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「プログラミングが得意な子」の意外な共通点

今年4月から小学校でプログラミング教育が必修化された。人気の習い事にもプログラミング教室がランクインするようになり、わが子はどうしようかと思案する親も多いのではないか。筆者もその一人だ。

そのヒントを探るため、12月上旬に東京・渋谷で開かれた小学生のプログラミング大会「Tech Kids Grand Prix(テックキッズグランプリ)」のファイナリストの子どもと親を取材すると、ある共通点が見えてきた。

入院中の祖母に会いたくて作ったアプリ

バスケットボールの自主トレアプリ、蚊を退治するゲーム――。2189件の応募の中から予選を勝ち抜いたファイナリスト10人の作品は、生活の中で不便だと感じることをプログラミングで楽しくしたいとの思いから生まれたものが目立つ。なお今年のエントリー総数は昨年の1.5倍。関心の高さがうかがえる。

宮崎県の平川晴茄さん(小6)は、コロナの影響で入院中の83歳の祖母と面会できなくなった。何とかして祖母の顔を見て会話したいという気持ちから、タブレット用のコミュニケーションアプリを作った。スマホを使えない祖母のために、ビデオ通話は簡単な合言葉を入力するだけで接続できる。

アプリにはチャット機能を設けた。字を読めない幼児でも使えるように、気持ちを表現するスタンプ機能もある。平川さんは実際に幼児や高齢者に使ってもらい、要望を聞いて改善していったという。チャットをするときのコード作りが難しく、平日5時間、休日10時間かけた力作だ。

宮崎県からZoomで発表した平川さんが「このアプリを使って祖母は私の従妹の結婚式にも参加できた。コロナで開いた人との心の距離を縮めることができるので、使ってほしい」と呼び掛けると会場からは拍手が起こった。

サイバーエージェントのグループ会社CA Tech Kidsが主催するこの大会は、プログラミングで作ったアプリやゲーム作品が対象で、技術力やビジョンなどで評価する。入賞賞金は1位50万円、2位30万円に設定し、「子ども扱いしないこと」を売りにする。

決勝大会に出る子どもたちは、お金をかけた特別な教育を受けた子たちばかりだろう、と思う人もいるのではないか。だが、必ずしもそうではない。

優勝した愛知県の川口明莉さん(小4)は、7歳のときにプログラミングに出会い、考えたことが形になる世界に夢中になった。父・哲司さん(37)に聞くと「お金をかけてプログラミング教室に行ったことはない。NHK教育テレビの『Why!?プログラミング』を見て、CoderDojo(コーダードージョー)に行っていた」と意外な答えが返ってきた。CoderDojoとは全国各地にある無料のプログラミング教室だ。

川口さんが作ったのは、マタニティーマークやベルマークなどSDGs(持続可能な開発目標)に関連した45種類のマークをカメラで読み取ると、個別のマークの意味がわかるアプリだ。

子どものプログラミング大会で、2189件の応募の中から予選を勝ち抜いたファイナリスト10人(筆者提供)

なぜ川口さんの作品が高く評価されたのか。ポイントになったのが、マークを画像から認識させるために、AIによる機械学習を利用した点だ。画像をAIに認識させるために一つのマークをいろいろな種類で数十回撮影したという。機械学習させるためのツールはGoogleの「Teachable Machine」を使った。審査員からは「機械学習を使った作品が出てくるとは」と驚きの声が上がった。

パソコンや通信環境は必要になるが、特別な教室に通わせなくてもこうした技術は身に付くということだ。なお、平川さん、川口さんともに昨年の全国大会にも出場している。

学校のプログラミング教育はどんな内容か

小学校のプログラミング教育の学習内容は各学校に委ねられている部分が大きい。新学習指導要領では、小学校のプログラミング教育はAからFまで分けられている。このうち学校の教育課程内で行われるものはAからD分類まで。必ず行うものはA分類で5年生の算数「正多角形」、6年生の理科「電気」の教科書の項目と総合的な学習の時間だ。

誤解しないようにしたいのは、新学習指導要領ではプログラミングスキルを磨くことが目的ではない。自分の思ったことを形にするには「何をすべきか」「どんな方法が必要か」といったことを論理的に考える「プログラミング的な思考」を養うことに主眼が置かれている。

親はどのような心構えが必要か。大会を主催したCA Tech Kidsの上野朝大社長は「プログラミングはあくまで何かを作るための手段で、コード人材の育成が目的ではない」と話す。そのうえで「どんな作成ツールがあるのかなど親が知る努力をすることは大切。『私はわからないから』で片づけず、子どもが興味を持ったことに対して、面白がりながら一緒に学んでほしい」とアドバイスする。

プログラミング学習に必要な教育現場のデジタル化は待ったなしの状況だ。この春の一斉休校では、多くの学校でタブレット端末の配布が追い付かず、オンライン学習ができた学校はごく一部だった。

これを受け国は、全国の小中学校の児童と生徒が1人1台の端末を使えるようにする「GIGAスクール構想」で、配備のメドを2023年度末から20年度末に前倒しした。来年4月から子どもたちは学校で1人1台の端末を手にできるようになる見込みだ。

単独インタビューに応じた、平井卓也デジタル改革担当大臣(筆者提供)

平井卓也デジタル改革担当大臣は12月6日、ビデオ通話で東洋経済オンラインの単独インタビューに応じ、学校に配備されたタブレットを家庭や塾でも自由に使えるようにするようデジタル改革担当相として働き掛ける考えを示した。主なやり取りは次の通りだ。

――どうすれば子どもたちがプログラミングに触れる機会を増やせると考えるか。

プログラミングは誰かのため、社会のために役立つものを作るための手段だ。小中学校に1人1台のタブレットを配備し、通信環境も整える。鉛筆やノートと同じ感覚で端末を使いこなす子どもが増えるだろう。

教員のリテラシーを上げることも大切だ。民間の協力を得て学習環境を整えたい。

――パソコンやタブレット端末がない家庭への支援策は。

学校に配備した端末を、家庭でも塾でも自由に使えるようにするのが基本的な考え方だ。一方、学校に配備されたタブレットではプログラミングには物足りないと感じる子どもも出てくるだろう。

教育現場では格差が広がることを懸念しているようだが、BYOD(Bring Your Own Device)は自然な流れだ。また、企業が使う型落ちのパソコンが学校で役立つこともあるのではないか。

――デジタル教科書を推進している。デジタル担当相としてどのような働きかけをするか。

萩生田光一文科相と河野太郎行政改革担当相と、オンライン授業やデジタル教科書について議論している。

紙の教科書が不要と言っているのではない。紙ではできない部分をデジタル教科書に落とし込むことで学びが進化すると考えている。

――オンライン授業を授業時数に含めるよう提言している。

オンラインと対面を組み合わせたハイブリッド型の授業を原則にすればいい。ベストミックスの形は必ずある。

行政サービスと同じで、教育現場ではこれまで教える側の発想でやってきた部分が多かった。今後は子どもたちにとって何が最も学びやすい方法かを考えねばならない。

デジタル改革が遅れると能力がある子どもたちを停滞させてしまう。現場のマインドセットの変革が必要だ。