GoToイートでも救われない外食チェーンの不満

23日間で1535万人が予約

委託費なども含めて約2000億円の税金を投じるGo To イート。利用手段は、①購入額の25%分が利用可能額に上乗せされるプレミアム付き食事券を買う、②オンライン飲食予約サイトを通じて予約・飲食することで次回以降に利用できるポイントを得る、の2つがある。

後者のポイント付与については、野上浩太郎農林水産相が10月30日の会見で述べたように、10月1日からの23日間で1535万人の予約があった。1品だけ注文してポイントを獲得する「錬金術」が横行するなどの騒動も一時あったが、消費者にはおおむね歓迎されているようだ。

一方、多店舗展開している外食チェーン事業者を中心に、ポイント付与の仕組みについては不満が絶えない。Go To イートでは、外食チェーンなどの自社サイトがポイント還元の対象から排除されているからだ。

Go To イートでは、農林水産省から委託を受けた企業のオンライン飲食予約サイトを使うことになっている。ポイント還元の対象となるのは「ぐるなび」やカカクコムの運営する「食べログ」などの大手予約サイトが中心だ。

その理由について、農林水産省の担当者は「迅速かつ消費者の使い慣れたサービスで展開するため、大手予約サイトを活用している」と説明。利用が系列店に限られる外食チェーンの自社サイトについては、「幅広い利用は見込めないと考え、キャンペーン対象から外した」(同)と話す。

予約サイトの送客手数料が重荷に

ただ、その説明に納得できない事業者は少なくない。近年、一定程度の事業規模を持つ外食チェーンを中心に、自社サイト上で予約を受け付け、ポイントを還元するなど、「脱・大手予約サイト」の動きがみられていた。

冒頭の外食チェーン経営者はその1人だ。年間で約1億円、営業利益の3割弱に相当する資金を自社サイトの運用費に投じ、自社での集客に力を注いできた。このような事業者からすると、外部の予約サイト上で展開されるGo To イートはせっかく囲い込んできた顧客の流出につながりかねない。

ローストビーフ高級店「ロウリーズ・ザ・プライムリブ」などを国内で49店舗運営するワンダーテーブルの秋元巳智雄社長も、大手予約サイトからの脱却を進めてきた。「大手予約サイトを解約する事業者が増えてきた、ここ2~3年の業界の潮流とGo To イートは逆行している」と指摘する。

外食向け人材サービスのクックビズが行った調査からも、外食事業者の大手予約サイト離れの傾向が見て取れる。サイトを「積極的に利用する」と回答した外食事業者は、2017年12月時点の13%から2020年3月時点で3.9%に落ち込んだ。

大手予約サイトは来店者1人当たり50~200円程度の送客手数料を外食事業者から徴収している。経済産業省によれば、外食事業者の営業利益率は平均8.6%。つまり、客単価が2300円を超えなければ、外食事業者は200円の手数料を払った後に利益が残らない計算となる。

外食チェーンにとってさらに厳しいのは、Go To イートだけでなく、足元の事業継続に必要な支援策も実態に沿ったものになっていない点だ。いずれの支援策も個人店舗を想定して制度設計されているからだ。

売り上げが落ち込んだ外食事業者に対して、政府は店舗の家賃補助などの支援を行っている。だが、その支給額の上限は展開する店舗数にかかわらず、上限600万円。複数店舗を展開する外食チェーンからすると雀の涙の支援策でしかなく、「1店舗分の家賃すら払えない」(都内の外食チェーン経営者)という。

外食チェーンは支援策の盲点に

串カツ田中ホールディングスの貫啓二社長は、「労働集約型である外食事業では、大手チェーンだろうと個人事業主だろうと、店舗にかかる費用はほぼ同じ」と指摘する。そのうえで「店舗ごとの支援でなければ意味がない。コロナ禍による債務超過の懸念は個人経営店より外食チェーンのほうにある」と話す。

外食チェーンはいわば政策の盲点となっている。ワンダーテーブルの秋元社長などが陳情に動き、2020年5月末に麻生太郎財務相を発起人代表とする「多店舗展開型飲食店議員連盟」が自民党内に発足した。10月に行われた第3回総会では、外食チェーンの経営者から窮状と支援制度の不備を訴える声があがった。

議連の事務局長である薗浦健太郎衆議院議員は、「雇用のボリュームや経済へのインパクトを考えると、外食チェーンにこそ支援が必要だ。需要を喚起するGo To イートの方向性自体は間違っていないが、外食チェーンからすれば今の支援だけでは全然足りない」と強調する。

外食事業者の間ではコロナ禍の打撃は今なお続いている。Go To イートも含めて、外食事業者の実態に合った、きめ細かい支援策が求められる。