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「変化に強い」タピオカ店と雑草の共通した戦略

競争に弱い雑草なりの”戦略”

植物でさえも、基本はポジショニング戦略である。

競争に弱い雑草は、競争を避けて変化する環境に対応するというポジショニングが基本戦略である。耕されることに強いものは耕される場所に生え、踏まれるのに強いものは踏まれるところに生え、雑草の中でも比較的、競争に強いものは攪乱の少ないところに生える、というように、自らの得意なところで生えている。

このポジショニングは、単に「場所」のことだけではない。雑草にとって、もうひとつ重要なポジショニングの軸がある。それが、「遷移(succession)」である。遷移とは、時間の経過による植物の移り変わりのことをいう。つまり、私たち人間にとっては「時代の流れ」と言ってもいいかも知れない。

一般的に、遷移は次のような順番で変化していく。たとえば、火山の噴火などで生き物がまったく存在しない何もない新しい土地ができたとしよう。土らしい土もなく、岩がゴロゴロするだけの荒れ地に最初に生えるのは、栄養分がなくても生えることのできるコケ類や地衣類である。

やがてコケ類や地衣類の営みによって、有機物が蓄積し、土ができていく。そして、植物が育つ基盤ができあがってくるのである。

そこに最初に生えるのが、一年生雑草を中心とする小さな草である。小さな草が生え始めると、そこは有機物がさらに蓄積し、土は豊かになっていく。すると、次第に多年生の大きな草も生えるようになり、草が生い茂るようになる。すると、やがて灌かん木ぼくが生えてきて、藪のようになる。

そして、次から次へと大きな木が生えてきて、藪は林になる。そして、やがては深い森になっていくのである。これが遷移である。

この遷移は、商品やサービス市場のプロダクトライフサイクルに似ている。

市場も最初のうちは不毛の土地のようである。市場規模は小さく、そこに侵入するリスクも大きい。これが「導入期」であろう。やがて、市場は次第に大きくなっていく。「成長期」である。市場は急速に成長していくが、やがて成長のスピードが鈍くなる。これは「プラトー現象」と呼ばれている。しかし、プラトー現象を経ると市場は、再び成長をする。これが「成熟期」である。そして、飽和した市場となるのである。

植物の遷移もまったく同じである。まったく何もない導入期に市場に参入するのは、コケのような小さな存在だ。やがて、市場が成立してくると、草が生えてくる。さらに、市場が成長してくると、そこは競争の場となる。そして、次々に競争力のある大きな植物が参入してくるのである。

成長期から成熟期の市場の質的な転換は、植物でいえば、草から木への転換に相当するかも知れない。

草から木へというのは、植生にとっては大きな転換期だ。「草」というのはスピードを重視した戦略である。とにかく素早く参入し、素早く大きくなって、素早く種子を作る。そして、できるだけたくさんの種子をばらまくのである。つまり、「スピードと量で勝負する」のが草である。

これに対して、木は違う。木は年輪を作り、しっかりとした幹を形成しながら、じっくりと大きくなっていく。つまり、木は「競争力と質で勝負する」スタイルなのである。

草の時代が終わると、藪の中から次第に木が生え始める。スピードの時代から、競争力の時代、量から質の時代になるのである。

とはいえ、最初は草が競争相手だから、比較的、競争は緩やかである。明るい林になる。しかし、やがて競争は激化し、強い植物が生き残り、弱い植物は淘汰されていく。そして、巨大な木が生えて豊かな森となっていく。成熟した市場の形成も、植生の遷移と同じである。競争力のある企業が参入し、しのぎを削る。そして、市場は飽和するのである。

植物は、最後にはもっとも競争力のある大きな木が占有するようになる。この遷移の最終段階は「極相」(きょくそう)と呼ばれている。

プロダクトライフサイクルの中で、どの位置でビジネスを始めるかが重要であるように、植物も種類によって、生えるべきタイミングがある。植物にとっては、時間の流れの中でも、ニッチがあるのである。

ビジネスで見ると・・・

ビジネスの世界では、導入期はリスクも大きく、顧客も少ないので利益は少なくなる。成長期は、市場全体での利益の額はまだ多くはないものの、ここで参入すれば利益の獲得を見込むことができるので、ビジネスを始めるチャンスである。しかし、ビジネスを始めるチャンスであることは、誰にとっても同じなので、競争が起こる。

やがて成熟期になると市場全体での利益の額は増えるが、この時期は大量生産や低コスト化が可能な競争力の強い企業が有利となる。生産性の高い巨木が有利な森と同じである。

植物の群落も、商品やサービスの市場と同じサイクルをたどっているのである。

それでは、雑草は遷移の流れの中で、どのような戦略をとっているのだろう。

「雑草」と呼ばれる植物は、遷移の流れの中の限られた期間に出現する植物である。

土も栄養分もないような不毛の土地には、雑草は生えることができない。
やがて、コケ類や地衣類などの活動によって土が形成されてくると、最初に生えるのが一年生の小さな草である。ただし、火山活動によって形成されるような、まったくの不毛の土地が現れることは少ない。

一方、人間活動によって、山が削られて新たな土地が造成されたり、海が埋め立てられて埋め立て地が形成されたりすると、そこはやせた土地であるかも知れないが、土らしきものは存在する。

そのため、一般的にはこのような土地に、一年生の草本植物が最初に進出することが多い。

この、新しい造成地や埋め立て地に最初に進出する一年生の草本植物は「パイオニア植物」と呼ばれている。

新たに生まれた未開の地は、競争相手がいないフロンティアである。そこでは、ライバルとの競争に煩わされることはないのだ。

パイオニアの強みと弱み

パイオニアに求められるのは、とにかくスピードである。目の前には、競争相手のいない土地が広がっている。そこに求められるものは、相手を打ち負かす競争力ではなく、速やかに進出するというスピードだ。

パイオニアたる雑草は、とにかく素早く新たな土地に進出する。植物では、タンポポの綿毛のように、風で種子を運ぶような種類が有利だ。それらの植物は、新しくできた土地に、いち早く種子を進出させて定着する。

しかし、パイオニアと呼ばれる植物は、スピードという強みを持つ代わりに、競争力には弱い。新しくできた土地も、何年かすればさまざまな植物が進出してくる。そして、激しい競争の場となれば、パイオニアに勝ち目はない。やがて敗れ去り、舞台から退いていくのだ。

こうして、パイオニアは、常に新しい土地を求めて、たくさんの種子を飛ばし続ける。そして、新たな土地から新たな土地へと移動してゆくのである。

新たな土地のわずかな期間しか生えることのできないパイオニア植物の雑草は、とても稀有で不安定な存在に思えるかも知れない。しかし、そうではない。

環境が安定した時代であれば、火山の爆発や洪水のような天変地異でもなければ、新たな土地は生まれないかも知れないし、新たな島が出現するような歴史的なイベントを待たなければいけないかも知れない。

しかし、変化の時代である現代では、パイオニアたちにとっては、次々と新しい土地が作られ続けている

何も山を削ったり、海を埋め立てなくてもいい。街の中では家屋やビルが壊されて空き地が出現する。街中に出現した空き地もパイオニアにとっては絶好の場所だ。

それだけではない。たとえば、人間が草刈りをする。草刈りをすれば、競争力の強い植物がすべて除かれる。あるいは、人間が畑を耕す。すると、そこは植物のない新たな土地となる。つまり進んでいた遷移の時計が巻き戻されて、最初の段階にリセットされる状態になるのだ。

求められる「違った能力」

ただし、草刈りをされたり、耕されたりして作られた新しい場所は、まったくの不毛の土地とは環境が異なるから、違った能力が求められる。

今まで植物が育ってきた栄養分の豊富な土壌がある。さらには、土の中に種子を残しておくこともできる。そのため、種子を持ち込むということよりも、あらかじめ種子を播いておいて、そこからいかに成長するかというスピードが求められるのである。

パイオニアの戦略は、ブームの兆しを捉える流行店のようである。流行を追いかけるビジネスでは、パンケーキが流行ればパンケーキ屋を出店し、タピオカがブームになればタピオカドリンクの店を出す。そして、ブームが去るころには、次のブームに乗っかっている。まさに、次々に新たな土地を求めているパイオニア植物と同じである。

パイオニアの戦略にとって重要なことは、「スピード」と「コストを掛けない」ことにある。コストを掛けずに成長し、次の種子を播いておく。これがパイオニアの戦略なのである。