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Webサイト刷新の75%が失敗に終わる残念な訳

ある大手電機メーカーの話だ。この会社は近年、Webサイトのリニューアルを実施した。新しい中期経営計画に沿って、新ターゲット・新コンセプトを掲げた肝入りのプロジェクトだった。

だが、結果は大失敗。デザインは「今風」に変わり、一見すると成功したかに思われたが、もともと多数のユーザーが訪れていたページを一括で削除してしまったのが原因で、全体の訪問者数が激減するという取り返しのつかない大損害を被ってしまった。

訪問者数や成約数、最終的には売り上げを増やしたいという狙いで、Webサイト全体のデザインの大幅な刷新に踏み切る企業や団体は少なくない。こうしたリニューアルには300万~1000万円程度のコストと、1~3カ月間の作業時間を要する。決して小さい投資とは言えないが、実はWebサイトリニューアルの75%は失敗に終わる。ここで言う失敗とは、リニューアルでWeb経由の売り上げが増えないばかりか、むしろ逆効果でしかないケースを指す。

Webサイトリニューアルが失敗する最大の理由は、大半が明確な目的がなく始まることにある。経営者や事業責任者の「気分」でリニューアルプロジェクトが始まり、現場メンバーは無意味な泥沼作業に疲弊し、結果的に莫大なコストをかけて売り上げを毀損する。

「残り25%も微増」という調査結果

私が取締役を務めるWACULが実施した調査「Webサイトはリニューアルによって改善するのか?」によると、Webサイトをリニューアルした20社のうち、Webサイト経由の反響(「購入」や「問い合わせ」など)が増えた企業は5社(25%)にすぎず、横ばいの企業は3社(15%)、減った企業は12社(60%)だった。

リニューアルには多額のコストを投じるため、その投資を回収できない横ばいも失敗とみなせば、合計75%の企業でリニューアルが失敗していると言える。

調査サンプル社数は決して多くないが、莫大な投資であるリニューアルにおいて、これだけの企業が失敗しているというのは異常な事態であり、リニューアルという行為自体に大きな問題が潜んでいることは明白だ。

さらにリニューアルに成功した25%の企業について、Webサイト経由の反響はどれほど伸びたのだろうか? 同調査結果から、Web経由の反響獲得率の伸びは、最大でもわずか1.23倍にすぎないことがわかっている。

1.23倍の改善で、300万~1000万円程度のリニューアル費用を回収できるかどうかは、企業の収益構造やWebサイトの規模による。ただ、Webサイト改善の世界では、主要1~2ページを直すだけでも2倍以上の改善効果を見込めることが少なくない。リニューアルの費用対効果は、決して高いとは言えないだろう。

Webサイトリニューアルにおいて、最も重視されるのは表層的な「デザイン」の刷新である。

先述のとおり、リニューアルの大半は、経営者や事業責任者の「気分」でスタートする。彼らにとってWebサイトリニューアルは「儀式」の1つだ。「新しく社長に就任する」「新しい経営戦略を打ち出す」「DX(デジタルトランスフォーメーション)に注力している感を出す」など、「新しい感」を出したくなったときにまずテコ入れされるのがWebサイトである。

「新しい感」を打ち出す際に、彼らがいちばん気にするのは、表層的なWebサイトの「デザイン」である。今のWebサイトからどれだけ変わった感じを出せるかがすべてであり、それ以外のことは考えていない。しかしこの「新しい感」を出すリニューアルは、壮大な自己満足にすぎない。

表層的なデザイン変更(フォント変更、カラー変更、イメージ画像変更、既存コンテンツ配置変更、ページレイアウト変更)しか行っていないリニューアルはほとんど失敗する。

少し冷静に考えればわかるが、Webサイトに訪れる顧客は「変わった感」などに一切興味がない。リニューアル直後にアンケートを取ればわかるが、大半の顧客はデザイン刷新に気づきすらしない。

リピーターの多いECサイトであれば気づく可能性もあるが、これはどちらかといえばネガティブな反応になりがちだ。使い慣れたWebサイトが破壊され、斬新さやトレンドを追求した「おしゃれ」なWebサイトは顧客の離反すら招く。

顧客が興味を持つのはコンテンツのみ

Webサイトに訪れる顧客が興味を持つのはコンテンツのみだ。目的のテキスト情報や画像情報さえ見つかればいいので、それ以外のデザイン要素には目もくれない。むしろデザイン要素など一切気にすることなく、スムーズに目的地に到達できるデザインこそが目指すべき理想だ。もちろんあまりに古くさいデザインでは、企業としての信頼を失いかねないが、最低限のビジュアルさえ担保できていれば問題ない。

Webサイトリニューアル時には「全ページデザイン統一」という、ユーザー不在の無駄な作業が発生することがある。せっかくWebサイトのデザインを変えるからには、全ページ新しいトーンでそろえたいという、まさに「自己満足」以外の何物でもない作業だ。

Webサイトは運用の中で変化するものであり、デザインのバリエーションが時間の経過とともに多様化することは避けられない。全力で成果を出そうと新しい取り組みにチャレンジし続けるならば、ガイドラインを整備しようが、Webサイト管理システムを導入しようが、古くさいデザインルールなど守れるはずがない。

Webサイトリニューアルという機会に、全ページデザインを統一したところでどんな意味があるのだろうか。当然のことながら、大半の顧客はデザインの違いに気づかない。

古いページはそのまま放置すればよい。古いページは、できる限り削除しないほうがいい。なぜなら古いページでも、そのページに訪問するユーザーが少なからずいるためだ。

筆者はWebサイトのリニューアルによって、集客に貢献していた優良なページがバッサリ捨てられてしまい、訪問者数が激減してしまうという大惨事を何度も見てきた。長年積み重ねて作られてきたページは紛れもなく価値ある資産であり、自己満足のために失ってよいものでは決してない。どうしてもデザインが気になるなら、ヘッダー(ページの最上部)と、フッター(ページの最下部)だけ差し替えれば十分である。

「ゴール誘導強化」と「コンテンツ増強」が成功の鍵

大半のリニューアルは失敗に終わることを解説してきた。それではWebサイトはどうすれば改善できるのか? 成果の出るリニューアルとはどのようなものなのか?

先の調査結果より、「構造改革」のみを行ったリニューアルでは、サンプル数は少ないながら100%の企業が成果を出していた(3社中3社)。ここで言う構造改革には「ゴール誘導強化」と「コンテンツ増強」が含まれる。

Webサイト経由の反響を増やしたいのであれば、当然ながら購入や問い合わせなど「ゴールへの誘導強化」が不可欠だ。商品を簡単に選べる検索導線強化、問い合わせフォームへの最短動線強化などは成果の出やすい改善である。しかし「新しい感」を出そうとするあまり、多くのリニューアルは「ゴール」よりも「ポエム」を重視する。顧客の読まない、当たり障りのない「ポエム」は、ゴールへの導線を阻害し、Web経由の売り上げを損なう。

顧客の求めるテキストや画像を追加する「コンテンツ増強」も、Web経由の売り上げに貢献する。顧客にとって価値あるページが増えれば、そのページに直接訪問するユーザーが増える。言うまでもなく、価値あるページは閲覧した顧客がゴールに到達する確率も高い。

このようにWebサイトを含むデジタルマーケティングには、成果を出すための定石が存在する。大きな投資を意思決定する前には、必ずこうした定石を理解しておいたほうがいい。