発達障害の上司に「疲弊する人」「しない人」の差

近年、欧米などでは自閉症などの発達障害者を高スキルのAI人材やITエンジニアとして活用する「ニューロダイバーシティ」への取り組みが増えてきています。ニューロダイバーシティとは「神経の多様性」を意味する新語です。発達障害は、周囲による少しの支援、協力、理解があれば、能力が開花される、という考えがベースにあります。

実際、発達障害の特性を持つ人の中には、仕事やクリエイティブの領域で素晴らしい能力を発揮する人も多くいます。「天才」と言われたスティーブ・ジョブズ氏やビル・ゲイツ氏、国内では楽天の三木谷浩史氏もADHDの傾向があることを明かしています。

「発達障害の上司」の特徴とは?

しかし、日本ではまだまだ「発達障害の人」=「困った人」として捉えられてしまうことも少なくありません。まずは、その特性を理解することから始めてみたいと思います。

たとえば、下記のような上司の行動に困ったことはありませんか。

 

・「理論的に」「冷静に」ではなく、「感情的に」話をする
・不測の事態が起こるとすぐパニックになる
・こちらの話を間違った方向に解釈して、うまく伝わらない
・思いつきで行動、指示することが多い
・周りへの配慮、思いやりに欠ける
・整理整頓が苦手で机の上が散らかっている

一見理不尽に感じても、それは性格ではなく脳の機能の問題で、本人もどうしたらいいのかわからず困っているかもしれないのです。

発達障害には、おもに3種類の傾向があります。

①ASD:自閉症スペクトラム障害(旧:アスペルガー症候群、自閉症)
②ADHD:注意欠如・多動症
③LD:学習障害

上司がどの傾向が強いかによって、接し方も変わってきます

デリカシーがない発言は発達障害が原因?

以前アスペルガー症候群と呼ばれていたASDの傾向を持つ方は、人の気持ちを察することが苦手であることが多く、悪気なく失礼なことを言ってしまうことがあります。女性に対して平気で「最近太ったね」と言ってしまったり、大事な打ち合わせを待たせてしまったりして、場の空気を読むことが苦手なのです。

「上司だから……」と何も言わず我慢してしまうと、本人は気がつかないことが多いので「そういうことを言われると傷つきます」とはっきり伝えると、上司との良い関係が作れるかもしれません。

工夫1:視覚に訴えてみる
ASDの方には口で説明するよりも、イラストや文字など、視覚に訴えるのが効果的なタイプも多くいます。そんなタイプの方に込み入った説明が必要な場合は、「AがBなので、結果的にCになります」などと、紙に書きながら伝えるようにします。特別支援教育の場でも「視覚支援」はよく取り入れられている手法です。

1日の予定を、口頭ではなく絵に書いて説明したり、授業の流れをあらかじめ黒板に書いたりして、見通しを持たせるのです。

工夫2:あいまいな表現は控える
また、「納期が予定より少し遅れそうです」などと伝える場合、発達障害の特性としてあいまいな表現が理解できずに誤解のもとになりがちです。あなたが「2〜3日程度」のつもりで話しても、上司は「じゃあ、今日の夕方くらいかな」と思い込んでしまい「話が違うじゃないか!!」と怒り出しかねません。

 

「納期が2日間遅れます。水曜日の午前中には仕上がります」と、はっきり確実に伝えましょう。

私も、抽象的な話を理解するのが苦手です。勝手に変な方向に解釈して話を進めて「そうじゃないんだよ……」といわれたことは数知れず。

そこで、あいまいなことをいわれたら必ず「具体的にどういうことか」としつこく質問することにしています。結果としてお互いのコミュニケーションの行き違いを防ぐことができます。

工夫3:上司のために優先順位をつけてあげる
発達障害、特にADHDの多動傾向が強い方は、優先順位を決めるのも苦手です。目につくもの、耳に入るものすべてに衝動的に反応してしまうのです。

部下が「どの仕事から優先したほうがいいでしょうか?」と聞いても、何を先にすればいいのかがわからず、どう指示を出したらいいか密かに悩んでいるかもしれません。そこで「Aの案件は納期が早いのでAから着手して、終わり次第B、Cの順でどうでしょうか?」のようにまずは提案という形で投げかけてあげると、答えやすくなります。

勝手に優先順位をつけてしまうと波風が立つかもしれませんが、提案して承諾をもらうという形なら、上司の顔も立てることができます。

目指すは「みんなでサポートし合える環境」

「ここまでお膳立てしないといけないのか」と思うかもしれません。たしかに、このような上司を持つのは部下にとっては大変なことと思います。中にはそれが原因で会社を辞めてしまう人も多いでしょう。

しかし、管理職に昇進するのは、それなりに評価をされてのこと。そして、上司と部下という関係をうまくいかせるために上司からだけではなく部下からも配慮するのは、現実的な対策だと感じています。周囲が、環境や接し方さえ工夫してあげれば解決できることも多いのです。

私自身も、積極的に障害をカミングアウトし「このような支援が必要です」と訴えかけることで、働きやすい環境を手に入れてきました。もちろん、一方的にすべてを求めるのではなく、無理ない程度に絞って配慮をしてもらっていますが、周囲の理解やサポートには本当に助けられています。

こうした周囲の人の得意・不得意をお互い認め、支え合っていく「ニューロダイバーシティ」の考え方が日本でも広まり、どんな人にとっても働きやすい社会が実現していくといいなと願っています。