新アップルウォッチ「健康機能」の意外な使い道

新しいアップルウォッチは、一言で語れる。「血中酸素濃度」だ。

9月18日に発売になった「Apple Watch Series 6(アップルウォッチ・シリーズ6)」の特徴として最も重要なのが、血中酸素濃度を測定できることだ。

新型コロナウイルス感染症の重症患者は、血中酸素のレベルが低下する傾向にあるため、この機能は「ウィズコロナ」の現在では特にタイムリーだ(それ以外の部分では、昨年のアップルウォッチと大差ない)。

だが、実際のところ、この機能はどの程度、ユーザーの役に立つのだろうか。

血中酸素濃度の情報を得てどうする?

筆者はこの399ドルのアップルウォッチを1日かけてテストし、血中酸素濃度を測定してみた。測定の仕方は簡単だ。血中酸素のアプリを立ち上げて、手首を動かさないようにして、スタートボタンを押す。すると、時計の裏側についたセンサーが、光を手首に当てることによって装着者の血中酸素濃度を測定し、15秒後に結果を出す。筆者が3回測定してみたところ、血中酸素濃度は3回とも99%から100%の間だった。

ただ、この情報を得てどうすればよいのか、よくわからなかったので、医療の専門家2人にこの新機能について聞いてみた。2人とも慎重ながらも、この機能の潜在的なメリット、特に研究面でのメリットについてはプラスに捉えていた。彼らによると、ある程度の正確さで定期的に血中酸素レベルを測定することは、睡眠時無呼吸症候群などを発見するのに役立つ可能性があるという。

「継続的にデータを記録することは、傾向を見るという点で非常に興味深い」と、ミシガン大学の医療睡眠クリニックの医師、キャシー・A・ゴールドスタインは言う。ゴールドスタインは、アップルウォッチで収集したデータを調べた経験がある。

しかし、比較的健康な人であれば、血中酸素濃度を毎日のように測定すると、必要以上の情報を手にすることになるかもしれない。カリフォルニア大学サンフランシスコ校の心臓専門医、イーサン・ウェイスは、血中酸素の数値が人々を慌てさせ、不要な検査を受けることにつながるかもしれないと言う。

「プラス面もあるがマイナス面もある」とウェイスは警告する。「病院に行かずに済み安心感が得られるかもしれないが、一方で、多くの不安を引き起こす可能性もある」。

スマートウォッチが健康状態をモニターする新たな機能を加えたら、ユーザーはそれをどう使うかを理解しなければならない。そのことは覚えておくべきだ。2018年に、「Apple Watch Series 4」が心電図を記録できる心臓センサーを搭載した時、すでに心臓に何らかの病気があることが分かっている人にとっては有用だった。

しかし、医師らが警告したのは、その機能を使って早合点すべきではないし、心臓発作やほかの病気について、自己診断すべきではないということだった。今回も同じことだ。

血中酸素濃度が下がっても慌てずに

健康な人であれば、血中酸素濃度は通常、90%代半ばから後半だ。ゴールドスタインによると、肺の病気や睡眠障害、呼吸器感染症などの病気があると、この数値が60%台から90%台前半に下がる可能性があるという。

もしApple Watch Series 6を購入して、自分の血中酸素の情報にいつでもアクセスできるようにするならば、そのデータについて考える枠組みをきちんと持っておくことが重要だ。ゴールドスタインは、まずかかりつけ医を持って測定値を共有できるようにし、年齢や持病など、体の全体的な状態の中にそのデータを位置づけられるようにすることが大切だと言う。

そして、医療的なアドバイスや診断に関しては、必ず医師に従うことだ。ゴールドスタインは次のように話す。もし、血中酸素濃度が大幅に下がることがあっても、必ずしも慌てる必要はなく、詳しく調べるかどうかを医師と相談すべきだ。反対に、血中酸素の数値に異常がなかったとしても、熱やせきなどの症状があるならば、医師にかからなくてよいという理由にはならない――。

時計ではなく、医療の専門家に、とるべき行動を教えてもらおう。

カリフォルニア大学のウェイスは、健康上の問題があることが分かっている人には、血中酸素のモニタリングは有用かもしれないと言う。たとえば、心不全に罹患した経歴がある人が、運動中に血中酸素濃度が低下することに気づいた場合、その情報を医師に伝えたら、医師は治療法を修正できるかもしれない。

また、血中酸素の情報は、病気にかかっている人が病院に行くべきかどうかを判断するのにも使える。「患者が私に電話をしてきて、『自分はコロナに感染していて、いま血中酸素レベルが80%だ』と言ったら、私は『病院に来てください』と言うだろう」とウェイスは言う。

結局のところ、血中酸素濃度のデータ単独では、それがすぐに役立つことはなく、その情報をどう活用するかはユーザーが決めなければならない。アップルは、血中酸素の情報をどう扱うべきか、あるいはその情報に対してどう感じるべきかについては、何も言っていない。それは風呂場の体重計が、体重が多すぎるとは教えてくれず、ダイエットの計画もしてくれないのと同じである。

ゴールドスタインは、そのデータで不安が高まるようであれば、ただ単にその機能を使えないようにすればよいと言う。

睡眠時無呼吸症候群の発見には使える可能性

しかし、血中酸素の測定が、今日では単なる受け狙いのように見えたとしても、新しい健康モニタリングの技術が将来どんなメリットをもたらすかに関しては、偏見を持たずにいることが重要だ。

ゴールドスタインもウェイスも、ウェアラブル・コンピューターが役に立つ可能性がある分野として、睡眠時無呼吸症候群を挙げる。睡眠中に呼吸に問題が生じるこの病気には、アメリカでは数百万人が冒されているが、多くの人はその病気を持っていることに気づかない。

ここには1つ解決しにくい状況がある。もし、睡眠時無呼吸症候群の症状があるとわかれば、医師は検査をしようと決めることができる。血中酸素レベルの低下も、この病気の症状の1つだ。しかし、眠っている時には症状には気づけないので、医師が検査を決めることもない。

Apple Watch Series 6は、バックグラウンドで定期的に血中酸素を測定し、眠っているときも測定し続ける。だから、眠っている間のデータを収集すれば、自分自身について知らなかったことを発見するかもしれない。あるいは、発見しないかもしれない。

「始めてみるまでは、その情報が有用かどうかはわからない」と、ゴールドスタインは言う。