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仕事が遅い人が陥りがちな「情報過多」の大弊害

「ベストな選択」に必要なことは

悩みの多くは、「どうしようかなぁ〜」と判断に迷っているときのものだと言われています。あなたは買いものをするとき、仕事で何かを決めるとき、どのように決めるのがベストだと思うでしょうか。

情報をできる限り集め、最もいいと思われるものを選びたい! そう考える人が多いと思うのですが、実は「ベストな選択」をするためにたくさんの情報を集める、時間をかけることは、かえってよくない選択をすることにつながることがあります。いったいどういうことでしょうか?

オランダのラドバウド大学の心理学者ダイクスターハウスらは、中古車を使った2つの実験を行いました。

最初の実験では4台の中古車を用意し、このうち1台だけが非常にお買い得な「当たり」の車になっています。実験の参加者たちにそれぞれの車のスペックを説明し、果たして当たりの車を選べるかどうか、という実験です。参加者は大きく、以下の2つに分けられました。

よく考えて選ぶグループ
選ぶための時間が少ない(制限時間が設定され、その前にパズルを解く課題をしてから決めなければいけない)グループ

どちらのグループにも「燃費」「エンジン」など4つのカテゴリーについて車の説明をしました。

この結果、①「よく考えて選ぶグループ」のほとんどが「当たり」の車を選ぶことができ、②「選ぶための時間が少ないグループ」も半数以上が「当たり」を選ぶことができました。

 

しかし、この実験は前フリ。本命は次の第2段です。

第2段も同じシチュエーションで、4台のうち1台が「当たり」。①「よく考えて選ぶグループ」と②「選ぶための時間が少ないグループ」の2グループで行います。

ただし最初との違いは、「説明する量」です。それぞれの車について説明するカテゴリーを増やし、より詳しい説明をしたのです。例えば、トランクの大きさやドリンクホルダーの数などについても伝えました。

この結果どうなったかというと、①「よく考えて選ぶグループ」の中で「当たり」を選んだ人は25%を切りました。そもそも「当たり」は4台中1台(=25%)なので、当てずっぽうに選んだのと大差ないという結果です。

ところが、②「選ぶための時間が少ないグループ」は60%の人が「当たり」を選ぶことができました。

長い時間考えてもあまり意味はない

いったい、何が起きたのでしょうか? この実験を行ったダイクスターハウスは、同様のことをサッカーでも行いました。参加者を3つのグループに分け、サッカーの試合の勝敗をそれぞれ予想してもらうというものです。

まず、①「よく考える」グループ。どちらのチームが勝つかしっかり予測する時間を与えられ、考えたうえで予想します。次に、②「当てずっぽう」のグループ。完全なる勘でどちらが勝つか予想します。最後は③「短時間で決める」グループ。試合とは関係ない課題(パズルなど)をまず行ってから時間のない中で予想を行います。

この3グループで試合予想をしたところ、最も正解率が高かったのは、③「短時間で決める」グループでした。その正答率は①と②のグループの3倍以上になったといいます。

車とサッカー、いずれの実験でも、「短時間で決めたグループの正解率が高い」という結果になりました。理由として、短時間で決めなくてはいけないグループは、時間がない分、情報に正しく優先順位をつけて、合理的に選択できたのではないかと考えられています。

例えば中古車ならば、「燃費のよさ」、サッカーならば「FIFA世界ランキング」といったように、時間がないからこそ重要だと思われる指標を絞り、素早く優先順位をつけることで合理的な選択ができたのです。

一方、よく考えるグループに起きたのは情報過多による混乱です。「ドリンクホルダーの数」や「選手にまつわるうわさ話」など、時間があるからこそ細かい情報に意識がいってしまい、小さな欠点やマイナス要因が大きな問題のように見えてしまいました。

そのために、ものごとをシンプルに、大局的に考えられなくなってしまったのです。あれもこれもと検討を重ねているうちに、最適でない答えにたどりついてしまうことがある、というわけです。

何事も万全を期すことは重要なのですが、「時間さえあればいい選択はできる」「情報は多いほうがいい」とは限らないのです。

仕事のできる人というのは、「頭の回転が速い」「センスがいい」「直感で動いている」などと言われることもありますが、その本質は無意識を上手に使っているのではないかと思います。優先順位をつけておき、細かいところには目を向けない(=忘れていく)。このような習慣が思考のムダを省き、より素早い行動につながっているのです。

迷ったら「コイン」に聞け

それでもどうしても迷ってしまうというなら、もういっそのことコインで決めるというのはいかがでしょうか? 乱暴すぎると思われますか? でも実はこれにもちゃんと科学的根拠があるのです。

シカゴ大学の経済学者、スティーヴン・レヴィットは「人生の重要な選択の場面において、自分で決断できない人はどう決断すべきか」調査をしました。

そして、この調査のために作ったのがあるウェブサイト。「コイン投げサイト」と呼ばれるもので、閲覧者たちが「今決めかねていること」を書き込み、画面上のコインを投げるというものです。

このコインの表が出たら「実行」、裏が出たら「実行しない」というメッセージが出るというとてもシンプルなつくりです。レヴィットはこのサイトで1年かけて4000人の悩みを収集し、「コイン投げの決断によって人生がどう変化したか」ユーザーたちの追跡調査をしたのでした。

書き込まれた悩みとしていちばん多かったのが「今の仕事をやめるべきかどうか」、次に「離婚すべきかどうか」で、驚くことにユーザーの63%がコイン投げの結果に従って行動していたのです。

「決断すること」が人を幸せにする

さらに驚きの結果は、コイン投げの結果が表だろうが裏だろうが、悩みの解決に向かって何かしら行動を起こした人は、半年後の幸福度が高いことがわかりました。

「会社をやめる」という決断をした人も、「やっぱりこのままがんばろう」と決断した人も、いずれのパターンでも幸福度は高くなったという結果が得られた、というわけです。

つまり、決断においては「どう決めるか」ではなく、「そもそも決められるかどうか」のほうが重要だということです。やると決める、やらないと決める、そうして腹をくくることが結局のところ人生の満足度を大きく左右します。

キャリア支援会社のアンケート調査によると「近い将来転職したい」と考えている人は93%という結果もあります。もちろん、それがポジティブなキャリア設計のうちなのであれば何の問題もないのですが、「やめたいなぁ……でもなぁ……」と「宙ぶらりん」の状態はパフォーマンスを落としてしまう原因になります。

なかなか決断できないことで悩んでいるときは、例えば「これから3カ月は今の仕事をやる!」とまず決めて、やめるかどうかはそのあと考えようなど、期限つきで選択をしてみるのもいいかもしれません。