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前例がない問題でも答えを導き出せる「図頭」力

「高学歴」≠「本物の考える力」

私が就職した頃と違って、格段に情報があふれる世の中になりました。経営学の世界でも、さまざまな理論や事例の本がすぐ手に入ります。

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こんな世の中だからこそ、うわべだけのスキルではなく「本物の考える力」「深く考える力」を身に付けるべきです。そして、その1つの手段が「図を描いて考えること」であるというのが本稿の主張です。

「図を描いて考える」力、すなわち「図頭」力は、与えられた問題を解く力、受験を突破する力とは異なります。受験における論理は、与えられた問題に対して、既にある解答を頭にインプットし、記憶し、アウトプットすることです(極端にいえば)。これは本稿でいうところの「本物の考える力」ではありません。

ここで伝えたい「考える」は、前例のない問題に対峙したとしても、真っ白な紙のうえに、自分の頭で発想し、ものごとを理解していくことです。解くべきお題を与えられ、答えへの道筋が既にわかっていることを試されるのとはまったく訳が違います。

真っ白な紙のうえからスタートするのですから、何を考えるべきかも含めて考えなければなりません。これは、「本当の問題は何か」を考える問題設定の課題であり、100%正解のない問題に対して答えを出していくということでもあります。こんな能力はなかなか受験勉強では鍛えられません。

実際、私がこれまで会ってきた多くの優秀なビジネスパーソンや研究者は、よくホワイトボードの前に立ち、図を描いて考えていました。図を描いて考えたプランで何十億円ものビジネスが動いてきたことも、何度も見てきました。

「図頭」力を鍛え、図を描いて考える習慣を身に付けることは、ビジネスで大きな武器を手に入れることになるのです。

なお、ここで言う図は、何も難解な図である必要はありません。紙1枚(例えばA4)や、ホワイトボードに描かれる線や丸や四角と言葉で表現されるイメージと思ってください。そうした図を描きながら考えるだけで、誰でもより深く考えることが可能になるのです。

(写真:筆者提供)

図を描いて考える5つのコツ

図の描き方には、ルールがあるわけではありません。基本的に自由に描いて構わないのですが、私なりの「これだけは知っておいたほうがいい」と思う5つのコツについて、ここでご紹介します。

○コツその1:複雑な図形は使わない

描く図の形は四角と丸で十分です。いろんな種類の図を描こうとすると、その分類をいちいち考えながら図を描くことになり面倒です。そんなことに意識を払っていると、せっかくの思考の流れが分断されてしまいます。だから四角と丸で十分なのです。

では、四角と丸はどう使い分ければいいのでしょうか。実は私自身あまり厳密に区分はしていません。そのときの気分で四角の枠を描いたり、丸を描いたりします。

 

でも大まかにいうと、四角は事実(ファクト)などのしっかりとわかっている事柄などを書くときに使い、丸は、どちらかというと、概念やキーワードを書く際に使っています。

○コツその2:文字は少なめ、短め

図に文字を添えることもありますが、文字数は少なめがいいです。そして極力、文章は避けたいです。あったとしても、できれば、体言止めで抑えるくらいが望ましいと思います。

なぜなら、「図で考える」とは、文字も含めてイメージで理解しようとする試みだからです。できるだけ「右脳的に」です。ここでは文章を読んで理解する思考プロセスは最小限にとどめたいものです。

言葉の選択を考え抜くべき理由

ただ、言葉はすごく効率的な「記号」であることも確かです。言葉には言葉のパワーがあります。とくに本質をえぐり出すようなキーワードが見つかったときの威力は絶大です。思考がうまく結晶化されるし、コミュニケーションも円滑化します。それゆえ、キーワードを使う場合は、言葉の選択をできるだけ考え抜くべきです。

例えば、一時期、「現場力」や「見える化」という経営上のキーワードがはやりました。もともとトヨタの経営現場から生まれてきた言葉ですが、「現場」に「力」をくっつけたことで、現場に内在する能力がハッキリと意識されるようになりました。「見える」に「化」をつけることによって、見えないものを見えるようにしていくプロセスに光があたりました。これがキーワードの持つパワーだと思います。

○コツその3:「線」を使って関係性を理解する

線には「つなぐ」「囲む」「分ける」役割があります。

「分ける」と「囲む」は本質的に同じですが、書き出したものをグルーピングし、意味のある塊を炙り出してくれます。一段、抽象度が上がり、木を見ただけでは見えなかった森の特徴が見えてきます。

また「つなぐ」は、大事な関係性の見える化です。相関や因果が、つなぐことでより明確になります。つまり線を使うことで、構造や因果がハッキリとしてくるのです。

私は、関係性の強さを「線の太さ」で表現するようにしています。図を描いているとき、「この関係性が重要だ!」と思うと、ペンを何度も往復させ、その線を太くするのです。手を往復させている間にも、その関係性の重要性を頭に定着させていきます。それが次の思考につながったりします。

○コツその4:大事なところを強調する

「コツその3」の線を太くするのも強調の1つですが、大事な要素を強調することで、思考にメリハリを加えられます。

 

このときに、赤や青の色を使うのは効果的です。たくさんの種類の色はいらないですし、どの色をどんな意味に使おう、と明確に決めなくていいと思います。ただ、同じ1枚の紙の中では、同じ目的には同じ色を使うほうがわかりやすいとは思います。例えば、大事なことは赤。まだまだ考え抜かないといけない要素は青とか、といった具合にです。

私がよく使う強調の方法は3つあります。

まずは、大事そうな部分を太く囲んで目立たせること。

2つ目は、☆マークをつけることです。「おおよそ考えていることを紙の上に表現できたな〜」と思える頃、☆のマークを大事そうなところに描き足すのです。時には、重要性に応じて☆の数を変えることもあります。

3つ目は、☆の代わりに①、②、③……のように、順番も意識して番号をつけることです。これは話の流れを意識するときにも役立ちます。

○コツ5:周りに余白を残しながら描いていく

最後は、図を描き始める際、紙のどこから描き始めるべきか、です。

その答えは、「上下、左右に多少の余白を残して描く」です。なぜなら最初はビッグ・ピクチャー(全体像)を見通せていないことも多いので、最初の図の枠組みだけですべてをうまく捉えることが難しいからです。意識的に余白を残し、周囲をあけておくほうがベターなのです。ほとんどの場合、そのスペースは後で必要になります。

また、余白は新たな気づきのヒントにもなります。

余白を見るということは、何か抜けていないかと、図を「健全に疑ってみる」ことにつながり、新たな切り口や新たな要素を強制的に思いつくためのきっかけになるからです。余白が発想を刺激する。その余白に新たな着想が書かれていく。これは、余白が発想を広げることを支援し、新たな着想が図を豊かにしていくという好循環です。

「基礎」をマスターして、「図頭」を鍛えよう

本稿でご紹介したのは、図を描いて考える際の「基礎」ともいえるコツです。

ここで、「基礎」と呼んで、「基本」と呼んでいないのには訳があります。

基本には、簡単なこと、最初に学ぶべきこと、というニュアンスがあります。

それに対し、基礎には、「それをよりどころとしてものごとを成り立たせるもの」「全重量を支える土台」といった意味があり、根本をなすものを指しています。つまり、必ずしも簡単なわけではないのです(困ったことに)。

ただし、基礎を固めると、図で考えることのハードルが下がり、より複雑な図を描いて考えるといった応用も容易に可能になります。紙1枚に描かれるイメージ、それが深く考えることを助けてくれるのです。

 

ぜひ皆さんも、基礎をマスターして、図で考える習慣を身に付けてください。そうすると「図頭」が鍛えられ、答えのない問題、前例がない問題に対しても、きっと今まで以上に「より深く」「より本質的に」考えることが可能になるでしょう。