航空機並み速度のリニア走らせるテスラの思惑 「ハイパーループ構想」のインパクト

電車の2倍速く、40%安いロボタクシーも広める

イーロン・マスク氏のハイパーループ構想は、カリフォルニアで走っているスピードの遅い鉄道を、より速いリニアモーターカーにしようというもので、驚くのはリニアのスピードです。現在のリニアモーターカーの最高時速500kmのおよそ倍、航空機と変わらない時速1000kmものスピードの鉄道を実現しようとしています。

このような速いスピードが出る秘密は、トンネルの構造です。従来のトンネルとは異なり、真空チューブのような構造にすることで空気抵抗を減らし、スピードを高めようとしているようです。すでに試験走行も開始しています。ハイパーループが日本で実現し、ドル箱路線と言われている東京・大阪間に設置したら、日本の鉄道会社が出資をしない限り大打撃を受けるでしょう。

ハイパーループを別にしても、鉄道の未来も大きく変わります。運転手のいない自動運転の“ロボタクシー”も近未来に普及させようとしているからです。もし本当にこれが広まれば、鉄道の需要は一気に激減するでしょう。

浦安から六本木の距離であれば、電車なら約45分、料金は350円ですが、ロボタクシーを使えば25分で210円ほどになってしまいます。駅に行く手間もなくなり、運賃も安くなる。エンドツーエンドで、自動で好きなところに連れていってくれる。自動運転専用レーンなどで渋滞がなければどう考えても、鉄道よりロボタクシーのほうが便利です。

テスラは電気自動車を販売している会社。テスラに対しこのようなイメージを持つ人が多いと思いますが、正確ではありません。電気自動車はあくまで手段であり、テスラ代表であるマスク氏が掲げているミッションは、エネルギー問題、大気汚染の解決や地球温暖化の防止など、環境問題の解決だからです。電気自動車が世の中のトレンドだからわが社も売り出そう。ビジネスの観点で電気自動車を販売しているほかの自動車メーカーとは、そもそも根本の考えが違っているのです。

実際、ビジョンの実現に向けてほかの事業も進めています。最近注目しているのは「Powerwall(パワーウォール)」事業です。同事業は日本でも2020年から始まりますが、ソーラーパネルの設置ならびに充電などのサービスを、サブスクリプションで行うものです。初期費用は無料で、月額5000円。毎月平均して6000円ほどの電気が発電されるとのことで、利用者は1000円得するというものです。当然、発電した電気をテスラの車両に充電することで、先のエネルギー問題の解決を成し遂げたい。そのような考えがあっての事業です。

渋滞中に発生する二酸化炭素やエネルギーロスに対する取り組みも始まっています。これはかなりユニークと言いますか、マスク氏ならではのアイデアですが、渋滞を解消するために、地下にトンネルを掘ってしまおうというものです。

彼が暮らすロサンゼルスはとくに渋滞が激しいエリアであることも影響しているのでしょう。すでに計画は進んでおり、ロサンゼルスと別の地点を結ぶトンネルがほぼ完成。トンネル内は自動車が通行できるよう整備され、ドライバーはエレベーターのような装置で地上から地下に降り、あとはとくに何もすることなく、自動運転で目的地までスーッと移動できます。

このトンネルのおかげで、これまで1時間かかっていたのが10分ほどで行けるようになるそうですから、エネルギーロスはかなり削減されます。同事業はボーリングカンパニーといい、テスラの車両が実際にトンネル内を通行する様子がユーチューブでも見られますので、ご興味がある方はご覧ください。

なぜ次々イノベーションを起こせるのか?

テスラの強みは、トップのマスク氏に尽きます。彼はサイエンスやテクノロジーに詳しいため、どのような属性のエンジニアを採用すれば事業が実現するのかを、正しく理解しています。

実際、彼の下にはNASAなど国の機関で働いていた超優秀な人材が、続々と入社しています。そして実力やガッツがある者には、年齢関係なくそれなりのポジションを与える。実際、テスラの現CFO(最高財務責任者)は35歳の若さです。

ソフトバンクグループの孫正義氏のように、トップダウンでビジネスが進むのも、テスラの特徴です。テスラはもともと、マスク氏が設立した会社ではありません。「PayPal(ペイパル)」という金融サービスで得た利益ならびに、彼の経営手腕が注目され頼まれたのがきっかけです。

ハードウェアビジネスは、計画・製造から実際に製品が売れ、キャッシュが入ってくるまでかなりの時間を要します。そのため資金が乏しくなりがちです。実際、彼がPayPalで得た100億円も次第に枯渇していきました。

そこで工場の自動化ならびに、当時1000万円ほどの価格だった車種に、500万円のモデルを加えることを計画。キャッシュを稼ぐ戦略を行います。ところが工場の自動化がうまくいきませんでした。しかし彼は諦めず工場に泊まり込み、寝る間も惜しんで何とか人力で新しいモデルを作り上げたのです。こうして完成したモデル3をきっかけに、テスラは急成長していきます。

彼の動向を見ていると、お客様志向というよりは、自分なりのビジョンや主義があり、その実現に対しこれまで培ったサイエンスなどを活用し、何がなんでも実現させる。そのような強い信念が感じられます。

地球の人口が増えすぎるから、火星に移住する。そのためにはロケットが必要だ。だからスペースXという企業も手がける、といった具合です。そしてもちろんそのロケットにも、テスラ同様自動運転技術が導入されています。

モビリティとしてもほかの自動車を圧倒している

テスラ(モデル3)は私も乗っていて、いま爆発的に売れています。売れている理由にはいくつかありますが、車のコンセプト、プロモーションの巧みさだと感じています。これまでの電気自動車は、どうしても環境に優しい、との点が強調されていました。もちろんテスラの電気自動車もそうなのですが、エコに加え、スピード、かっこよさをテスラは意識しています。

実際、実物を見たり乗ったりするとわかりますが、まず、見た目がクール。いわゆるスポーツカーのようなデザインです。そして、速い。とくに加速に関してはアクセルを踏み込むと、ガソリン車とは比較にならない勢いで飛び出していきます。

かっこよくて、速くて、環境にも優しい。それでいて500万円程度で購入できる。このようなコンセプトが受け、それまではBMWやメルセデスといった高級輸入車に乗っていた意識の高い若者が、こぞってテスラのモデル3に乗り換えるようになりました。まるでプリウスが出始めたころのような状況が、アメリカでは起きているのです。

プリウスのときと同じく、ハリウッドのセレブがこぞってテスラに乗り換えていることも、人気をさらに押し上げている要因の1つです。そのため広告は一切打っていないのですが(これも販売戦略の一貫だと思われます)、現在、注文してから納品までは数カ月という状況です。

納品まで長いため、私はテスラのほかにもう1台購入しました。ガソリン車です。そのため両者の違いがよくわかります。ガソリン車にはもう乗りたくない。そう思わせるほど、テスラは快適です。また、カリフォルニア州では2035年からガソリン車の新車販売を禁止する方針が既に出ています。

とくに便利なのが半自動運転機能です。ガソリン車にも備わっていますが、精度がまったく異なります。ガソリン車の半自動運転機能は、どこか違和感があるというか、レーンからはみ出すことはありませんが、スムーズではないのです。

 一方、テスラの半自動運転はまるで人が運転しているかのようにスムーズです。これはハンドル操作に限らず、アクセルやブレーキの操作でも同じです。そのためテスラであれば、高速道路に入り半自動運転を設定。あとは何もすることなく、それでいて快適に高速道路を降りるまでの運転をほぼ代行してくれます。

 なぜ、ここまで違うのか。車を開発するそもそもの発想が、テスラと旧来の自動車メーカーでは異なるからです。これまで自動車メーカーは、車両にコンピュータを載せることで自動化などの機能を備えていきました。

ところがテスラは真逆です。コンピュータに車輪をつけているとの考えだからです。このような考えですから、ソフトウェアの処理が抜群に優れているのです。運転席まわりもメーター類はなく、あるのはタッチパネルだけ。無駄な装備が一切なく、このあたりはアップルのデバイスに近いです。

グーグルの元会長、エリック・シュミット氏が興味深い発言をしています。「車とコンピュータは出てくる順番を間違えた。どう考えても正解は、コンピュータに車輪をつけることだ」と。実際、油圧などの機械的な機構ではなくソフトウェアでブレーキの制御などを行っているから、テスラの乗り心地はスムーズなのです。

車体が大きいこと、短い時間での乗車が多いこと、自動運転の魅力が伝わらないこと。このような理由からか、現時点では日本ではそれほど走っていないようですが、今後どのような状況になるのか、注目しています。