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メールのやりとりは「4行以内」が超効率的な訳

 

 IT発祥の地であるシリコンバレーは新しい機能をいち早く取り入れており、私が渡米した1987年の時点でも、スタンフォードではアップルのマックが主流でした。サンノゼに本社があるアドビシステムズがPDFの最初のモデルを作ったのは1993年です。

アメリカの研究の世界ではあっという間に普及しました。論文はPDFでデータ化され、紙に刷らないオンラインジャーナルも増えて、紙の雑誌であっても電子版でいくらでもバックナンバーが閲覧できます。

速報誌の形態も変わり、proof(校正刷り)の最終確認が終わったものから順次発行され、「号」や、「巻」の概念は希薄になり、スピードを重視するがゆえに発表の日付が優先されるようになってきました。

かつて書類整理は一苦労でしたが、1996年に誕生したクラウドコンピューティングがスタンフォードで活用され始めたのは2000年代の初め。私は、PDF化された論文の整理は、無料ソフトであったiPaperという管理ソフトを長らく使っていました。

遠隔でデータにアクセスできる時代

そのユーザーインターフェイスはiTunesとまったく同じで、任意のフォルダーを作成し、iTunesの楽曲と同様に同じ論文を複数のフォルダーに入れて管理することもできます。それ以前は、重要な論文は複数コピーして、関連のあるすべてのフォルダーにしまい込んだりしていたのですが、そういった作業も省略されました。

なにより、4段や5段もある幅1メートル20センチの鉄のファイルキャビネット複数個に収納されていた論文をクラウドに置いて、どの端末からでも、検索、閲覧、整理、印刷がほぼ無料でできるので夢のような話です。

今では、iCloud、Googleドライブ、Dropboxなど多くのサービスが登場し、書庫いっぱいの書類や、集計データや画像データ、動画、講演データも端末さえあれば遠隔でアクセスできるので非常に便利です。

私も一度、講演に使っていたマックに講演直前に不具合が起こり、iPhoneからDropboxのパワーポイントデータを開いてiPhoneで講演を続けたことがあります。アニメーションも動画も可能で、iOSのパワーポイントのほうがマックより安定している可能性もあるので、今後はiPhoneで講演を行おうかとも思っています。

スケジュール調整アプリも90年代終わりには普通に使われていました。お互いに都合を連絡し合うよりもGoogleカレンダーやDoodleのように、参加者がそれぞれウェブ上のカレンダーに自分の都合を記入していくのですから一目瞭然。参加者が多いときは非常に便利です。

このようなシンプルで使いやすいサービスはどんどん活用していけばいいことは言うまでもありません。

もちろん、こうしたサービスは日本でもかなり取り入れられていると思いますが、「若い人やIT好きの人のもの」とされているなら残念です。新型コロナウイルスの世界的流行により外出自粛を余儀なくされた今、テレワークに必要なSkypeやZoomといったビデオ通話機能を使いこなしているかどうかで、働き方も変わってきます。

システムで大学での感染も防ぐ

コロナ感染に関連して、スタンフォードでは「デジタル・スワブ(綿棒)」というシステムを取り入れています。私も最初は何のことかわからなかったのですが、実は、滅菌スワブを用いて検体を採取するのではなく、携帯などで、毎日大学に来る前に、1分程度でおわる問診票(体温や、症状の有無、感染者との接触など)に入力して大学に入ってよいかを判定するシステムで、まだ試行段階であるものの、かなりの確率でリスクのある人を抽出できるようです。

解析方法の詳細はわからないものの、数日間の動向、前日からの変化、位置情報や、働いているビルディングの情報等も含めてAIを使って判定しているものと思われます。こういう方法で、職場での感染を防ぎ、ハイリスク者のPCR検査への誘導や、逆に不必要なスワブ検査を減らす効果も期待できます。

このヘルスサーベイは、学内だけでなく、全国的にもデータを収集して、実際発症すると、病院を訪れる前にどういった症状や徴候が現れるかの調査や、各地域での感染状態の動向の判定にも役立ちます。しかも各自自分の携帯を使うので、システム構築は大変ですが、それ以外は費用がかかりません。

また、便利であるからこそ、ITは「使いすぎない」ことも大切です。メールはせいぜい4行以内で簡潔にするのがシリコンバレー流。最後まで読まない人も多いので、挨拶が上にあって下に用件があると、肝心なことが伝わらない危険があります。

やりとりを続けるときは、簡略化する

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引き続き同じ人とメールをやりとりする場合は、宛名も挨拶もなしで用件のみ、自分の名前も、ファースト・ネームから、頭文字一字になり、ついには名前も省略する場合が多いです。あえて「よろしくお願いします」の意味で、ThanksやThxを文末につけますが、これもどんどん簡略化されています。

まるでメッセンジャーのような使い方になっていますが、とはいっても添付書類や、セキュリティの問題があるので仕事では公式のアカウントでのメールでのやり取りが主流です。またなにより重要なことは、公式のアカウントでのメールのやり取りはすべてサーバーに保管されていますので、不正防止やコンプライアンス維持には非常に有効です。