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人口少ない「Z世代」がここへ来て狙い目なワケ

新型コロナによってZ世代がどのように変化したのか、定量調査の結果を見てみましょう(調査は15~69歳の計3094人を対象にインターネットで実施)。

収入の変化

まず、新型コロナによって、若い世代ほど収入が減りました。新型コロナの拡大前後で「収入が変わらない」と答えた15~29歳(15~25歳まではZ世代。26~29歳までは「ゆとり世代」)は52.3%と、上の世代と比べて最も低く、また「収入が減少した」と答える15~29歳は41.7%と、上の世代と比べて最も高い結果です。

学生だと、バイトのシフトを削られたり、クビになったり、若手社会人だと、企業にとっては、若い社員の方が給料やボーナスを下げやすかったりするのかもしれません。

テイクアウトが増加した一方で減少したもの

次の図は、自粛期間中のお金の使い方を聞いたものです。外出・外食する人が減ったため、コロナ前より「増えた」という回答が最も多かったものは「テイクアウト」27.2%でした。

実店舗での買い物の変化

私は海外でもZ世代の研究をしていますが、ニューヨークでも上海でも世界の大都市部では、デリバリーやテイクアウトを頻繁に活用して、共働きでも家事の負担を少なくし、家族と過ごす時間を多くしているのが一般的です。

アフターコロナの時代、テイクアウトなどの普及によって、日本でも海外と同じように家族と過ごす時間が増えるのか、さまざまな業界が注視すべきでしょう。

「テイクアウト」が増えた代わりに「減った」という回答が多かったのが「ホームセンター」45.6%、「バラエティショップ」43.4%、「ショッピングモール」58.9%、「百貨店・デパート」43.2%でした。

自粛期間中、コンビニやスーパーなど、自宅の近所で日常的な物を買う消費は他に比べると減りが少なく、非日常消費が大幅に減ったということができます。

2008年のリーマンショックは「金融不況」と言われ、政府が金融機関にお金をつぎ込むことで乗り越えることができました。

それに対して、今回の新型コロナショックは「消費不況」であり、GDPの半分以上を占める個人消費が復活しないと、この危機は乗り越えられないと言われています。

そのためには、消費者の消費マインドを復活させる必要がありますが、日常消費に比べ、この「非日常消費」に対する消費マインドを戻す作業はかなり大変です。

なぜなら「うちのコロナ対策は万全」と安心・安全を訴求しただけでは、非日常なモノを買いたい、非日常なところへ行きたいという消費マインドは触発されないからです。非日常に対して消費したいと思わせる――つまり、ドキドキワクワクした気持ちを触発しないといけないのです。

非日常消費マインドを刺激するには

余談になりますが、政府が行っている「Go To トラベル」「Go To イート」キャンペーンは単なる値引きにすぎません。これを利用する人は多いでしょうが、その動機は単に「得するため」であり、このキャンペーンの終わりとともに国民の非日常に対する消費マインドは盛り下がってしまうかもしれません。

2007年に菅総理が総務大臣の時に創設を表明した「ふるさと納税」は、「得するため」という動機以上に、「地方を応援したい」というドキドキワクワクが刺激されるものでした。

新型コロナで弱った非日常消費マインドを、単なる割引ではなく、ドキドキワクワクするコンセプトで刺激する施策を政府にはぜひ考えてもらいたいですし、ホテルや旅館や飲食店も、コロナ前以上にドキドキワクワクを提供しないと、非日常消費マインドは戻りません。

一方、予算は小さいものの、「Go To 商店街」は、商店街がイベントなどを実施することで、近くに暮らす消費者や生産者などが「地元」や「商店街」の良さを再認識するきっかけとなる取り組みを支援するもので、単なる割引ではなく、知恵にお金を払う仕組みになっているのですばらしいと思います。

ドキドキワクワクという知恵を出すことができる商店街は、アフターコロナの時代にもそれを活かせるはずです。もちろん、知恵が出せなかった商店街は苦しむでしょうが、単なる割引での支援には長期的視座がありません。このドキドキワクワクこそ、今後の日本経済復活の鍵となることは間違いありません。

次の図は、先ほどの自粛期間中のお金の使い方のデータを、10代のZ世代と日本人全体で比較したものです。これを見ると、新型コロナにかかっても重症化しにくい10代のZ世代は、上の世代と比べ、自粛しすぎずに実店舗に行っていたことがわかります。しかも、日本人全体で見ると縮小している非日常消費も、上の世代に比べると旺盛であることもわかります。

実店舗での買い物の変化

ショッピングモール21.8%、バラエティショップ16.9%、コンビニエンスストア21.5%、スーパー19.5%、ドラッグストア15.2%となっており、いずれも全世代の数値を大きく上回っています。

自粛期間中に外出し、移動距離も長く、結果、新型コロナにかかる割合が高いZ世代を中心とした若者たちが、メディアで批判されました。10代、20代というのは最も遊びたい盛りですし、叩かれるような行動をしていた人が一部にいたのは事実です。

しかし逆に考えれば、自粛期間中でさえ実店舗へ行く比率が高いくらい、彼らの消費マインドは強い、ということもできます。ですから、特に非日常消費に関わる企業やお店は、今こそZ世代、その中でもとくに10代を狙った施策を考えるべきです。

もちろん、彼らは上の世代に比べて人口が少ないし、所得も低いですが、「8ポケッツ」とも言われ、身の丈以上の消費行動を行うことができます。

『鬼滅の刃』は中高年層にも広がった

人口の少ないZ世代を単独で狙っても、市場ボリュームとして小さすぎると考えるのであれば、未曽有の大ヒット映画『鬼滅の刃』を参考にするとよいかもしれません。

『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

『鬼滅の刃』は、もともと少年誌である「少年ジャンプ」で連載されていた漫画で、Z世代の子ども、若者たちの間で人気に火がつき、それが中高年層へと広がりました。今どきの親子仲は大変密接になっているので(たとえ子どもが成人になっても)、互いに好きなものを教え合ったり、一緒に映画館に行ったりすることも普通になってきています。

つまり、Z世代の子どもを撒き餌にして、親と子をセットでつかむことがやりやすくなっており、この方法をとれば、すべての企業や商品は十分な市場ボリュームを得られるはずです。平成の間、「アクティブシニア」と言われ、消費の救世主と期待された高齢者は、新型コロナで重症化するリスクが高く、外出に対する不安感も強いでしょう。

効果的なワクチンが出回るまで、実店舗での消費は控え続けざるを得ません。厳しい言葉ですが、コロナ禍によって平成の間に信奉され続けた「アクティブシニア神話」が終焉した、と言うことができるかもしれません。

このコロナ禍により、Z世代かZ世代の親子をターゲットに据える企業やお店がもっと増えるでしょうし、増えるべきだと思います。