廃プラスチックを宝の山にする方法が開発されました。
10月12日に『Nature catalysis』に掲載された論文によれば、マイクロ波を使うことでプラスチックに含まれる水素の97%を回収する方法がみつかったのだとか。
プラスチックの代表である、ビニール袋に含まれる水素は重量比にして14%とされており、1kgのビニール袋のゴミから理論上、13.58 gの水素を回収することができます。
2005年には水素1gで電気自動車を25kmも走らせることに成功しており、13.58 gの水素があれば計算上、340kmぶんの距離を走行可能になります。
しかも、この「廃プラを燃料にして走る車」から排出されるのは二酸化炭素ではなく、非常に純度の高いカーボンナノチューブの塊だというのです。
しかし、研究者たちはいったいどんな仕組みで、プラゴミから水素とナノチューブを抽出したのでしょうか?
目次
マイクロ波でプラスチックを温める方法
イギリス・オックスフォード大学のピーター・エドワーズ氏は、ブラスチックの再利用技術を研究していました。
代表的なプラスチックであるビニール袋は非常に厄介なゴミである一方で、重量比にして14%の水素を含んでいることが知られています。
もしこの水素を簡単に抽出することができれば、廃プラは一夜にして燃料電池を充電する電力源にうまれかわります。
ただ問題は方法でした。
プラスチックから水素を抽出するには、理論上、高い温度が必要とされており工程も複雑です。
そこでエドワーズ氏らは電子レンジの原理を応用することを思いつきました。
電子レンジはマイクロ波を発することで、内部の水分子を振動させて熱を生じさせます。
ただプラスチックは水分子と異なり、マイクロ波ではうまく加熱できません。
タッパに入った食材を電子レンジで温めても、加熱されるのは食材のみで、容器のプラスチックは熱くならない…という事実は誰もが知る常識でしょう。
そこでエドワーズ氏らはある「ひと手間」を加えることにしました。これが、後に大きな成果をもたらすことになるのです。
ナノサイズの金属粒子を加えて水素を抽出する
エドワーズ氏らが加えたひと手間とは、ナノサイズの酸化鉄粒子と酸化アルミニウム粒子でした。
近年のナノテクノロジーの進歩により、導電性の金属をナノサイズまで砕いていくと、ある大きさ以下では金属としての振る舞いが停止し、マイクロ波の吸収量が10ケタ増加するという性質がわかってきました。
エドワーズ氏らはこれらナノサイズの金属粒子を、砕いたプラスチックの粉末と混ぜることで、粒子を介してプラスチックを温められると考えたのです。
実験を行った結果、予想は的中します。
ナノサイズの金属粒子はマイクロ波を吸収して高温になり、粒子(特に鉄粒子)の表面ではプラスチックが加熱されて水素が発生すると同時に「燃えカス」として炭素の塊が生成されたのです。
また計測により、この新しい方法の水素回収率は非常に優れており、プラスチックに含まれる水素の97%にあたる量を、わずか数秒で回収したことが判明しました。
さらに、より興味深い現象が、燃えカスとなった炭素塊から発見されます。
なんと燃えカスの9割はカーボンナノチューブで構成されていた
エドワーズ氏らが水素が抜け出て真っ黒になった元プラスチックを分析した結果、この炭素塊(燃えカス)の92%がカーボンナノチューブで構成されていることが判明したのです。
カーボンナノチューブは炭素分子のみでつくられたチューブ状の構造であり、次世代の半導体や燃料電池などへの応用が期待されている素材です。
しかし、なぜプラスチックと金属粒子の混合が、カーボンナノチューブをつくりだしたのでしょうか?
ナノサイズの鉄粒子は未知の触媒現象を起こしていた
マイクロ波で加熱された金属粒子が、プラスチックからカーボンナノチューブを作り出す過程は、上の図のようになります。
マイクロ波が金属粒子を加熱すると、熱が粒子からプラスチックに伝わり、プラスチックを構成する炭素と水素の結合(C-H)が破壊され、純粋な炭素と水素が生成されるのです。
また炭素の生成と析出が続くと、炭素は金属粒子(特に鉄粒子)の表面を滑るように移動しながら、円筒状のカーボンナノチューブに結晶化していきました。
この過程が事実ならば、マイクロ波照射によって鉄粒子が加熱された結果、なんらかの分極が鉄粒子に発生し、カーボンナノチューブを連続的に生み出す、未知の触媒プロセスが働いていることを意味します。
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