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「1位を目指さない企業」が先細りする根本原因

「2位じゃダメなんでしょうか」

民主党政権時代、事業仕分けに当たってある女性議員が、スーパーコンピューター「京」の計算処理の速度についてこんな発言をし、物議を醸したことは記憶に新しいと思います。

そのときどうすべきだったかはここでは論じませんが、もしこのスーパーコンピューターの戦略的位置づけが「リーダー」ならば、意地でも1位であり続ける戦略を取らなければなりません。もし「フォロワー」という位置づけならば、2位でよかったでしょう。

しかし、ブランドの世界では、2位じゃダメなのです。「私たちのブランドは、大手のやっていることをマネするフォロワーです」というブランドであれば、2位でも3位でもいいかもしれません。しかし、それでは価格競争に巻き込まれてしまい、強いブランドを築くことはできないでしょう。

「1番じゃない企業」は忘れ去られる

私が言いたいのは、何かの分野で、なんとしても「1番」を目指してほしいということです。なぜなら、1番以外は、なかなか覚えてもらえないからです。

ブランディングは、お客さんの頭の中にブランドを刷り込む作業です。頭の中にあるスペースは限られており、お客さんは正直なところ、そんなにたくさんのことを覚えたくないのです。実際、多くの分野のブランド認知率のデータを見ても、2位以下の認知率はどんどん下がり、フォロワーブランドに至っては10%を切っているのが普通です。

したがって、マインドシェア(お客さんの頭の中のブランド占有率)を高めるには、1位を取ることがとても重要なのです。「1位は知っているけど2位ってどこなの?」ということは、身の回りにたくさんあると思います。

例えば、日本茶の生産量日本一の県が静岡県であることは知られていますが、2位はどこかご存じでしょうか。実は鹿児島県なのです。静岡県のお茶の生産量が日本全体の37.5%で、鹿児島県は32.4%と差があまりないにもかかわらず、です。2位が鹿児島県と答えられる人は少ないのではないでしょうか。

「自動車といえばトヨタ」「コンビニといえばセブン-イレブン」のように、強いブランドには「○○といえば」の後に必ず自社ブランドがきます。ほかにも、「ファストフードといえばマクドナルド」「おむつといえばパンパース」などが挙げられます。

2番手、3番手は「売り場の確保」に苦戦する

小売りの現場では、カテゴリーの1番手のブランドは、スーパーやドラッグストアなどで棚、つまり、売るための場所が優先的に用意されますが、2番手、3番手のブランドは、販売促進の支援や仕入れ値などでいい条件を出さなければ、なかなか売り場スペースを確保できないのが現状です。

棚が優先的に確保されやすいPBもこの争いに参戦しているため、より競争は厳しくなっています。メーカーは棚スペースを確保するのに本当に必死です。

メーカーとしては、小売り側から「あなたのブランドを当店でどうしても販売したい」と言われるような商品づくり・ブランドづくりが必要でしょう。なんとしてもさまざまな小売りから「取り扱いたい」と言わせるためにも、1番手を目指し、「○○といえば」の後に必ず自社のブランドがくるようになることを心がけたいところです。

1位を目指してほしいと言われても、「そりゃ大手だからできること」と思うかもしれません。しかし、そんな簡単に諦めてはいけません。差別化について説明したように、差別化されたある特定の分野や領域で1位になればよいのです。

「自動車といえばトヨタ」という話をしましたが、もっと細分化することで、各社の特徴が浮かび上がってきます。例えば、「エンジンが優れた自動車といえばホンダ」「デザインが優れた自動車といえばマツダ」「軽自動車といえばスズキ」というように、自動車の特徴を細分化することで、各社ナンバーワンの分野が出てきます。自動車メーカーそれぞれが、自分たちの特徴を出そうと非常に努力しているのです。

自動車メーカーで、さらに細分化して差別化に成功しているブランドもあります。独特なデザインと完全受注生産で成功している、光岡自動車です。中には、すでに発売は終了しているものの1000万円を超える「オロチ」というスーパーカーもあったほどです。

「オロチ」(写真:VCG/getty)

大手がいるところは無理と思われがちですが、市場を細分化することで1位を獲得することが可能になるのです。

1位になれば「買ってもらえる」

ドラッグストアやバラエティーショップなどで、「楽天で売上No.1!」とか「@cosmeでナンバーワン!」といったシールが貼られた商品を見たことはないでしょうか。そういったシール(アテンションシールといいます)を見て、「なんとなく」購入したという経験が、1度くらいはあるのではないかと思います。

人は少ない金額の支払いだったとしても、買い物に失敗したくないのではないでしょうか。失敗しないためにどうしているかというと、世の中で売れていて、多くの人が買っている商品を選ぶのです。みんなが使っているから「間違いないだろう」「失敗しないだろう」と判断する方が多いようです。それゆえに、多くの企業やブランドは、何かしらの1位になろうと必死になっているのです。「何かしらの」というのがポイントです。

ぜひあなたも店頭で、あるいは@cosmeや楽天などで、「売上No.1!」といったアテンションシールが貼られた商品をよく見てみてください。

ナンバーワン表記の例(イラスト:『ブランディングが9割』より)

「1位だからすごいし、いろんなお客さんに評価されている」と思うかもしれません。しかし、必ず「※印」等で小さく、なぜ1位なのかが書かれています。

日本全国で年間1位を獲得した商品のブランドもあるのですが、中には、「あるカテゴリーの中のある分野で、10月の第1週目の1位」など、とても限られたところで1位というものもあるのです。

小さいカテゴリーで、短い期間の中の1位であることがわかります。

「そんなのズルいじゃないか」という人もいるかもしれませんが、事実であることには変わりありません。それくらい、1位には魅力があるということです。