多くの店が「シェアレストラン」に飛びつくワケ

コロナ禍で倒産や廃業が急増している飲食業界。その助け船となるビジネスが脚光を浴びている。

店舗の空き時間を活用したい飲食店オーナーと低コストで飲食事業をやりたい人をつなぐ間借りマッチングサービスを手掛けているのは、吉野家ホールディングスの子会社「シェアレストラン」だ。同社はマッチングサービスを2018年から開始した。

増える空きスペースの活用

同サービスは例えば、ディナーだけを提供する店舗オーナーが、11時から15時までのランチ時間帯だけ店舗を貸し出す。一方、ランチをやりたい人は、その時間帯だけ店舗を間借りする。シェアレストランはこの両者をつなぐ。

シェアレストランは、店舗オーナー側が設定した月額の使用料金(賃料と水道光熱費など)のうち2割を受け取る。仲介手数料や敷金・礼金などの初期費用などがかからないうえ、通常の不動産契約を結んだ際にかかる賃料の1/2~1/3で貸し出す店舗もたくさんあり、ランニングコストも割安だ。

コロナ禍で壊滅的なダメージを負う中、空き時間や空きスペースを有効活用したい飲食店オーナーは増えており、3月末で300だった掲載店舗数はすでに450となった。同社の武重準代表は「八重洲や青山といった、一等地と言われるエリアの飲食店経営者から話をいただくことも増えた」と語る。

一方、借り手については、「以前にもまして開業にかかる初期投資や長期の不動産契約をリスクだと感じる人が増えた」(武重氏)という。シェアレストランであれば、店舗運営がうまくいかなくても、数カ月程度で契約を解除することもできる。最近は自前の店舗を持たず、デリバリーメインで営業を行う「ゴーストレストラン」などへの関心が高まっており、コロナ禍でも間借り需要は増えているという。

都内の麻布十番で、ビーフシチュー専門店「エンマ」を手がける松本将允さんは、もともとはキッチンカーで起業する予定だったが、初期投資が高額だったので断念。シェアレストランを4月から利用し始めた。

「月額料金は麻布十番駅から徒歩2分の立地で月額10万円台と破格の料金。本当に助かっている」と松本さんは話す。

シェアレストランの武重氏は「もっと低リスクかつ自由に飲食業界に参入できるようになってほしい。間借りという選択肢を身近なものにするため、2024年をメドに掲載店舗数を1万に増やす」と意気込む。

一方、各家庭のニーズに合わせた料理をプロの料理人が作り置きしてくれる、出張料理人サービスを手掛けるのが2017年5月に設立された「シェアダイン」だ。

「子どもが小さいので薄味の料理がいい」「塩分が控えめな料理が食べたい」。そういった要望を事前に登録しておくと、最適な料理人が提示される。料理人は各家庭を訪問し、約3時間で4日分の食事を作り置きしてくれる。

個人に合わせて「最適料理」を提供

登録されているシェフの約7割が栄養士や管理栄養士、調理師といった資格保有者だ。療養食や妊活中のお母さん向けなど「個人に最適化された食事」も提供できる。

シェフのスキルや品数によって異なるが、利用料金は1回あたり6800円~1万5000円程度(食材費別)。このうち2割をシェアダインが、8割をシェフが得る。利用料金と食材費合計で1万円のモデルケースでは、1食あたり625円程度と、総菜や弁当を買うような値段でプロに料理を作ってもらうことができる。ヘビーユーザー向けには割安のサブスクリプションプランも用意している。

共働きの子育て世帯を中心に根強い人気を誇り、コロナ禍の4~5月の利用者数は落ち込んだが、6月ごろからは再び増加に転じた。具体的な利用者数は非公表だが、8月は前年同月比で3倍に達するという。

シェアダインは、コロナ禍で休職や失職を迫られた料理人の新たな働き口としても存在価値を高めている。4月に勤めていた飲食店から解雇を言い渡された、都内に住む30代の男性シェフは、「休業による収入減を補う必要もあるが、それ以上に料理を振る舞わないと腕が落ちてしまうということが怖い。シェアダインであれば、自分のスキルにあった料理を自由な時間に作ることができるのでありがたい」と安堵する。

このシェフは現在、週3日は別の飲食店で働きつつ、空いた時間にシェアダインで副業をしている。

シェアダインの井出有希共同代表は「コロナ前は月に15人程度のシェフが新規登録されていたが、3~5月の登録者数は通常期の5倍にまで増加した。6月以降は落ち着いたが、それでも通常期の3倍程度の登録者数だ」と語る。登録シェフ数は7月末時点で800人。中にはシェアダインだけで月20万円以上の収入を得ている人気シェフもいるという。

廃棄食材をECサイトで購入

コロナ禍で急増した食材の廃棄ロスや在庫の救済サービスも登場した。

大阪発のITベンチャー「InSync(インシンク)」のサービスは、膨らむ在庫を減らしたい事業者が、廃棄されてしまう食材を同社のECサイト「Wakeari」に出品し、消費者に購入してもらう仕組みだ。通常よりも大幅に安い価格で出品されており、人気を集めている。

コロナ前の飲食店経営は客数や売り上げが予想でき、食材の仕入れ量もコントロールできた。だが、コロナ禍では客数の変動が大きく、仕入れ量も狂いやすい。在庫や廃棄ロスが増えるほど利益は下がり、飲食店の経営をひっ迫させる。

手広く宣伝広告したわけではないが、サービスを開始してから3カ月で計3500万円の取引があったといい、「飲食店や生産者がいかに苦しんでいるのか、身に染みた」(慎祥允代表)と語る。

現在、36.5万人が在籍する「コロナ支援・訳あり商品情報グループ」という、Facebook上の有志で形成された在庫支援コミュニティと統合することで合意した。その結果、国内最大級の生産者・飲食店支援ECサイトとなる可能性があるという。

帝国データバンクによると、2月29日に初めて確認された新型コロナウイルス関連の倒産は、9月30日時点で563件に達した。このうち「飲食店」の倒産件数は81件と、全業種の中で最も多い。飲食業界が未曽有の危機に直面する中、柔軟な発想ができるベンチャー企業への期待が高まっている。