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「緊急事態宣言」で東京一極集中に高まるリスク

拡大一途のコロナ禍に政府の対応が後手後手を極めている。1都3県への緊急事態宣言発令に続き、明日13日にも大阪、兵庫、京都の3府県に対しても宣言を発令する方向で最終調整に入っているという。

3府県の知事が宣言発令を要請したのは9日。翌10日のNHKのテレビ討論番組で菅首相は3府県への発令に関し「すぐに対応できるよう準備している」としながら「もう数日の状況を見る必要がある」と慎重だった。

ところが、テレビ発言の翌日に、「発令の方向で調整」と一変した。その背景には、一連のコロナ対策への世論の反発、支持率低下があったのではとの声がネット上などで渦巻いている。

飲食店の営業時間短縮に絞った対応や、夜8時以降の不要不急の外出自粛要請、テレワーク推進による出勤者数の7割削減、イベント人数制限という感染拡大防止策についても「中途半端」「不公平」といった声が強い。

実際、3連休中の人出は、春の緊急事態宣言時に比べ大幅に増加していると報じられている。夜8時以降の営業を続けると公言する事業者もいる。後手後手で場当たり的な「宣言」と「対策」に国民の不満と不信は高まる一方である。

外国人の東京離れが進む

さて、コロナ禍が長期化する中で、見逃せないリスク要因がある。東京一極集中問題だ。昨年は東京都の人口の転出超過が話題となった。実際、5月、7月、8月、9月、10月、11月と1年のうち半分の月が転出超過だった。コロナ感染を防ぐための移住や、リモートワークの広がりやオンライン環境の拡充に伴う首都圏近郊への移住が増えているとの報道もみられた。

たしかに、一部ではそうした動きはあったが、基本的には東京一極集中の現実に変わりはない。最新の2020年12月1日時点の東京都の人口(住民基本台帳ベース)は1384万6014人。1年前と比べると8753人の増加だ。

多くの人は気付いていないと思うが、人口増加の主因は日本人人口の増加である。東京都全体で見ると日本人人口は4万6291人の増加。一方、外国人人口は3万7538人の減少。つまり、転出超過の真相は、外国人の東京離れにすぎないのだ。

さらに詳しく見てみよう。2020年12月1日時点での23区の総人口は、957万5842人で、前年同月と比べ3349人増。このうち日本人は3万8426人増、外国人は3万5077人減少となっている。外国人の転出超過が歴然としている。

23区のうち江戸川区を除く22区で日本人人口が増えているのが実態だ。逆に外国人人口は23区すべてで減少している。詳しくは表をご覧いただきたいが、象徴的なのが新宿区だ。(外部配信先ではグラフや図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

 

新宿区全体の人口は4376人減だが、日本人に限ると1733人の増加。それに引き換え、外国人は6109人もの大幅減少である。新宿区には都内で最多の3万7827人の外国人が暮らしている(2021年1月1日時点)。その国籍はなんと127にも及ぶ。まさに人種のるつぼである。

2017年から2020年にかけては外国人人口は4万人を超え、2020年1月時点では4万2598人だった。それが昨年1年間で約11%減ったことになる。外国人住民の上位6位までを占める中国、韓国、ベトナム、ネパール、台湾、ミャンマーの人々の減少幅が大きい。

コロナ感染で露呈した一極集中リスク

東京一極集中と地方創生に関しては、年初に興味深い世論調査結果が発表された。日本世論調査会が昨年11月から12月にかけて行った世論調査だ。それによると、「地方創生は進んでいない・どちらかと言えば進んでいない」が89%に達した。地方創生は安倍前政権の看板政策。世間の評価は「落第点」だった。

一方、「東京一極集中」については、「ある程度」を含め79%が「是正が必要」と回答。一極集中の問題点として「東京と地方の格差拡大や地方の衰退」「地震などの災害による中枢機能マヒ」に回答が集中した。

この懸念は今のコロナ禍で既に証明済みである。東京都の感染者数は日に日に膨れ上がり、1月8日時点では累計で7万人を超え、死者は674人となった。

東京都の新規感染者数が2477人となった7日までの23区別の累計感染者数、10万人当たりの感染者数は前出の表の通り。人口は住民基本台帳ベースの2020年12月1日現在で算出した。

感染者数がもっとも多いのは世田谷区(5300人)だが、10万人当たりで見ると新宿区が1424人と突出している。次いで港区の1091人、渋谷区の995人となっている。逆に10万人当たりの感染者数が最も少ないのはいち早く独自の対策に乗り出した江戸川区で362人。新宿区の約4分の1の水準だ。

都道府県別の感染状況はどうか。NHKがまとめている「直近1週間の人口10万人当たりの感染者数」(1月7日まで 人口は総務省人口推計2019年10月1日現在)を見ると、東京都が61.87人で最多となっている。以下は神奈川県38.26人、栃木県32.37人、宮崎県31.78人、大阪府29.74人、千葉県29.08人、埼玉県28.63人の順。上位に緊急事態宣言発令の1都3県や大阪府が入っている。

コロナ感染拡大防止対策では、人の移動を制限することが必要とされているが、東京を舞台とした人の移動は驚くほどの数だ。その最たるものが通勤・通学者数である。

東京都のHPに掲載されている2015年の国勢調査をベースにした通勤・通学者数を見てみよう。東京都内に在住している人で見ると、都内に通勤・通学している人は739万8000人。都外へ通勤・通学している人が50万1000人。合計で789万9000人が通勤・通学で移動しているわけだ。

これに都外からの通勤・通学者が290万6000人いる。東京を中心とした通勤・通学者の総数は1080万5000人となる。この流れを大きく制限しない限り、感染拡大に歯止めはかからないだろう。

一極集中は変わるのか

昨年は、コロナ禍での大きな災害に見舞われずに済んだことがせめてもの救いだったが、今年はどうなるかわからない。1日も早い一極集中是正に向けた政策の実施が望まれる。

先の日本世論調査会の調査に「一極集中是正に有効な政策」という設問があった。回答が多かったのは以下の通り。

① 企業の本社移転
② 子育て世代が地方移住しやすい環境整備
③ 東京と地方の賃金格差是正
④ 地方のIT環境整備
⑤ 国の機関の地方移転

どれも必要かつ有効な政策だが、現実は遅々として進んでいない。
本社移転に関しては、国土交通省の「企業等の東京一極集中に関する懇談会」の資料によると、東京にある上場企業375社を対象にした調査で「検討していない」が74%だった。

 

地方の環境はどうか。どの自治体も企業誘致や移住者受け入れには熱心だが、雇用環境は十分とは言えない。有効求人倍率はコロナ禍で大きく低下している。2020年1月に1.49倍(全国)だったのが、10月は1.04倍まで下がった。沖縄県0.66倍、神奈川県0.75倍など14の道県が1倍を切っている(10月)。移住先として人気の山梨県も0.95倍だ。地方に関しては、閉鎖的な土地柄がネックとなるケースも少なくない。

賃金格差は、物価水準との比較もあるので単純ではないが、最低賃金を比較すると最高は東京の1013円。最低は沖縄県、秋田県など7県の792円。1.28倍となっている。

IT環境整備については、徐々に進んでいるが、地方での環境格差が大きい。筆者が毎年訪れる北海道のある地方では、ちょっと市街地を外れるとWi-Fiがつながらない。ある民間通信企業の調査(2018年)によると、Wi-Fi設置数が最も多い東京(2万3990)と最も少ない高知県(862)の格差は27.8倍だった。

国の機関の地方移転に関しては、消費者庁の一部が徳島県に移転した他は、文化庁の京都移転などごく一部の移転が予定されているのみ。その文化庁の移転も当初の2021年度に間に合わず、2022年度以降にずれ込む見通しだ。

一極集中の是正は進みそうにない

残念ながら、こうしてみると一極集中の是正はなかなか進みそうにない。先の世論調査でも「コロナ禍を機に一極集中が緩やかになるか」との問いに76%が「穏やかにならない」と否定的な回答を寄せていた。これが現実である。

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一向に進まない一極集中是正を尻目に、一極集中リスクは高まる一方だ。進行中のコロナ禍に加え、大規模な災害や新たな感染症はいつ襲ってくるかわからない。

国民の安心・安全と国の未来を考えるのが国会議員や官僚の仕事。一極集中・地方創生実現に向けた明快なビジョンと、誰もが納得できるような工程表を国民に示すべきだろう。こんな危機的状況下にあるにもかかわらず、国会が閉会中とは、信じがたい話である。