雑草「オナモミ」が2種類の種を仕込む深い理由

くっつき虫を割って中身を見てみると

みなさんは、「オナモミ」という雑草を知っていますか。トゲトゲした実が服にくっつくので「くっつき虫(ひっつき虫)」という別名もあります。オナモミの実は子どもの頃に遊んだりして知っていても、この実の中身まで見たことのある人は少ないのではないでしょうか。

オナモミの実を割ってあけてみると、中には、やや長いタネとやや短いタネの2種類が入っています。この2つのタネは、性格が違います。2つのタネのうち、長いほうは、すぐに芽を出すせっかちな性格です。一方の短いほうは、なかなか芽を出さないのんびりとした性格です。オナモミの実は、性格の異なる2つのタネを持っているのです。

それでは、このせっかちなタネとのんびりとしたタネは、どちらがより優れているのでしょうか。

……結論を言うと、そんなことは考えてもわかりません。

もしかしたら、早く芽を出したほうがよいかも知れません。「善は急げ」や「先んずれば人を制す」ということわざもありますし、他の植物に先駆けて芽を出すということは、それだけ有利なような気もします。

一方、「急いては事をし損じる」ということわざもあります。「ゆっくり行く者は遠くまで行く」という格言もあります。早く芽を出しても、まだ生長するだけの環境が整っていない場合もあるでしょう。早く芽を出したことによって、草取りされてしまうかも知れません。

早く芽を出したほうがいいかも知れないし、遅く芽を出したほうがいいかも知れない。答えがわからないからこそ、オナモミは、2つの種子を用意しているのです。つまり、種子に「個性」を持たせているのです。個性があることは、オナモミの戦略なのです。

バラバラであることに意味がある

成長が早い子どもと、成長がゆっくりな子どもがいます。

体の大きい人と、体の小さい人がいます。

作業の早い子どもと、作業がゆっくりな子どもがいます。

覚えの早い子どもとゆっくりと覚える子どもがいます。

はたして、どちらがよいのでしょうか。オナモミの答えを考えれば、もうわかるはずです。そう、「どちらがよいかは決められない」ということです。どちらもあることがよいのです。

自然界の生物は、このようにバラバラな性質を併せ持っていることがよくあります。オナモミのような雑草の多くは、早く芽を出したり、遅く芽を出したりと、成長のスピードがバラバラです。庭や畑で、抜いても抜いても雑草が生えてくるのは、そのためです。

いつ芽を出すのが正解か、という問いに対して答えはありません。答えのないものに対して、自然界の生物は「バラバラであること」で乗り越えようとしているのです。

例えば、タンポポの葉っぱもギザギザの鋭いものや、ギザギザの少ないものなど、さまざまな形があります。どうして葉っぱの形はバラバラなのでしょう。

その正確な理由は、わかっていません。しかし、バラバラであるということは、きっとバラバラである理由があるのでしょう。ギザギザが少ないほうが、光が当たる面積が広くなるかも知れません。ギザギザが鋭いほうが、葉っぱ全体に水を行き渡らせるのには、有利なのかも知れません。

ただ、葉っぱの形に個性があるということは、その個性に意味があることは間違いないのです。

一方、葉っぱの形は個性がありますが、タンポポの花の色には、個性がありません。みんな黄色い色をしています。それはなぜでしょうか。タンポポの花は、アブなどの昆虫を呼び寄せます。アブなどの昆虫は黄色い花に集まりやすいという特徴があります。そのため、タンポポの花は黄色い色をしているのです。

つまり、タンポポの花の色は黄色が正解なのです。正解のあるものにバラツキはありません。逆にいえば、バラバラであるということは、「何が正しいのか、何が優れているのかわからない」ということなのです。

正解のないものに対して

私たち人間の体の構造でほとんどの人に共通している部分は、それが生きていくのにもっとも適しているという答えがあるからです。しかし、私たちの顔は、それぞれみんな違います。指の太さや長さも個性があります。体の大きい人も、小さい人もいます。

これは、容姿や体の大きさに正解がないからです。人間の体の大きさは、大きいほうが有利なときもあれば、小さいほうが有利なときもあります。大きい人ばかりの集団よりも、大きい人と小さい人がいる集団のほうが、色々なことができます。だから、人間の体の大きさは人によって違うのです。

生物は長い時間をかけて、進化を遂げてきました。人間も同じです。長い進化の過程で、人間は適した形に進化しています。一方で体の大きさは、大きい人と小さい人がいてバラバラになるように進化しています。バラバラであるということも、生物が進化の結果、手に入れてきたものなのです。