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コロナで爆増「マウンティングおじさん」の実態

「お客様との信頼関係は、こうやって築くもんだ。オンラインネイティブの君には、なかなか難しいかもしれないが」

コロナ第2波が過ぎ去ろうとしていたころ、待ってましたとばかりに営業課長が「オンライン営業はもう終わりだ。リアル営業に切り替えろ」と大号令をかけた。

そしてお客様のところへ足繁く通い、顔を見せる訪問活動をスタートさせたのだ。

入社4年目の若手営業Aは、そんな課長の同行営業にうんざりしている。なぜなら、お客様のところへ訪問するたびにマウンティングをしてくるからだ。

「パソコンのディスプレイ越しにお客様と会っていても契約をとれると思ってるんだろ?」

「”膝を突き合わせる”って言うじゃないか。これが営業の基本だ」

会議中でも、この営業課長のマウンティングは止まらない。「部長、こちらの提案資料はいかがでしょうか。A君が作成したものを、私が大幅に手直しいたしました」「A君も、ずいぶんと慣れてきたようです。決裁権を持つキーパーソンとの商談なら、私が同行しないとダメですが」

相手よりも立場が上であることを示そうとする行為を「マウンティング」と呼ぶ。このように、いちいちマウンティングをとるおじさんを、昨今は「マウンティングおじさん」と呼ぶそうだ。

この営業課長も45歳。まさに「マウンティングおじさん」である。本人は無意識かもしれないが、その裏にはマウンティングをとらなければならない事情があるのだ。

「マウンティングおじさん」が増える理由

コロナ禍で間違いなく「マウンティングおじさん」は増えている。というか爆発的に増えているのではないか。

その背景は3つあると筆者は捉えている。

 1.2019年に急増した「黒字リストラ」
 2.コロナ禍
 3.DXの推進

2019年、40歳以上のおじさんたちの話題をさらったのは「黒字リストラ」だ。製薬会社、金融機関、大手電機メーカーなど、好業績でも人員削減(リストラ)に着手する企業が次々とあらわれた。

 

象徴的だったのはNECだった。NECは45歳以上の希望退職者を募り、グループで約3000人の削減に踏み切った。その一方、能力に応じて新入社員でも年収1000万円を支払う制度を導入した。組織の新陳代謝をはかろうとする会社側の意図が推し量れる。

さらに打撃が大きいのは新型コロナウイルス感染症の影響である。コロナ禍において業績が悪化した企業は容赦ない。

「洋服の青山」を展開する青山商事は400人の希望退職を募った。レンズ製造大手のタムロンが募った希望退職の規模は200人。従業員を3分の1にまで削減すると発表した近畿日本ツーリストも広く希望退職を募集する。

年齢にも注目したい。青山商事は「40歳以上」、タムロンは「45歳以上」、近畿日本ツーリストはなんと「35歳以上」が対象だ。

高給取りで、十分な付加価値を生み出せていない、いわゆる「働かないおじさん」が対象であれば、まだ衝撃は少ないだろう。

しかし実態は違う。まだまだ組織に貢献している「働いているおじさん」も、今のご時世リストラ対象なのだ。「定年までは、とても面倒を見られない。まだ40代なら転職も可能だろう。だったら今のうちにセカンドキャリアを見つけてほしい」といった会社側の親心も絡んでいる。

「おじさん」たちにはキツい?DX対応

多少「考えが古い」「昭和的だ」と言われようとも、それなりに組織に貢献してきた。そう自負している「働いているおじさん」たちは、当然リストラとは無縁だと受け止めてきただろう。

しかし、上場企業でこれだけ大規模なリストラが行われれば、その余波は中小企業に押し寄せる。大企業の中間管理職が転職してくれば、いきなり幹部クラスに重用されるかもしれない。

このように、業種、業界、企業規模の大小は関係がない。「働かない」「働いている」も関係がない。世の中の「おじさん」たちは、どんどん追い込まれているのだ。

とりわけキツイのがDX(デジタルトランスフォーメーション)対応だ。DXはいまや新聞やネットニュースにおいて最頻出用語の1つとなった。

感度を上げて、真っ先に対応しなければならないのが「おじさん」であるのに、実態は、最も反応が鈍い。DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用して、業務プロセス、組織のあり方、人の行動を変容させることを指す。もちろん「IT化」のことをDXとは呼ばない。

したがって、自分の意識や行動を変容(トランスフォーメーション)させることが求められる。これがなかなか難しい。社歴が長ければ長いほど、そして過去の成功体験があればあるほど現状維持バイアスがかかる。

RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入を検討していた、ある企業でも、そのような光景が見られた。

定型業務を定期的に実施する際、RPAの活用は有効だ。ミスがないし、時間外でも働いてくれる。人手不足の問題を解消し、なおかつ社内の人的リソースをもっと付加価値の高い仕事に充てられる。

情報システム部が主導してきたこのプランに、真っ向から反対したのは総務部の課長だった。

「うちの業界は特殊だ。ロボットに人間の代わりができるはずがない」

「当社のIT化は俺が主導してきた。どれだけ苦労してきたかわかる? その俺がムリと言ったらムリなんだよ」

このように語る課長の言葉の裏には、必死さが感じられた。どんなに説得しても応じない。

「ITベンダーの口車に乗せられるな。昔、ERP(統合業務システム)が大ブームだったときも俺は大反対した。結果どうなったか。知ってるだろう? 俺が予想したとおり、ERP導入で成功した企業は本当に少なかった」

それから課長はどや顔で、ERPを導入し、混乱の末、稼働までに数年を要した会社の事例を語って聞かせたのだ。

「だからRPAとかDXとかも一緒。一過性のブームに乗せられるな」

実績や権力を誇示する

「マウンティングおじさん」のせいで若手が退社した例もある。

「今度、同じ慶応出の部長と飲みにいくんだ。君も来るかい?」

「今日は足が痛いよ。週末、新鋭の起業家たちとマラソン大会に参加してね。若くないのに、頑張っちゃったから」

「奥さんが料理教室をやっててさ。毎日その残り物を食べさせられてるよ。君はいつ結婚するの?」

お客様のところへ向かう社用車の中で、ずっとこのようなマウンティングを続けられた。消耗してしまうのも無理はない。

女性によるマウンティングが「幸福感」の誇示が多いのに対し、男性の場合は「学歴」「実績」「人脈」「権力」を誇示することが多いという。とくに「マウンティングおじさん」は「実績」と「権力」だろう。「人脈」もだろうか。

現在の仕事では成果を誇示できないため、その他の要素にばかり意識が向くようだ。

企業の業績や生産性向上には「従業員エンゲージメント」が深くかかわっている。エンゲージメントとは、愛着心や絆という意味合いだ。だからこそ近年多くの組織で従業員の「心理的安全性」をアップさせようという取り組みが行われている。

ところがマウンティングは逆だ。マウンティングの問題は、自分を上げるのではなく、相手を落とすことにある。「心理的安全性」どころか、相手を心理的に疲弊させてしまう行為である。

よりいっそう謙虚になるべきだ

前述したとおり、いつリストラされてもおかしくない「おじさん」たち。自分の優位性をアピールしたいという気持ちを持ってしまうのも、わからないのではない。

しかし、それは実際の「成果」として誇示すればいいのである。キーワードは、「今」「ここ」「自分」である。学歴やら実績やらお家柄ではなく、今、ここの場所で、自分自身で、成果を出すのだ。

若い社員のお手本となるように自己研鑽を繰り返し、率先して新しいことにチャレンジすること。昔と変わらぬ成果を出しつづければ、周囲からの眼差しも変わるに違いない。

世の中は急速に変化している。5年や10年はやく社会人になったからといって、優位性はない。それどころか、逆にその体験が足かせになってしまう時代だ。

私も51歳。他人事ではない。無意識のうちにマウンティングしていないか、絶えず気を付けなければならないだろう。

苦境が続く今だからこそ、だ。我々「おじさん」たちはマウントをとる前に、よりいっそう謙虚になるべきだろう。