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誰でもアイデア名人になれる「図を描く」習慣

図は思考を「見える化」する

図を描いて考えることのメリットはたくさんあります。例えば、思考の「見える化」ができること。思考の「見える化」は、思考のモレや矛盾、弱点を明らかにしてくれます。

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だいたいの場合、頭で「わかった!」と思っても、その論理は「ゆるい」ことが多く、図にするとそのゆるさが白日のもとにさらされます。そして、えっ、これしか考えられてなかったのか……と自己嫌悪。思った以上に論理はタイトでないことが多いものです。

「見える化」のメリットはほかにもあります。それは記録として残せることです。頭の中の記憶が消えても、図にしておくと、そこまで考えたことは消えません。そうすると、いつでもその図を取り出し、続きから考え、思考のビルディングブロックを積み上げていくことができます。

出所:『武器としての図で考える習慣』

 

そして図は、新しい着想を得るうえでも役に立ちます。

著名な経済学者のシュンペーターはかつて、イノベーションはすでに存在しているものの新しい組み合わせ〈新結合〉によってもたらされると指摘しました。

確かに2つの要素の組み合わせで生まれたものは数えきれないほどあります。

・シャンプー(洗う)×リンス(ダメージケア)→リンス・イン・シャンプー
・カメラ(本体)とフィルム(消耗品)→使い捨てカメラ
・印刷機能部品×インク(消耗品)→カートリッジ
・ロボット(機械)×ウェア(機能)→ウェアラブルロボットスーツ
・飛行機×ヘリコプター→オスプレイ

ざっと挙げてみただけでもご覧のとおり。

組み合わせるだけで新しい発想が生まれる

時々、大学のゼミ生と、新規事業や新製品創出の議論をするのですが、そんなときも、異なるものの組み合わせで、いろいろなアイデアが出てきます(すでに存在するものや、検討されているものも含めてですが)、例えば、

・日本的デザインと消臭などの高機能を兼ね備えた伝統工芸高級靴下(デザイン×機能性)
出所:『武器としての図で考える習慣』
・海上輸送中に、3Dプリンターで製品を作ってしまう工場船(輸送×製造)
出所:『武器としての図で考える習慣』

これらは一例で、まだまだあります。

・カメラで撮影した家の外を、室内の壁一面に投影し壁が消えてしまう家(撮影×投影)
・乗れば乗るほど健康になる車(移動×診断・治療)  etc

つまり、新しいアイデアを捻り出す際に、1枚の紙のタテとヨコに何らかの軸を取り、その掛け算のマス目をにらんで「何か新しいものはないか?」と考えてみるのです。

アイデア創出に行き詰まったら、ぜひ図(マトリックス)で考えてみてください。

図なしで組み合わせを考えるのは難しい

実は、これを「図なし」で考えるのはとても困難です。

2つの異なる要素をタテ・ヨコに取ると、パッと紙を見ながら考えられるし、空いているマスもすぐ目につきます。しかし、これを箇条書きにすると大変なことになる。タテ・ヨコの要素が5つあるだけで、5×5=25行の箇条書き。どこをどう見て何を発想していいのかわからなくなってしまいます。

もし、3つ以上の切り口を組み合わせて発想しようとするなら、紙に、それらの要素をバラバラと描いて眺めたほうが、箇条書きにするよりはるかにましです。例えば、3つの異なる切り口に5つずつ要素があるとすると、箇条書きの場合、5×5×5で125行……。

それより、要素を書き出て図にまとめ、グッとにらみ、直感的にさまざまな組み合わせをイメージしつつ考えたほうが、アイデアが浮かぶというものです。

 

図は、文章だけでは捉えられないものをよりわかりやすく、直感的に見せてくれます。それゆえ、本質的な理解が深まり、新しい着想を得るのに役立つのです。