台風が「大型化・凶暴化している」のは本当か

今年も台風シーズンがやってきました。地球温暖化のせいで、台風は年々強くなり、巨大化し、日本にもガンガン接近・上陸している。今後は伊勢湾台風レベルの台風が日本に山ほど訪れて、たくさんの死者を出すぞ! いったい地球はどうなってしまうんだ……! 台風シーズンになると、そのような声がたくさん聞こえてきます。

確かに、台風のエネルギー源は高い海面水温です。特に2020年は梅雨明け後に太平洋高気圧とチベット高気圧の影響で日本付近は猛暑に見舞われました。その影響を受けて海面水温も上がり、9月6日から7日にかけて日本に接近した台風10号は気象庁が「特別警報の可能性がある」という事前の予告をするほど警戒されていました(結果的に特別警報は発表されず、当初の予想ほど大きな被害を出さずに済んでよかったです)。

台風が訪れる頻度は増えているのか?

日本付近の海面水温が高ければ、それだけ台風は勢力が衰えずに日本に接近・上陸できます。今後地球温暖化によって、日本付近の海面水温がぐんぐん上昇の一途をたどるのであれば、確かに日本には強い台風が訪れやすくなるのかもしれません。

しかし、台風は発生しても日本にやってこなければ日本に災害をもたらしません。夏に日本付近を覆う太平洋高気圧の勢力や位置の影響をうけて、強い台風が発生したとしても日本を襲うとは限らないのです。

つまり、強い台風が日本にたくさん訪れるためには、「強い台風が発生する」「台風が勢力を落とさずに日本付近を訪れる」というだけでなく、「発生した台風が日本に接近・上陸する」という3つの要素を満たさなければいけないのです。

では、実際のところ、台風の傾向はどうなっているのでしょうか。

横浜国立大学の筆保弘徳教授の研究室では、過去100年に「日本」に「上陸」する台風の傾向を調べたことがあります。そこでわかったことは、過去の日本への上陸数については、増えたり減ったりといった傾向はなく、昔から変わっていないということでした。つまり、年によって上陸数にはばらつきがあるものの、頻度は変わらないということです。ちなみに、関東だけに注目した気象研究所の研究によると、過去40年、「東京」に「接近」する台風の数は増加傾向にあるという研究結果も報告されています。

筆保教授らによる調査では、日本に上陸したときの台風の強度は、近年、増大化する傾向がみられました。これはなぜでしょうか。筆保教授は2つの原因が考えられるといいます。

1つ目の原因として、強い台風が日本に上陸するケースは、海上で迎える台風の最盛期の強度が、平均よりも強いことが考えられます。その場合、台風が日本に近づくにつれて勢力を弱めたとしても、上陸した時点でも強くなります。しかし、半世紀前までは海上での気象観測が十分でなかったので、昔と比べて海の上でも強くなっているどうかは確かめられません。

もう1つの原因としては、海上で発達した平均的な台風が、北上しても勢力を保ったままで、強いまま日本に上陸するというケースが考えられます。

「去年の台風15号の場合は、記録を塗り替えるほどとても強い勢力で関東地方に上陸しました。しかし、海上での強度はそこまで強くありませんでした。それは、日本近海の海面水温が高い状態だったために、勢力を弱めずに関東に上陸したことが原因です。この台風に関しては後者のケースが当てはまります」(筆保教授)

台風サイズの傾向はあまりわかっていない

さて、台風の水平方向のサイズについてはどうでしょうか。台風の水平方向のサイズについては定義がさまざまで、研究者によっては雲の塊の大きさのことを指す人もいるのですが、気象庁は風速毎秒15mの半径を台風の大きさと定義しています。今回の記事でも気象庁の定義をもとに話をしようと思います。

皆さんの中には、地球温暖化のせいで台風がどんどん巨大化しているのではないかとおそれている人も多いのではないでしょうか。しかし、筆保教授によると、「台風のサイズに関する研究はあまり進んでいません」といいます。

意外に思えるかもしれないのですが、「大きい台風は怖い」とは限りません。台風の強さは、中心気圧の低さだけでなく、中心付近の風速でも判断します。風の強い台風こそ、「強い台風」ということになります。

では、台風がもたらす強風はどのように決まるのでしょうか。それは、「台風の中心気圧」ではなく、「台風の中心に向かってどれだけ気圧低下の変化が大きいか」になります。天気図で台風を見ると、等圧線が何重にもグルグルに引かれています。台風によって、グルグル過ぎて中心付近が真っ黒に塗りつぶされているようなものもあれば、そうでないものもあります。前者では風が強くなり、後者は比較的弱くなるのです。

台風が大きいということは、強風が吹く範囲は広くなります。しかし、サイズが大きくても、台風の強度としてはそこまで強くない場合もありますし、台風のサイズが小さくても十分強い台風になって、狭い範囲で大きな被害を出すこともあります。

2019年の例でいうと、台風17号は最大の強風域の半径が700kmという大型の台風でした。そして、最大風速は毎秒35m程度でした。それに比べると、台風15号は最大の強風域の半径は220kmと小型だったのに、最大風速は毎秒45mと非常に強い台風でした。これは、台風15号がコンパクトなサイズだからこそ、中心に向かって急激に気圧が下がり、強い風が吹いたという典型的な例といえます。

2019年の台風2つはまったくキャラが違った

ところで、台風にはそれぞれ個性があり、もたらす災害もさまざまです。2019年は台風の当たり年で、台風15号は令和元年房総半島台風、台風19号は令和元年東日本台風と命名されるほど大きな災害をもたらしました。大雨や台風、大雪などで歴史に残る災害が発生した場合、気象庁が命名しますが、台風に名前がつくのは1977年以来約40年ぶりで、いかにこれらの台風の影響が大きかったのかがうかがい知れます。

この2つの台風は、進路も発達のしかたもよく似ていたのに、発生した災害の種類が違ったのが印象的でした。

台風15号はいわゆる「風台風」で、強風による建物の倒壊や停電が主な被害でした。そして台風19号は「雨台風」で、大雨によって多くの河川が氾濫し、浸水に見舞われました。

「台風19号は台風15号の約1カ月後に日本を訪れましたが、風が強かった台風15号と同じような台風が再びやってくるということで、台風19号が接近する前には窓の補強をする養生テープが品切れになりました。しかし、私は『この台風で注意すべきポイントは風ではなくて雨のほうであり雨対策のほうが大事だ』と思っていました」(筆保教授)

なぜ、同じような進路や発達のしかたで、ここまで性質が違うのでしょうか。理由の1つは、台風が襲来したときの周囲の状況であり、季節がカギになります。おおざっぱにいうと、夏に来る台風は風台風になりやすく、秋に来る台風は雨台風になる傾向があるということです。

秋は前線が発生しやすく、雨が降りやすい状況です。そこに台風がやってくると、広い範囲で大雨をもたらします。2019年の台風15号が上陸したのは9月上旬でまだ夏の後半、台風19号は10月中旬だったので秋まっさかり、まさにこの季節からみられる傾向が台風の特徴を決めたようです。

まだまだ台風シーズンまっさかり。これからは雨に気を付けて対策したほうがよさそうです。特に、秋雨前線と台風が両方現れているときは大雨が降りやすいので要注意です。