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Appleと対立しても「フォートナイト」余裕な訳

8月7日にバーチャルライブ「米津玄師スペシャルイベント」が開催されたことでも話題になったEpic Gamesによる人気ゲーム『フォートナイト』。今、ユーザーたちはこのゲームの新シーズンがプレイできなくなるかもしれない瀬戸際に立たされている。

8月14日にプラットフォーマーであるAppleが、ガイドライン違反を理由にApp Storeから同ゲームを削除したのだ。iOSユーザーはインストール済みであればそのままプレイできるが、新規インストールやアップデートできず、新シーズンのコンテンツやバトルパスを取得・購入できない。

その後、Android版フォートナイトもGoogle Playから削除されているが、Android版はEpic Gamesのサイトからダウンロード可能。なぜこのような事態が起きているのか。

争点は「30%の手数料」

調査会社ニールセンのゲーム調査部門によると、フォートナイトは2019年ビデオゲーム史上最高の18億ドル(約2000億円)の売り上げを記録している。登録プレイヤー数は3億5000万人を突破しており、アクティブプレーヤー数は約1億2500万人に上る人気ゲームだ。ゲーム自体は無料だが、シーズンごとのバトルパスやキャラクターの外観を変更できるスキンなどは有料で販売している。

フォートナイトでは、これまでゲーム内通貨を購入する際、App Storeでの販売手数料・決済費としてAppleが30%を取る仕組みとなっていた。

ところが8月13日、Epic Gamesはフォートナイトをアップデートし新しい支払い方法を導入。App Store経由の場合は通常どおりの価格だが、Epic Gamesから直接購入する場合は20%安くなる。もちろん直接購入の場合、Appleは手数料を得られない。このアップデートがガイドライン違反に当たるとして、App Storeから締め出されたというわけだ。

Epic Gamesはその直後、Appleに対して挑発的な動画も公開している。この動画は、Appleが1984年にIBMが独占的立場を占めていたコンピュータ業界に参加したときのCMになぞらえたものだ(元ネタはもちろんディストピアSF小説『1984』)。

今回の動画では、逆にEpic GamesがAppleに挑む内容となっており、「Epic GamesはApp Storeの独占に挑戦した。Appleは報復として10億ものデバイスにインストールされているFortniteをApp Storeから排除した。2020年が『1984年』になるのをストップさせる戦いに参加しよう。#FreeFortnite」というメッセージが流れる。

フォートナイトはGoogleとの間にも問題を抱えている。Android版フォートナイトは当初、Google Playでは公開されなかった。やはり、サービス手数料が30%と高いことが主な理由だ。

フォートナイトはほかのプラットフォームで既に人気を獲得していたため、Google Playを経由せず自社の「Epic Gamesストア」で配信した。

App StoreやGoogle Playがデベロッパー側とストア側の収益配分率が70:30なのに対して、Epic Gamesストアは88:12とストア側の取り分はかなり少ない。

フォートナイトがGoogle Playで公開されたのは、今年の4月のこと。つまり、同アプリがGoogle Playで配信された期間はわずか4ヵ月ほどにすぎなかった。

Appleを「足かせに思う」企業が増えてきた

Androidアプリは、そもそもGoogle Playを経由せずにダウンロードできる。iOSアプリはApp Storeからしかダウンロードできないが、代わりにストアを経由せずに課金するサービスが増えている。App StoreやGoogle Playの「手数料30%は高い」という声は多いのだ。

2019年にはSpotifyが、Appleが自社の音楽配信サービス「Apple Music」と競合するアプリに不利になるようなガイドライン変更をし、30%という手数料により、健全な競争を阻害しているとして欧州委員会に訴えている。Apple Musicと競合のSpotifyは月額料金は同じだが、当然手数料を払う必要のないApple Musicは有利な位置にいる。

メールアプリ「HEY Email」は、年額99ドルのサブスクリプション制。今年6月、同アプリは30%の手数料支払いを避けるため、料金をアプリではなくWebサイト経由で支払うように変更した。これに対してAppleは、「料金をアプリ内決済に変更しなければ規約違反でブロックする」と警告。欧州委員会は2020年、Appleが競争原則に違反しているかどうか調べる独占禁止法調査を行っている。

App StoreやGoogle Playを使うことで、デベロッパーは世界中に対して一斉にアプリを配信できるようになった。これは、たとえ30%の手数料を支払っても大きなメリットだった。しかし、フォートナイトのようにストアに頼らなくても知名度が高く集客力があるアプリが登場してきた。力のあるアプリを持つデベロッパーにとって、この仕組みは足かせにしかならない。

今回の件でEpic Gamesは、ストアからのフォートナイト削除を覚悟しているように見えた。「1984」動画を用意したうえで、即日提訴に持ち込んだからだ。Epic Gamesはアプリの削除と、それによって世論を味方につけることを望んだのだろう。

しかも、「AppleまたはGoogleが将来支払いにかかる手数料を引き下げた場合、Epicはその引き下げ分をお客様に還元します」と言っており、手数料が下がった分は還元すると明言していることも、世間の支持を集める理由となっている。

以前から、ストアの手数料の高さに対して批判的だったEpic Games。確かにフォートナイトほどの売り上げと知名度を持つゲームを握っていれば、今回の挑戦はリスクも少なく、悪くないものだろう。

しかし、フォートナイトがここまで成長するためには、やはりストアの力は欠かせなかったはずだ。これまでAppleが提供するツールや販路などのメリットを得ており、しかも規約に同意したうえで使っていた。成長を果たした今になってストア側を批判することは都合がよすぎるようにも見える。

30%の手数料は、デベロッパーにとって非常に高く感じることはわかる。しかし、多くのデベロッパーに恩恵を与えてきたことは事実であり、一概に高額すぎるとばかり言えないだろう。

なお、フォートナイトほどになったら自社サイトで配布すればいいのではという意見もあるが、これには問題もある。検索結果から偽のアプリをインストールしてしまい、ユーザーをセキュリティ上のリスクに巻き込む可能性があるためだ。

「YouTuberの事務所脱退」と似ている

このEpic Gamesとストア側の戦いは、「YouTuberとYouTuber事務所との問題」と似ている。YouTuber事務所は、YouTuberが不慣れなスポンサー企業などとの契約部分などを担当することからスタートしたが、広告収入の20%前後を受け取っていることは同じだ。

事務所は、一般的にタイアップ案件の獲得や撮影スタジオ準備、税務処理などの雑務を担当している。しかし、YouTuberが有名になればなるほど、得られるサポートと手数料が見合わなくなってくる。次第に20%前後の手数料を高く感じ、木下ゆうかなどの著名YouTuberの事務所離脱が相次いでいるところも似ている。

YouTuber事務所も、最近は案件ごとにマネジメント手数料を定額とするところも出てきた。これならばYouTuberにとっても再生数が上がれば収益が上がるため、好評のようだ。

Apple、GoogleとEpic Games、悪いのは誰なのか。その問いの答えは、ただそれぞれの立場が違うだけというものではないのか。AppleやGoogleはEpic Gamesを逃すことも、手数料を下げる前例を作ることも望まないだろう。

しかし既に大きく成長したデベロッパーたちが一斉に謀反を起こしたら、条件を飲まねばならなくなるかもしれない。手数料を一律にするのではなく、条件によって変えるなどが落とし所になるかもしれない。

Epic Gamesとストア側の戦いはすぐに決着はつきそうにない。今後も注目していく必要がありそうだ。