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「リバースモーゲージ」借金嫌う日本人の大誤解

コロナ禍で今後の家計が不安、でも住宅ローン返済は変わらずやってくる――。コロナ禍によって生じる世帯収入の大幅な減少などを理由に、金融機関が住宅ローン返済に関して柔軟な対応を始めたことは、記憶に新しい。

長期固定金利の「フラット35」を取り扱う独立行政法人・住宅金融支援機構でも、住宅ローンの返済期間延長に対応した件数は、5月から急増している。

たとえ返済期間が延長されたとしても、住宅ローンを借りている世代でいちばん頭を抱えるのは高齢者であろう。非正規雇用者も多い層だ。「もし解雇となったら次に働く先はあるのか」「今後、月何万円もの住宅ローンの返済は現実的なのか」。そんな問題に悩まされている人も、いるのではないだろうか。

日本人は借金を嫌うため、繰り上げ返済などによって1日でも早く、定年までに住宅ローンを返し終わろうとする人が多数派。しかし、定年後も住宅ローンを返し続けている世帯は確実に存在している現実もある。

上記のような悩みを抱えているのであれば、「リバースモーゲージ」の活用を検討するのも1つの手段だ。うまく活用できれば、老後を豊かに暮らせる手段となる。しかし、日本人はリバースモーゲージへの誤った認識から、抵抗感を抱く人も少なくない。

リバースモーゲージとは何なのか?

リバースモーゲージとは、自宅を担保に老後資金の借り入れができる、シニア層向けのローンのことである。自宅は担保に入れるだけなので、本人はそのまま住み続けられる。元本返済は物件売却で得られる資金に限定される「ノンリコース型」のローンだ。

生きている間に資産をキャッシュ化でき、将来の資産価値の下落リスクも負わない、シニア世代にとって理想的な商品である。

リバースモーゲージはローンの一種ではあるものの、一般的なローンとは返済方法が異なる。例えば、住宅ローンも自宅を抵当に入れて融資を受けるが、完済まで毎月元本と利息を返済し続けなければならない。

一方、リバースモーゲージは、生きている間は毎月利息のみの返済となる。元本の返済は、死亡後に担保不動産の売却代金で返済する形。月々の返済が利息のみで負担が少なく、契約後も自宅に住み続けられるのが特徴だ。

もともとアメリカで開発された商品で、自宅の資産価値を活用して年金のように毎月資金をもらい、死後、自宅の売却によって返済する仕組みである。

住宅ローンは毎月元本を返済して徐々にローンが減り(純資産が増え)、ローンを返し終わると家の資産がすべて自分のものになる。それに対して、リバースモーゲージは資産を使って毎月資金をもらい、最後は自分が死んだ際に資産を売却して返済する。

住宅ローンは資産化、リバースモーゲージは資産のキャッシュ化で、ちょうど逆の動きになる。それゆえ、「リバース」と呼ばれているのだ。

一般的には住宅ローンを完済した持ち家が担保対象となるローンだが、リバースモーゲージを使って返済中の住宅ローンを借り換える方法もある。新たに借りたリバースモーゲージで、返済中の住宅ローンを全額返済するのである。

これによって、借り換え以降、元本を返済する必要がなくなるので、毎月10万円近くあった住宅ローンの支払いが、数万円の金利のみで済むようになる。

日本人が誤解するリバースモーゲージ

リバースモーゲージがなかなか日本に浸透しない理由としては、日本人の誤った認識が要因にある。下記はこの制度について相談を受けた際に、よく聞かれる2つの質問だ。

① 1度契約をすると、自分の死後に自宅を遺族に残せないのではないか

最もよくある誤解はこれだ。リバースモーゲージの元金返済の方法を、自宅売却だけだと思っているケースである。

返済方法は売却以外にも2つある。1つは借入人が死亡した際に相続人が現金で一括返済する方法、もう1つは借入人の生存中に繰り上げ返済をする方法だ。

 

この2つの返済方法を選択した場合には、借入人の死後も自宅を遺族に残すことができる。実は金融機関にとっては、手間暇かけて担保物件の売却で元本回収をするより、相続人が買い取ってくれたり、繰り上げ返済してくれたりするほうがありがたいのだ。

② 元金の返済ができない場合は、残された配偶者は家を出る必要がある?

これも誤解している人が多い。借入人が死亡した場合、配偶者は自宅を出ていかなければいけないと思っている。そのため生活が苦しくても、リバースモーゲージの活用を拒否するケースが出てくる。

契約内容にもよるが、配偶者に引き継げるような契約にしている金融機関は多い。借入人の死亡後に「自宅を売却するから、居住人である配偶者は出ていってください」というリスクは回避することができるのだ。

そのほかにも、リバースモーゲージには「資金使途は住宅購入、建て替え、リフォーム、借り換えなど」「自宅売却で全額返済できなくても、配偶者や相続人に返済義務はない」「借り入れ後、資産価値が下がっても追加の担保提供や元本返済は不要」といった特徴がある。

「夢」だけが詰まった制度ではない!

ここまで聞くと、高齢者にとっては夢のような商品にも聞こえるが、もちろん考慮しなければいけない点もある。考えるべきリスクは3つだ。

まずは「長生きリスク」。金融機関からの融資額は限度があるため、長生きすればするほど、借り入れした資金では生計が成り立たなくなるリスクがある。借入人が死亡するまで毎月金利の支払いは発生するため、総計したら思いがけない金額を払うケースは出てくるかもしれない。

次に「金利上昇リスク」だ。リバースモーゲージの金利は、契約期間中であっても定期的に見直される「変動金利」が採用されている。毎月の返済は利息のみとなるが、将来金利が上昇した場合は、毎月の利息負担は増えてしまうリスクがある。

例えば2000万円を借り入れしていて、金利が1%上昇すると年間20万円(毎月では1万6000円程度)の負担増となる。年金生活のシニアにとっては痛い出費となることは間違いない。

3つ目は「団体信用生命保険(団信)に入れないリスク」だ。住宅ローンであれば、団信への加入が義務づけられており、死亡や高度障害になると保険金で住宅ローンが完済される。リバースモーゲージではそのような保険はないので、注意が必要だ。

 

最近ではより幅広い物件に対応ができ、リスクを軽減できる仕組みが登場してきている。それが、国の住宅政策を推進する役割を担っている、住宅金融支援機構が取り扱う「リ・バース60」だ。

そもそもリバースモーゲージは、元本の回収を利用者の死後の物件売却によって行うため、将来の資産価値の下落リスクを金融機関が負担しなくてはいけない。このリスクが大きいため、なかなか商品が提供されてこなかった。

だが、リ・バース60では、住宅金融支援機構が保険を提供し、そのリスクをカバーする。これによって民間金融機関は資産価値下落のリスクを負うことなく、リバースモーゲージを提供できるのだ。

国の住宅政策を担う機関がこのように利便性の高い商品を提供する背景には、高齢化社会に向けて国民の幸せな生活を実現したいという政策方針があると考えられる。加えて、健康寿命が延びることによる介護保険への負担を軽減させる狙いもあるだろう。

「悪」と決めつけず合理的な選択を

「リバースモーゲージを利用するのは怖い」という声を発する人の中には、リスクばかりを見て合理的な選択ができていないケースも多い。もし今、コロナ禍において逼迫した状況であるのならば、この制度は資金を得る立派な手段の1つだ。

一時的に利用して苦境を抜け出し、家庭の経済状況を鑑みて繰リ上げ返済をする方法だって検討できる。とくに下記のような方には、リバースモーゲージを「悪」と決めつけるのではなく、正確に商品性を理解して利用を検討してもらいたい。

1. 住宅ローンの残高があって毎月の返済がつらい人
2. 資産価値の高い自宅を保有しているが、貯蓄が少なく生活に困っている人
3. 相続人がいない、または子どもに残す考えがなく、今後の生活を充実させたい人

リバースモーゲージには、よく「老後の住まいを豊かにする」という表現が用いられる。ただ恐怖心にさいなまれるのではなく、自分にはどのような方法が最適なのかを合理的に選択できることが、「豊か」につながるのかもしれない。