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「疑いの目」でアイデアを出すピラミッド図の力

 

「ピラミッド」の図で論理を広げる

あなたは新規事業開発の責任者で、新規事業候補AにGOサインを出すかどうかの判断を迫られているとする。うまくいきそうに見えるが、もっと緻密に精査したい。意思決定の精度を高めたいが、どうすればよいのか?

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こんなときには、論理の幅を広げてくれる「ピラミッド」の図を武器として使うことが有効だ。

まずは紙の上に四角い箱を描く。一番上の箱の中には、今考えなければならないテーマ「A事業の成功」と書き込み、その下に3から5個程度の箱を描いて、テーマに関する大事な要素を書き出す。

一見、単純な図に見えるが、これが奥深いピラミッドの図を使うときは、要素を書き出してからそれを箱で囲むのではなく、先に空の箱を描いてから、それを埋めるために考えるというのがミソだ。

空の箱を埋めるために、強制的に思考を回転させることになり、事業を多面的に見る効果が得られるからである。

出所:『武器としての図で考える習慣』

ピラミッドで考えるということは、複雑なものを具体的な要素に分解することで、それを理解しようとするアプローチでもある。新規事業にはどんな要素が含まれるのか、それを考えるためには、水を水素と酸素に、さらには電子と原子核へと分解するように、「モレなくダブリなく」分析し、解明しようとする科学的な思考が必要なのだ。

そのような思考の手助けになり、課題をビッグ・ピクチャーとして把握しながら、ロジカルに「正しい答えや理解」を目指せるのが、ピラミッドの効用なのである。

ここでは、「十分な顧客価値を生み出しているか」「当社の資源・能力で遂行可能か」「競合他社に対して中長期的に差別化を維持できるか」という3つの要素を思いつき、それを下の箱に書き入れた。3つともクリアしているなら新規事業AはGOとしてもいいのだが、さらに慎重を期すために、ここからさらに思考の幅を広げていこう。

「ひねくれた目」で視野狭窄を打破する

やり方は簡単だ。ピラミッドの箱を増やす。それだけである。試しに3個から5個の空の箱を追加してみよう。そして、それらの箱を埋めるべくアイデアをひねり出す努力をする。もちろん、ピラミッドとにらめっこをして、すでに挙げている要素とはダブらせないという制約と戦わなければならないのだが、その戦いこそが、見落としていた、あるいは、おざなりにしていたが実は重要だった要素をすくい上げることにつながっていく。

出所:『武器としての図で考える習慣』

だが、そもそもすぐに見いだせなかった要素を、どのようにひねり出せばよいのか。そんなときは、思考の切り口として、経営学やマーケティング理論に登場するフレームワークを利用してみるのもいいだろう。

3C(Customer=顧客、Company=会社、Competitor=競争)や、4P(Product=製品、Price=価格、Promotion=販促、Place=流通)など、ヒントになるものを引っ張り出し、頭の中の引き出しを開け、持ちうる知識を総動員してみるのだ。

引き出しが少ない人や、そもそもフレームワークに当てはまらない課題について考える場合は、ものごとを健全に疑う姿勢を持ち、「ひねくれた目」でピラミッドを眺めてみるといい。

人は、今見えていることだけに囚われて、新たな視点・視座・視野を持てない「視野狭窄」に陥りやすい。そんなときは、意地悪に点検する気持ちで、目の前の課題を、横から、上から、下から、裏からと視点を変えて眺めてみるのだ。

言い換えると「別の立場からは、どう見えるか」ということでもある。この新規事業は競合他社にはどう見えるのか、営業には売り切るだけの能力があるか、顧客は何に満足しているのか、費用対効果の面ではどうか、この事業を展開することで自社の開発能力アップにつながるのか。これらを箱の中に埋め込んでいくことで、最初に描いたピラミッドよりもかなり論理を広げられたことに気づくだろう。

「なぜ」をくり返して「真因」を突きとめろ

ピラミッドは、論理構造を明確にして、広げるだけでなく、論理を深め、ものごとの「真因」を突きとめるためにも使える。そのためには、ここが怪しい、ここが弱いと思う要素を取り上げて、それを起点に「なぜ」を最低でも5回くり返して深掘りしていくというアプローチが有効だ。

例えば、新規事業展開をするのはよいが、「営業力がない」という懸念材料があるとしよう。まず、それをピラミッドの頂上に置き、なぜかを考える。すると「顧客のことをよく知らないから」という理由が浮かび上がった。

ではそれはなぜなのか、さらに深める。すると「顧客のことを知って売り上げを増やしても、給与が変わらないから」という、それまでスポットを当てていなかった営業部の心情が判明し、成功報酬のようなインセンティブがないことが関係しているとわかった。「営業」の課題が、「人事」の問題へとスライドしたのだ。

出所:『武器としての図で考える習慣』

 

さらに「なぜ」を追求すると、営業にインセンティブがないのは、その会社がもともと製造・開発にリードされており、営業は軽視されてきたという組織風土が浮かび上がり、「営業力がない」という問題の本当の原因が「組織風土」にあり、全社的な改革が必要だという結論に達するのだ。

このように「なぜ」をくり返すと、そのたびに異なる視点が持ち込まれ、その問題の原因が、実は、時間的にも空間的にも離れた場所に端を発していたということを突きとめることができるのである。

視野を拡大するための思考法

ここまでの図の使い方を見ると、1つのことを複数の要素に分けて、ピラミッドの下にいけばいくほど、具体性が増し、細かくなっていくように感じるだろう。だが「細かくなる」というのは固定観念だ。ピラミッドは「具体性があり、かつ視野を拡大する」という方向にも使うことができる。

出所:『武器としての図で考える習慣』

例えば、「売上高」は、「数量」と「単価」という細かい2つの要素に分解することもできる。だが、これを「市場規模」と「シェア」という2つの要素に分解してみるとどうだろう。自社の売上高よりも、市場規模はもっと大きく幅広いということをイメージすることができ、まだまだ展開の余地があるという展望を持って、事業を捉えることができるのではないだろうか。

事業展開を考える際は、「細かく分解する」だけでなく「広げる」という方向性も意識しておくことが大切だ。

「3つの問いかけ」でピラミッドが生きる

ピラミッドを使いこなし、意思決定の精度を高めるコツとして、「3つの問いかけ」がある。

「Why so?」=「なぜそうなのか?」

「So What?」=「だから何なの?」

「True?」=「本当か?」

いくら見事なピラミッドが完成したとしても、それが机上の空論では意味がない。そもそも、「図を完成させること」が目的ではなく、図を利用することで頭の中をかき回し、論理を広げ、深めていく思考過程そのものが目的なのだ。

思いついたその理論には具体例がきちんと挙がるかどうか、地に足がついているかどうか。健全な疑いのまなざしを持ち、自身の描いたピラミッドに投げかけながら点検することが重要だ。自由自在にピラミッドを操って、緻密でありながら柔軟な思考力を身に付けていこう。