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「説明が的を射ない人」と上手な人の決定的な差

この数年、「雑談力」に関する書籍やセミナーが人気のようです。私の知人にもこのテーマのベストセラー著者が数名おりますが、多くのビジネスパーソンにとって必要なものであることは間違いないでしょう。

「雑談力」を身につけたその後、どうなりましたか?

ところで「雑談力」さえあればビジネスパーソンは成果を出せるのでしょうか。私の答えは「NO」です。例えば営業パーソンの世界。明るく元気で雑談力もある山田(仮名)がちっとも成果が出ないのに、寡黙でお世辞にもコミュニケーションが上手とは言えない佐藤(仮名)のほうが成果を出す。

そんな事例をたくさん聞きます。いったいなぜなのか。私の答えは「いざ重要な局面でのコミュニケーション」が最適ではないからです。裏を返せば「雑談力」が通用しない場面でのコミュニケーションが成果を決めていることを意味します。

一般的に雑談は仲良くはなれるがビジネスの重要な局面では通用しない。これが私の持論です。雑談ではないコミュニケーションの質が相手の「信頼」を勝ち取れるかを決めている。「仲良くなる」と「信頼を勝ち取る」は大きく違う。そう思いますがいかがでしょう。

過剰表現に思われるかもしれませんが、私はビジネス数学教育家として普段の活動においてわかりやすく説明することが生命線であり、本気で命を懸けています。そんな私が今とても思うことは、多くのビジネスパーソンは雑談上手なのにいざ重要な局面での「説明」が驚くほど苦手であることです。これではビジネスで成果が出ません。この問題は、そのビジネスパーソン本人はもちろん、その人物が所属する企業の業績、もっといえば日本の生産性にも直結する問題です。

本題に入りましょう。さっそくですが重要な問いです。「信頼を勝ち取る」ためのコミュニケーションとはいったい何でしょうか。私の答えは次の1行です。

・わかりやすく、かつ論理的に説明できることである

 

あまりに普通のことで期待外れでしょうか。しかし普通のことが意外に難しいもの。「明るく元気に挨拶をすること」や「食事のときは“いただきます”と言う」は当たり前のことですが、それをきちんとできている人は意外に少ないものです。

どうすれば「わかりやすく、かつ論理的に説明する」ができるようになるか。拙著『数学的に考える力をつける本』で詳しく書いていますが、私の結論を申し上げると「数学的な説明をする」となります。

数学的な説明とは、構造化して伝えることです。

そして構造化とは、次の2要素からなります。

A 説明する内容を塊で捉える
B 塊を矢印(→)でつなぐ

塊で捉えるとは、要素に分解することを意味し、矢印(→)でつなぐとは論理展開をつくることを意味します。とても抽象的なので具体例を挙げましょう。

(問題例)
五角形の面積をどう求めるか説明しなさい
(回答例)
① すべての五角形は3つの三角形に分解できる
↓(さらに)
② 三角形の面積は(底辺×高さ÷2)で求められる
↓(そこで)
③ 3つの三角形の面積をそれぞれ求める
↓(すなわち)
④ 3つの面積を合計すれば五角形の面積も求められる

数学に慣れている方はこれを無意識にやって答えを求めてしまいます。しかしその行為はこのように大きく4つの塊に分解することができ、それを矢印(→)でつなげていくことで説明できます。塊に分け、それを矢印(→)でつなぐ。これがいわゆる論理的でわかりやすい説明の構造になっているのです。

「カーナビ」をお手本にする

唐突ですが、カーナビを使ったことがありますか? 私はカーナビの説明が「わかりやすくかつ論理的に説明する」(すなわち数学的な説明)のお手本だと思っています。出発地と目的地を設定し、その(最短)経路を特定し、それを複数の塊に分解し、矢印(→)でつなげて説明を設計しています。

出発地点
↓(まずは1km直進して左折)
経由地A
↓(続いて5km直進して右折)
経由地B
↓(最後に300m直進すれば)
目的地周辺

 

カーナビの説明はある意味で完璧です。あれ以上わかりやすく説明しゴールまで導いてくれるコミュニケーションは世の中に存在しません。だから私は企業研修やビジネス書などで「カーナビのように話しましょう」と提案します。最初は「?」という反応がほとんどです。中にはバカにしたように鼻で笑うベテラン社員もいます。しかしその真意を説明することで最後は納得いただけます。カーナビのような機械的な話し方ではなく、カーナビのように構造化して話すのがわかりやすいということです。

ビジネスパーソンの日常は9割が雑談力で事足りるシーンかもしれません。しかし残りの1割はいわゆる勝負どころ。会議での説明。上司へのプレゼンテーション。金額の大きな商談。ここだけは雑談力では乗り切れません。信頼されるコミュニケーションが必要だからです。極論、内容よりもまず伝え方に信頼がおけるかが重要なのです。そしてそんな場面で信頼を勝ち取っている人とは、実は数学的に説明する人なのです。

わずか1割の場面でカーナビになれるか。

これがビジネスの成果を決めているのです。

この記事も構造化して書いている

最後にこの記事の構造を明らかにしておきます。

【問題提起】雑談力があればビジネスで成果は出るのか?
↓(そこで)
【主張】信頼を勝ち取るコミュニケーションは別である
↓(具体的に)
【提案】構造化する技術
↓(例えば)
【具体例】カーナビ
↓(以上より)
【結論】わずか1割の場面でカーナビになれるか

これがまるで数学の問題解説のように見えるのは私だけでしょうか。ビジネスで成果を出したければ、数学的に説明する技術を身につけましょう。「話す力」を鍛えるのではなく、「構造化する力」を鍛えるのです。もちろん今からでもそれは可能です。

『数学的に考える力をつける本: 本質をつかむ 考えがまとまる 説明上手になる 』(三笠書房)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

例えばあなたの職場にも「なぜあの人の説明はいつもわかりやすいのだろう」と思わせるお手本がいるのではないでしょうか。あなたがそう思うということは、必ずそこに理由があります。今日からでもその人物のする説明をよく聞いてください。その説明は間違いなくこの記事でご紹介したような構造化された内容になっているはずです。そしてその人物の話し方を真似するのではなく、構造化の仕方を真似するのです。

世の中には、このような提案を聞いたときに「まあ確かにそうね」と言って何もしない人と、実際に(本当に)やってみる人がいます。繰り返しですが、普通のことが意外に難しいものです。しかしその普通のことができる人とそうでない人の差は、実はこのようなちょっとしたことをするかしないかの差です。