コロナ対策、「わかってきたこと」と今後の展望

感染の広がり方がだんだん見えてきた

新型コロナウイルスについて、われわれはすでにいろいろなことを学びました。

基本的には、飛沫感染のほうが多く、一部に接触感染も起きています。

そして、マイクロ飛沫感染という感染様式の存在も日本では早くから認識されており、3密という場においては、換気の重要性が提言されていました。飛沫の小さなものが空気中を浮遊して、2メートル以上の間隔を空けていても、空調などを通じ同じ部屋の人に感染が広がった事例が報告されています。

マイクロ飛沫感染はどこでも起きているわけではありません。大きな声を出したり、歌ったりするような場所で発生していると考えられています。普通のオフィスなどのような場所で、あまり大きな声で話をしない状況では、マイクロ飛沫感染は起きていませんが、念のためオフィスでも適宜、換気をすることを推奨します。

今年3月にはすでにわかっていたのですが、日本では10人の感染者のうち、ほかの人に感染させているのは約2人です。この数値には、ウイルスの特性による感染の広がりやすさだけでなく、人と人との関係性や距離感なども関係します。密な関係が多い、マスクが嫌い、といった生活スタイルの国では、より多くの人に感染させている可能性はあります。

また、残念ながら、重症化の程度を見ていますと、インフルエンザや風邪よりもコロナのほうが高いことがわかっています。とくに60歳以上の高齢者は重症化のリスクが高く、死亡に至らないまでも重い後遺症が生じる事例も報告されています。

日本でも今後、新型コロナ対策なんてしたくないという人が増えてくれば、感染者が増える可能性もあります。最近徐々に、日本でも「コロナは単なる風邪だ」といった楽観論が出ているようです。

「対策は不要だ」「新型コロナは単なる風邪だ」といった考え方から、感染拡大を抑える行動をやめる人が多くなると、感染拡大のスピードは速くなるでしょう。欧米などでは、マスクをするかしないかで政治論争にまでなっていますが、そんな状況を考えると、日本でも感染者は増加するのはやむをえないでしょう。

通勤電車に乗った後は必ず手を洗う、仕事の際もできるだけ対面での会話を避ける、ランチは1人で行く、少人数で行った場合も離れて席に着く、外出から戻ってきたら必ず手を洗う、そして電車に乗って帰宅したらやはり必ず手を洗う、といった基本的な感染対策をしていれば、感染リスクは低く抑えられると思います。

やみくもなPCR検査では非効率

濃厚接触者の調査で徐々にわかってきたことがあります。

家族に感染者がいる場合、日常生活は濃密な接触ですから、当然、家族内での感染の可能性は高まります。また、接待を伴う飲食店やスポーツ選手の寮ではかなり高い割合で陽性者が発生しました。

しかし、いわゆる「ローラー作戦」的に感染者が接したであろう人を対象にPCR検査をしても、思ったほど陽性者が見つからないということも報告されています。感染のリンクが自然に断ち切れていることも多いと考えられます。保健所の現場からも、「この人は陽性の可能性が高いだろうという人が陰性だというケースが案外多い」ということも聞かれます。感染者のウイルス量やどの程度の濃厚接触だったかにもよるとは思われますが、やみくもなローラー作戦よりは、濃厚接触者であっても戦略をもって対象者を吟味して検査を展開することが今後は必要です。

一般的には、行動が活発で、いろいろな場所に行き、さらに話をするのが好きという方は感染リスクが高くなるようです。加えて、濃密な接触があり、しかも多数の人が集まるような場所での感染リスクは、さらに高くなります。

例としては接待を伴う飲食店があげられます。そうした場所では店員さん同士が感染し、さらにお客さんへと感染することにより、いったん広がり始めると、毎日のように感染者が早い速度で増幅されます。そうした場所は、店員さんが感染しているので営業自粛などを一定期間していただくなどしないと感染のリンクが切れません。一部の大規模な繁華街には自粛要請がこれまでも出されましたが、今後も感染者の増加により自粛要請が必要になると考えられます。サービスや事業のあり方を考えなければならないともいえます。

居酒屋などの接待を伴わない飲食店の場合、店員さんから感染するというよりは、客の中に感染者がいて、客同士で広がっていきます。そういったお店は感染拡大する場ではありますが、接待を伴うような店とは異なり、たまたまその店で感染したということです。ただ、複数で飲食をする際に、仲間内の誰かが感染していたら、同席している方に感染するリスクは比較的高いのは間違いありません。

このような身近な居酒屋で、どんな対策をどの程度まで厳密にやれば、仮に客の中に感染者がいたとしても、感染を広げずに済むかはまだわかっていないのです。ただ、距離をあける、換気をよくするのはお店側にできても、具合の悪い人は参加しないということは客側のことですし、隠されたらわかりません。

こうした密な接触の頻度や場面のリスクを分析し、点数化していくと、個人の感染リスクというものも見えてきそうです。すでに中国のように、点数化をしている国もあると聞いています。引き続き、新型コロナの流行は続きますが、こうした知見をもとに、できるだけ、感染リスクが高くなる場には近寄らないように注意する必要があります。

この冬の対策:インフルエンザに風邪、そしてコロナ

猛暑が続いていますが、われわれはすでに冬の対策を検討しています。

まず、インフルエンザワクチンですが、例年どおり約2500万人分しかありません。これまでも医療従事者や介護従事者、そして高齢者は積極的に接種してきました。働く年代ではだいたい4人に1人ぐらいが接種していました。急には増産できないので、今年はどう配分するかが議論になります。

皆さんの中にもこれまではインフルエンザワクチンは接種していなかったけれど、今年はぜひ接種したいと思っている方が多いかもしれません。しかし、今年は持病などがないと接種できないということになるかもしれません。

では、インフルエンザのこの冬の流行はどうなるか。2つの意見があります。1つは、コロナ対策がされている以上、インフルエンザ罹患(りかん)者は減るだろうというもの。もう1つは、昨年のインフルエンザ罹患者がやや少なかったこともあり、免疫を持つ人が減ったと見て、今年の罹患者数は増えるだろうという意見です。

判断は難しいですが、私は新型コロナ対策が引き続き十分になされるのであれば、インフルエンザ罹患者は例年よりは減るだろうと予測しています。このお盆同様に正月の帰省は減るだろうと考えられますので、例年1月の2週目の患者数がピークを迎えるという現象は来年は回避されるかもしれないと注目しています。しかし、風邪については、実際に減るのかは予測がつきません。

多くの医師は、インフルエンザの診断には豊富な経験を持っています。インフルエンザには、急速な発熱などの特徴的な症状があるので、比較的判断するのが容易なのです。しかし、風邪と新型コロナの違いを見分けることは難しそうです。

すでに冬を迎えているオーストラリアでは、それぞれの症状について以下のようにまとめています。

このように、それぞれに症状の違いがあるような、ないような、曖昧な感じです。そのためオーストラリアでは開業医であるGPの99%が遠隔診療をしているそうです。日本も、冬に向けてますます遠隔診療が必要になりそうです。

新型コロナが発生した当初は、検査ができる場所が限られていたこともあり、軽症なら数日自宅で様子を見るという方針でした。しかし、現在は検査環境も整い、軽症でも早めに受診することになっています。

冬場になって、風邪の患者さんが増えて、感染対策の必要性などから医療が回らなくなったら、若い人や症状が軽い人は、数日は自宅で様子を見るようにという、再度の方針転換が起こる可能性もあると思います。普通の風邪でも、待合室で新型コロナの患者さんと接してそこで感染することが起こりうるからです。

新型コロナに対する対策をそろそろ緩めてはという意見もあります。指定感染症の措置を緩和する、または指定感染症から外すという意見です。しかし、この冬を一度は越えてからでないと、緩められない対策も多いのではないかと考えます。もちろん、保健所や医療機関への負担が増加しているので、その負荷は軽減しなければなりませんが。

ワクチンへの期待

世界中でワクチンの製造競争が進んでいます。日本政府もさまざまな製薬会社からワクチンを買い付けています。しかし、どのワクチンに確かな効果があり、安全性も確実であるかについては、いまだ十分な情報がありません。

また、感染リスクの高い高齢者を優先とするワクチン接種には、問題があると考えられます。例えば、接種した高齢者が2日後に亡くなったような場合、その原因は持病だったのか、ワクチンの副反応なのか、明確に判断することができません。そうしたことがまた報道を過熱させて、接種が進まないといったことが起きる可能性もあるのです。

このように、個人的には、ワクチンにはもちろん期待はするけれど、解決すべき問題が山積しており、そう簡単にはワクチンができたのでもう安心とはならないと考えています。

新型インフルエンザのワクチンの接種希望について、研究を行ったことがあります。その結果、持病があるなど接種を優先されるべきと考えられる人は、実は接種を積極的に希望していないという傾向が示されました。理由はさまざまだと思いますが、持病のある人は、まず健康な人がワクチンを接種して副反応がないことを確認してから自分も接種したいという希望があるのかなと解釈しました。今回の新型コロナワクチンの接種に際しても、同じような傾向が見られるかはわかりませんが。

また、インフルエンザと同様の不活化ワクチンと言われるものには少し期待をしています。ただ、このワクチンは完成するとしたら2021年秋以降ではないかと言われています。

まずはこの一冬をなんとか乗り越えるべく、世界とも連帯しながら、日本は一体となって取り組み、そして良好事例を共有していかなければならないと思います。

最後に、ウイルスをしっかり除去する、衛生的手洗い手順を用意したので、ご活用ください。