ぼすのかを知るのに、とてもわかりやすい例だと思います。あなたの日常にも、少なからずこの「いい思い込み」と「悪い思い込み」が存在するはずです。

でもここで重要なのは、人類には不可能だといわれていたことでさえ、「思い込みがが変わると実現できる」ということです。ならば、意図的にあなたの「今の思い込み」を変えることができれば、あなたの「今」も変わるということになります。

では、思い込み=確信とはどのように作られるのか? そのメカニズムを解明していきます。

① 体験:私たちは日常でさまざまな出来事を「体験」します。バニスターの話でいえば、バニスターが「アスリートとして1マイル4分の壁に挑戦はするものの、やはりなかなか記録を更新することができない」という体験です。

②考え方:さまざまなことを「体験」することによって、「これはこういうものなんだ」という考え方が生まれます。たとえば、何かをして怒られたとしたら、「これはやってはいけないことなんだ」という考え方が生まれる。

何かをして人に喜ばれたら、「これは喜ばれることなんだ」という考え方が生まれる。私たちは体験を通して何百、何千、何万という考え方、思考を自分の中に作り出しています。

バニスターの話でいえば、「やっぱり4分の壁を破ることはできなかった」という体験から、「1マイル4分の壁を破るのは難しい」という考え方が生まれました。

③視点:体験により「◯◯とはこういうものだ」という無数の考え方が生まれると、私たちはこの考え方に基づいて世の中を見ます。そして「そんな自分の考え方が正しい」と裏付ける情報ばかりを探すようになります。

「1マイル4分の壁を破るのは難しい」という考え方から世の中をそういう視点で見るようになると、「あの人も更新できなかった」「今回もダメだった」と、できない情報ばかりを集めるようになります。

④感情・思考:そして今度は、自分の視点にふさわしい感情や思考が生まれます。「あぁ、やっぱり無理なのかなぁ……」「難しいよね……」「どうせ無理だよね……」といった感じです。

①~⑦で考え方が何回も強化される

⑤行動:生まれた感情や思考にふさわしい行動をします。1マイル走の例でいえば、練習方法や練習量、日常の過ごし方にも影響が出るということです。「難しいよね」「どうせ無理だよね」という感情・思考での行動で練習しても、1マイル4分の壁を越えられるわけがありません。

⑥結果:行動にふさわしい結果が出ます。「1マイル4分を切れない」という結果です。

⑦強化:「1マイル4分を切るのは難しい」という考え方を持ち、視点、感情・思考が生まれ、行動をする。そして「4分を切れなかった」という結果が生まれると、その後は「やっぱり自分の考え方は正しい」と、考え方が〝強化〞されます。

この①〜⑦の一連の流れを繰り返すことで、どんどん「1マイル4分を切るのは難しい」という考え方が何回も何回も強化されてしまう……確信になってしまうわけです。これが「思い込み」のメカニズムです。

全世界に「人類には1マイル4分を切るのは不可能」という思い込みが出来上がっていた中で、バニスターはなぜ4分を切ることができたのか? さらには、バニスターが4分の壁を破った後、なぜたった1年のうちに23人もが4分の壁を破ることができたのか?

それも、この思い込みが作られるメカニズムで分析することができます。まずバニスターが最初に行ったのが、②「考え方」を変えることでした。「4分の壁を破る」という考え方から「16分の1秒ずつ更新することならできるのではないか?」という考え方に変えました。

このことで③「視点」が変わります。「16分の1秒だけタイムを縮めるのであれば、何をしたらいいのだろうか? 何ができるのだろうか? どんなことを心がける必要があるのか?」という視点で世の中を見始めます。
すると「何かできるんじゃないか?」「おお! これくらいならできる!」という④「感情・思考」が生まれます。

そして、その感情にふさわしい練習や試合当日に向けての準備、過ごし方などの⑤「行動」をする。やがて、⑥「結果」として16分の1秒だけでも縮まると「やっぱり縮まるんだ!」「不可能ではないんだ!」と、考え方が⑦「強化」される。

現実を変える根本には「考え方」がある

そうなると、「さらに何ができるか?」と行動する。やっぱりできた! こうして「できるという思い込み」が形作られ、そのいい思い込みが確信になるわけです。このようにバニスターが1マイル4分の壁を破ることで、他のアスリートは「1マイル4分を実際に破る選手が現れた」という①「体験」をします。

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この体験により、「あれ? 1マイル4分って実は破れるんだ」という②「考え方」が生まれ、「そのためには何をすればいいのだろう?」という③「視点」に切り替わります。そして「できるかもしれないぜ!」という④「感情・思考」にふさわしい⑤「行動」をすることにより、今までと違う⑥「結果」が生まれることになったわけです。

何かを実現させようとした時、今の現実を変えようと思った時、その根本は「考え方」にあるわけです。「考え方」といっても、それは単純な精神論としてではなく、人間のメカニズムの一部であるということがおわかりになったと思います。

考え方から端を発して生まれた「いい思い込み」がさらに考え方を強化することで、結果も変わるのです。