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「コロナ前後の結婚式」を追って見えてきた現実

今年ももうすぐ終わろうとしている。この2020年は人々の生活においても大きな転換点になるだろう。新型コロナウイルス感染症により人々の価値観や行動様式は変化した。

その中で、時代の雰囲気と世代の価値観を反映するといわれる結婚式は、何が変わり、何が変わらなかったのか。そして新型コロナウイルスを経て結婚式のカタチはどのようになっていくのかを考えていきたい。それを紐解くことで、アフターコロナの時代の兆しが見えてくるかもしれない。

結婚式をやりたい気持ちは下がっていない

結婚式はカップルがゲストを招待し、集まる特性上、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて実施率も推移している。とくに緊急事態宣言が出された4月~5月は、結婚式を予定していた人のうち7~8割が延期を余儀なくされた。

実施した人も1~2割で推移し、実施を控えた状況がうかがえる。ただ緊急事態宣言が明けると回復し始め、9月には6割程度が実施するまでになった(ゼクシィ調べ、9月30日調査時点全国953屋号のヒアリング)。そこには、各会場が感染防止策を徹底する中、業界全体で新たな宣言を出し、安心安全な結婚式のガイドラインを策定し推進したことも影響しているだろう。

さらに、延期した人をみると、そのタイミングは平均で9カ月後となっている(コロナ禍中の結婚式実態調査:リクルートブライダル総研調べ)。(外部配信先ではグラフや図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

あくまでも試算ではあるが緊急事態宣言中に延期した人も来年には戻ってくる見込みが想定される。それは、「結婚式をやりたい」という気持ちが下がっていないためだ。

結婚式実施意向についてみると、新型コロナウイルス感染症の前後でその割合に変化はなく、実施したい人は状況が落ち着いたら実施しようとするカップルの志向性がうかがえる。ただ、当然、今後の社会情勢次第でこの動向は変化するものでもあり、引き続き注視したい点ではある。

 

結婚式において、何が変化し、何が変わらなかったのか。2019年4月~2020年3月までに結婚式をした層を“Beforeコロナ層”と、2020年4月~2021年3月に結婚・結婚予定でこれから結婚式を検討する層を“Afterコロナ層”と置き、分析を進めると、「結婚を機に行いたいこと」においては、「2人が結婚したことを家族・親族に承認してもらいたい」「家族・親族にこれまでの感謝の気持ちを伝えたい」「結婚したことのけじめをつけたい」など、“感謝”“承認”“しるし”にかかわる気持ちに大きな差はなかった。

 
(注)結婚式=挙式、披露宴・披露パーティ、親族中心の食事会、その他ウェディングパーティのいずれか。Beforeコロナ層(実施済み層):2019年4月~2020年3月に結婚し、披露宴・披露パーティ実施者。Afterコロナ層(実施可能性層):2020年4月~2021年3月に結婚・結婚予定があり、結婚式未実施で、披露宴・披露パーティを実施予定・実施するつもり・実施検討者

一方で、「2人の誓いを立てたい」「自分と結婚相手の絆やつながりを確認したい」といった“2人のしるし”に関わる項目は、Afterコロナ層が高い結果となった(結婚式へのコロナ影響調査:ゼクシィ編集部調べ)。

(注)結婚式=挙式、披露宴・披露パーティ、親族中心の食事会、その他ウェディングパーティのいずれか。Beforeコロナ層(実施済み層):2019年4月~2020年3月に結婚し、披露宴・披露パーティ実施者。Afterコロナ層(実施可能性層):2020年4月~2021年3月に結婚・結婚予定があり、結婚式未実施で、披露宴・披露パーティを実施予定・実施するつもり・実施検討者

結婚式の本質である“感謝”“承認”“しるし”は、コロナ禍においても不変であり、結婚という人生の節目において求めていることがうかがえる。加えて、この不安定で、不確実な状況だからこそ、より“2人の中で明確な軸”が求められるようになっていると考えられる。

誰が大切なのか、自身への問いが広がる

さらに、新型コロナウイルス感染症拡大後の結婚式意識調査(ゼクシィ編集部調べ)によると、20~40代男女(2020年4月~2021年9月に結婚・結婚予定があり、結婚式を実施予定・するつもりがある20~40代男女)の8割以上が「コロナ禍中に人間関係やライフスタイルに変化があった」(82.0%)と回答している。とくに注目したいのが、人間関係の変化だ。

「コロナ禍中に自分の人生に欠かせない人が誰か明確になった」(54.7%)、「コロナ禍中に自分が大切だと思う人の範囲に変化があった」(51.2%)と、半数以上の人にとって人間関係を振り返る機会になったことがわかる。

外出自粛を余儀なくされ、プライベート空間のみでの生活に変化した。そこで、「社会」や「コミュニティ」との距離を保つようになり、“制限された人間関係”という状況に陥らざるをえなかったのだ。

それまでの日常とは違い、直接会えなくなることで「誰が大切なのか」「誰と会いたいのか」「誰と話したいのか」といった“自身への問い”が広がり、「大切な人の明確化」につながったと考えられる。大切な人が明確になり範囲が狭まった人もいるだろうし、大切な人に改めて気づき、なかには範囲が広がった人もいるだろう。

この「大切な人の明確化」は結婚式の今後のカタチに大きく影響するだろう。もともとここ数年の傾向として、結婚式の招待客として形式的に招待する傾向は弱まり、自分が呼びたい人を招待する傾向は広がってきていた。

それが今回の新型コロナウイルス感染症の影響を経て、より加速するように考えられる。つまり建前から本音に向かう。そうなると結婚式の場は、「自分が本当に大切だと思っている人たちが集まる場」になり、その人たちと「ありがとう」と「おめでとう」の深い交換がなされる。この“本質的な相互作用”が強くなっていくだろう。

さらに、大切な人たちが集まる場になっていくため、時間の意味合いや使い方も変わっていく。カップルと招待客の共通体験も増え、ここでしか味わえない時間を大切なみんなと分かち合う。結果としてこれまでよりもじっくり時間を使う方向に向かうと考えられる。

さまざまなウェディングの形が出てくる

実際に、これから結婚式を考えている層に実施したいスタイルを調査すると、ゲストと宿泊して時間を過ごす「宿泊型ウェディング」や、あえてコミュニティをわけて時間を使いたい「2部制ウェディング」など、招待客とじっくり時間を過ごせるスタイルを望む声も出ている。まだまだ兆しではあるが、結婚式の時間の捉え方が少しずつ変わっていくのかもしれない。

今回、新型コロナウイルス感染症の影響により、結婚式において「どこで何を」よりも「誰とどんな時間を」を考えさせられる結果となった。時間の効率化や生産性が進められていく中で、人生の節目である結婚式の時間は、ある種これまで以上に「特別なもの」として捉えられていくのかもしれない。

今後も日々状況が変わる中で、結婚式の状況も大きく変容しながら動いていくが、だからこそ時代と世代を反映してきた結婚式を引き続き注視していき、今後の社会の動向を引き続き考えていけたらと思う。