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サクナヒメが「作業ゲーでも飽きない」納得理由

敵は鬼、稲を育てて強くなれ!

ジャンルは和風アクションRPG。公式サイトには「米は力だ!」「稲を育てて強くなる」など珍奇な惹句が踊る。

ゲームの舞台は、鬼が支配するヒノエ島。主人公である豊穣神サクナヒメは何の苦労もせず要職につき、ぐうたら三昧。ところが、ある日、神々の暮らす都に人間の侵入を許してしまい、主神への献上物である米の備蓄を台無しにしてしまう。

この失態で彼女は、主神に都からの追放を命じられたうえ、侵入してきた人間たちとともに、鬼が支配する島「ヒノエ島」になぜ鬼が現れるのかを調査せよと命じられる。食料の確保もままならないなか、サクナヒメは生きるために仕方なく、島の調査がてら鬼狩りと稲作を始めるのであった。

画像は「アクションパート」(写真:Nintendo Switch&PS4『天穂のサクナヒメ』ローンチトレーラーより)

ゲームは「アクションパート」と「稲作パート」に分かれる。

アクションパートでは各ステージに目標が設定されており、ステージを踏破したり、特定の敵を特定の条件で倒したりと、さまざまな条件を達成することで探索度がアップ。探索度が一定値に達すると、新しいステージが開放される。

サクナヒメは戦神の娘なので人間よりは強いが、ぐうたら三昧だったせいか最初は弱い鬼を倒すだけでも精いっぱい。敵を倒してもレベルが上がらないため、「ある作業」なしにステータスアップはありえない。

ステータスアップのために必要なことは、豊かな実り。つまりTwitterでも叫ばれていた「稲作」を通じて彼女を強くしなければならない。

あまりに本格的すぎる「稲作パート」

稲作パートでは当然、米を育てることになる。まずは田んぼをクワで耕し石を取り除く。次に種籾(稲の果実に当たる部分)を泥や塩を用いて選別し、苗になるまで育てる。苗が育ったら田んぼに植える。もちろん手作業だ。操作が難しいため、なかなかきれいに並べて植えることができない。

ゲームを進めるために「稲作」は必須の作業だ(写真:Nintendo Switch&PS4『天穂のサクナヒメ』ローンチトレーラーより)

苗を植えたら次は水の管理。水は多すぎても少なすぎてもいけないし、高温でも低温でもよくない。雨が降れば水量は増え、日が照れば水量は減る。何度も何度も取水弁と排水弁の調整を繰り返して、水量を適切にしなければならない。

また、稲が育つ環境は雑草も育ちやすい。アクションパートに出た後、家のそばにある田んぼに戻ると立派な雑草が。もちろん1本1本抜いてやらなければならない。

収穫のための作業はまだまだ続く。稲には益虫も付けば、害虫も付く。害虫を取り除くには、家のまわりのクモやカエル、タニシなどを田んぼに放してやらないといけない。また、稲は病気にもなるし、いい米をつくるには肥料も必要だ。肥料も自前で用意しなければならないし、栄養素が多すぎてもいけない。

悪戦苦闘の末、ようやく稲穂が実り、頃合いになればいよいよ収穫。あとはおいしい米を食べるだけと思いきや、そうはいかない。

その後も稲刈りや脱穀、精米などの作業がある。CPUに任せることもできるが、米の質が落ちるため、基本的には自分で操作したほうがいい。

米が完成すると、サクナヒメのステータスが米の質に応じてアップするのだが、ただやみくもに米をたくさん作ればいいわけではない。量を作ればHPである命のステータスは大きくアップするが、質が低いとほかのステータスの伸びがよくない。

籾を厳しく選別して収穫量を減らせば、米の質がよくなり、力や体力などのステータスがアップする。米は食料として食べるのはもちろん、麹や酒などの材料や、交易品としても使えるので、量が少なすぎるのも考えもの。

どのように米を育てるか(≒サクナヒメを育てていくか)は、とても悩ましい問題だ。

このように最初は大変な米作りも、プレーを進めるにつれてスピードアップしていくので、安心してほしい。

また、作業で使う農具もどんどんいいものになっていく。例えば最初は「こき箸」で少しずつ脱穀するしかないが、「千歯こき」の登場で効率的に。「足踏み脱穀機が」作れるようになれば、作業の苦はほぼ消える。プレーヤーはゲームを楽しみながら、農耕道具の発展の歴史を学ぶこともできるわけだ。

米だけでなくおかずも充実している。肉や魚、塩やみそ、醤油など料理に使える素材は盛りだくさん。料理ごとに効果が設定されており、食べればステータスや耐火、耐毒といった耐性も強化できる。

なかでもとくに重要なのが、非戦闘時にライフポイントが回復する「自然治癒」の効果だ。実は『サクナヒメ』には回復アイテムが存在しない。「自然治癒」の効果なしには、ステージ探索もままならないので、しっかりとご飯を食べる必要がある。

長々と説明してきたが、稲作と食事なしにクリアできないのが『サクナヒメ』というわけだ。

「稲作」が面倒くさくない理由

『サクナヒメ』をプレーする前は、アクションと田んぼの世話は両立しないと思っていた。

ステージをスピーディーに進めたくても、いちいち家に戻って稲作や食事をしなければならないのはストレスになると予想していた。実際、序盤のうちは自然治癒がなければほぼ無理ゲー。お腹が空いたら、すぐに探索を切り上げる必要に迫られる。

それにもかかわらず、ストレスを感じないのは、食事や稲作にハッキリとした効果があるからだ。また、サクナヒメと人間たちとの交流も面白い。

出自も目的もまったく異なる人間5人と1つ屋根の下で暮らすサクナヒメ。そこでは喧騒やいざこざもあるが、プレーを進めるにつれて関係が深まっていく。そこでなされる会話から、プレーヤーは世界観を深掘りしていける。

朝起きて田んぼの様子を確認し、探索に出かけ、食事効果が切れたら家に帰り、また田んぼの様子を確認し、明日の予定を考えながら食事をして眠る。

そんなローテーションを繰り返しているうちに、プレーヤーは気づくのである。システムの都合から仕方なくわが家に帰るのではなく、帰りたいわが家がそこにあることに。

昼間は全力で遊んで、夕方になってお腹が空いたら家に帰る。家族と食卓を囲み、明日を楽しみにしながら眠りにつく。『サクナヒメ』のシステムは、そんな誰もが子どもの頃に経験したであろう懐かしい経験を、思い起こさずにはいられないのである。

よくある話なのに、飽きないのはなぜか

生活を続ける中で、サクナヒメにとって人間たちと共に暮す「わが家」は、何にも代えがたい場所に変化していく。都にいた頃はぐうたら三昧、ワガママ放題だった彼女も、守るべき場所を見つけて心身共に成長していくのだ。

成長を重ねた末、島に鬼を生みだし続ける元凶を倒すことを決意する。ストーリーとしては極めて王道ではあるが、サクナヒメにとってはもちろん、プレーヤーにとってもわが家が大切な場所であるからこそ、単純でいかにもなストーリーにも白々しさを感じず、彼女の決意が素直に心に染みるのである。

『天穂のサクナヒメ』は間違いなく良作である。