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警察を動かした「電動バイク」メーカーの秘策 ペダル付き電動バイクを自転車として走らせる

電動キックスクーターを手がけるgrafit(グラフィット)は2020年10月28日、東京都内で記者会見を開き、同社の「glafitバイク」に走行運用での特例が認められたと発表した。

今回、認められた特例とは、grafitが販売済みのペダル付きgrafitバイク「GFR-01」に対し、「自転車」と「電動バイク」の切り替えが認められるようになったことだ。

これにより、原付としてナンバーを取得したgrafitバイクでも、これに対応する新機構を装着することで、自転車モード時は道交法上、普通自転車と同じ扱いが受けられる。

この特例は、内閣官房の新技術等実証制度(規制のサンドボックス制度)を活用して実現したもので、この制度が施行されて以降、モビリティ分野で結果を出したケースは初めてという。

原付扱いでは車道でしか走れない

同社が販売してきたglafitバイク「GFR-01」は、2017年に販売が開始された。パワーユニットの出力を切っていても、ペダルを漕げば自転車と同じように走れるこのスタイルは、1950年ごろの日本でも「モペット」あるいは「パタパタ」と呼ばれる手軽な乗り物として普及した時期があった。当時はモーターではなくエンジンを組み合わせて走行することから、原動機付自転車(原付)の原型となった経緯がある。

そのため、これと基本的に同じ形態を採るglafitバイクも、日本では法律上原付として扱われ、乗車時は免許保持者がヘルメットを着用し、車道を走行することが義務付けられてきた。ただ、ペダルを備えるgrafitバイクの形態を踏まえれば、必要に応じて自転車と電動バイクを使い分けができる「ハイブリッドバイク」としたほうが理に適う。

もしそれが可能となれば、自転車道のほか、自転車が走行できる区分が設けられた歩道なども走れるようになり、利用範囲がグッと広がるからだ。「海外では時速20km程度以下の場合、自転車として扱う事例もある」とgrafitの鳴海禎造(なるみていぞう)社長は話す。そうした事情を踏まえ、これまでgrafitはその使い方をさまざまな方法で模索してきた。

この流れを大きく変えたのが、内閣官房のサンドボックス制度の創設だった。

サンドボックス制度が創設される以前は、認可を取るのに自転車なら経済産業省、保安基準なら国土交通省、そして道交法については警察庁と、それぞれの窓口を訪ねるしかなかったが、サンドボックス制度の創設によって1つの窓口で可能となった。

鳴海社長も「この創設で申請に弾みがついた」と振り返る。一方、この動きにgrafitが本拠を構える和歌山市も動いた。grafitが目指す自転車モードの特例について、共同で応募することに応じたのだ。

 

和歌山市産業交流局産業部長の松村光一郎氏は、これについて「地方では公共交通機関が充実しておらず、特にクルマの運転から離れた高齢者にとっても(ハイブリッドバイクのような)身近な乗り物は欠かせない。加えて観光用としての活用も今後考えていきたい」ことが背景にあったという。また、共同で応募したことについては「地元発信のベンチャー企業としてgrafitの提案を支えたいという思いもあった」と語る。

この応募は2019年10月に認可され、それ以降、grafitは自転車モードを新たに設定することで、普通自転車として認められるための実証実験に入った。期間は3カ月。和歌山市内で、一般ユーザーも参加し、繰り返された。そこで得られた参加者の声は「自転車道があっても車道を走らなければならず、大型車が多い幹線道路では怖い」「バッテリーが切れてペダルを漕いでいても自転車道を走れない」といったものだったという。

秘策はナンバープレートのカバー

そうした声を踏まえ、「やはり自転車モードは欠かせない」と判断。準備したのが自転車モード時は、ナンバープレートを隠すカバーを付けて周囲に自転車として認識してもらえる新機構だった。

カバーには、日本語がわからない外国人でもすぐに理解できるよう自転車マークを描き、カバーの上げ下げはバイク側の電源OFF時でなければできないようにもした。この結果、「新機構をつけたglafitバイクの電源をOFFにし、ナンバープレートを覆ったときは道路交通法上、普通自転車として取り扱い」されることになり、名実ともにglafitバイクが「自転車×電動バイク」のハイブリッドバイクとして認められることになったのだ。

一方、「この特例は他社製品でも認められる可能性はある」と、内閣官房成長戦略会議事務局の参事官補佐(総括担当)の萩原成氏は話す。

その理由として、特例の認可に当たって警察庁は「走行中にモーターを容易に使えない構造であること」「走行中にその自転車モードであることが外観上わかること」「乗車しながら切り替えられない構造になっていること」の3つの要件をクリアすることを条件とした。

逆に言えば、ペダル機構を備えたうえでこの要件を満たせば、他モデルでも認められる可能性はあるということになる。

また、自転車として使うべき状況下で、そのまま電動バイクとして使われてしまうのではないか、という懸念もある。この件について鳴海社長は「それは故意による違反運転となるもので、現状の原付を運転したのと同じこと。その部分はメーカー責任ではなくユーザーの倫理観になる」との見解を示した。

この日、記者会見で披露された新機構は、仕上がりも少々武骨な印象。そこでこのまま商品化するのかと質問すると、鳴海社長は「これはあくまで試作品で製品版はもっとスマートな形状になる」と力説。2021年春から夏頃までに商品化を目指すそうだ。

なお、この新機構はすでに販売を終了している現行grafitバイクの有償オプションとして用意されることになるが、今後発売を予定しているGFR-01の後継モデルにもこの新機構を搭載して販売する予定でいるという。

電動バイク普及の「変革の流れ」になるか

世界では電動バイクの普及が進むが、日本では機構的な枠組みで捉えられるため、どうしても法律上の壁が立ち塞がって先へ進めないでいた。今回の特例措置は、スイッチで切り替えるという極めて日本らしい対応でこの壁を乗り越えた。つまり、法律はそのままにしつつ、運用方法で時代に合わせた解釈を加えたところにポイントがある。

今後も時代の変化とともに、新たな乗り物が出てくる可能性は高い。折しも地域を限定して電動キックスクーターを自転車道で走ることができる実証実験も進んでいる。今回のgrafitバイクで認められた特例措置が、そんな時代に合わせた変革の流れを生み出すきっかけになることを期待したい。