2020年8月の猛暑が「例年以上にヤバい」理由

今年も猛暑の夏が続いている。気温が40度を超す、もしくはそこに迫る日が各地で続き、8月17日には静岡県浜松市で、これまでの国内最高気温と並ぶ41.1度を記録している。同じ気温は2年前に埼玉県熊谷市で観測されていた。

熊谷が最高気温を記録するまでの過去最高は、2013年8月12日に高知県四万十市江川崎で記録した41.0度だった。その瞬間、私はその観測地点のすぐ脇に立っていた経験を持つ。

「40度超えの暑さ」とはどんなものか

「41.0度って、四万十みたいでいいな」

その当時、地元の名産品の直売所では、そんな声が聞こえた。「おめでとうございます」。地元の報道関係者はそう声をかけて取材していたが、こう暑くて何がめでたいのか、よくわからなかった。

なんでも「日本一」は人の心を躍らせるようだ。それも5年後には、わずか0.1度の差で熊谷に持っていかれた。

江川崎は、最後の清流と呼ばれる四万十川を河口から約40キロメートル上って、愛媛県を流れてきた広見川と合流するところにある地区だ。ただ、観測地点は四万十川に架かる橋を渡って、山沿いを少し登ったところにある中学校の駐車場の片隅に、フェンスで囲まれてあった。今年も8月18日に39.4度の全国最高を観測している。

当時は連日40度を超す暑さが続いていた。四万十川を渡ってくる風は、清流とはほど遠く熱い。

最高気温を記録した瞬間は、空間に漂う熱気が上からも下からも全身にまとわりついて、離れていかなかった。自然と息も荒くなり、体温より熱い空気は、鼻孔や口腔から肺の中に入って、身体の芯から熱くしていく。ひょっとしたら、吐き出す空気のほうが涼しくなっているのかもしれない、そう思えた。

どうして日本の夏は、こんなに暑くなったのだろうか。東京でも猛暑日を数え、タイのバンコクやシンガポールよりも暑くなる。そう思って取材してみると、意外なことを知った。

そもそも日本の夏の暑さというのは、今に始まったことではない。例えば、東京はもともと明治時代から暑かった。

気象統計を調べてみると、1876〜1912(明治9〜45)年までの最高気温が30度を超える真夏日は平均で32.1日あり、このうち1894年には最多で65日間だった。現在では猛暑日と呼ばれる35度以上も3日ある。

最高気温の年平均も33.8度。最高は1886年に36.6度を記録している。総じて、東京はもともと暑い地域なのだ。

複数の要因が折り重なって上昇した気温

この暑さを底上げしているのが、地球温暖化と都市化だ。

昔ならば「夕涼み」という言葉があったように、夜になると東京でも気温は下がった。それが都市化によって夜、冷えなくなったところに大きな違いがある。いわゆる「ヒートアイランド現象」が、東京を暑くする。

もともとヒートアイランドとは、冬場の問題だった。それも産業革命によって著しく発展したロンドンのホームレスによって発見された。

夏場は少なかったはずのホームレスが、寒い冬になると、なぜかロンドンに増える。その事情を調べていくと、郊外よりも都市部の気温が高いことがわかった。これを人の集まる「Urban Heat Island」と呼んだことに由来する。当初は冬の気温が下がらないことが歓迎されていた。

それが日本では夏の高温を招いて人々を苦しめる。ヒートアイランドはさまざまな要因からできあがる複合現象となる。

まずは地表。例えば、成田国際空港の開業前の1974年の調査によると、滑走路など空港の敷地内は周辺よりも2度ほど高くなっていることがわかった。田畑に囲まれた平坦な場所に、コンクリートやアスファルトで固められた建造物ができるだけで、気温が上昇する。

ここに人々が集まり、活動することによってさまざまな熱を放出する。「人工排熱」と呼ばれるもので、冷暖房機の室外機から、交通機関によって排出される熱、あるいは工場や商業施設が機能することによっても、熱は放出される。

そこに建物や地表で相互に日射を反射する「多重反射」などが加わり、昼のヒートアイランド現状が起こる。これが夜間になると建物や地表に蓄積された熱が放出され、暑さによってフル活用されるエアコンの室外機からも排熱される。陽が沈んでもヒートアイランドは続き、気温は下がらず、熱帯夜となる。

ここに海風が加わる。もともと日射によって暖められた陸地に、日中は低温の海上から風が吹き込んでくる。とくに海に面した東京では、ヒートアイランドによって強烈な上昇気流をつくり、都会の熱を巻き込んで内陸部に向かって熱風が吹き込んでいく。「広域ヒートアイランド」と呼ばれるもので、これによって関東全域がより熱くなる。

さらには内陸部も都市化している。埼玉県北部から群馬県南部にかけては、人口が200万人を超えている。熊谷や群馬県館林市が高温を記録するのも、こうした事情が原因と考えられる。

関東と同じ地形的条件がそろっているのが、濃尾平野だ。湾があって、平野があって、山がある。気温も同様の条件によって上昇していく。

大阪の場合は、もう少し環境が違うようだ。広い平野というより、京都の盆地という地形が大きく影響しているといえる。

あとは当日の気圧配置などの気象条件が左右する。

浜松が最高気温に並んだのは、本州に張り出した太平洋高気圧の影響で、北西からの風が吹いた。これがフェーン現象を起こした。

フェーン現象は、山を越えてきた風が100メートル吹き下ろすごとに1度上がるとされる。この風が名古屋の上空を通ったことでさらに気温が上昇して、浜松に流れ込んだ。浜松には海からも風が吹き込み、そこで熱風をブロックして暑くなったと考えられる。無論、浜松も新幹線が通る都市である。

さらに今年は、太平洋高気圧の上にチベット高気圧が張り出すという2重構造になったことで、雲ができにくく、全国で気温が上がった。

この猛烈な暑さで、東京都内では19日までに103人が熱中症で死亡している。新型コロナウイルスのペースを超えている。

熱中症だけではない猛暑の悪影響

熱中症ばかりでなく、脳梗塞が増えることも指摘されている。熱中症と同じように水分不足による脱水症状から、血液が「ドロドロ状態」となり、脳梗塞を引き起こす原因となる。また、夏かぜなど感染症を起こすと、血液がたまりやすくなり、やはり脳梗塞を起こしやすくなるという。同じ理由で、心筋梗塞にも気をつける必要がある。

さらに意外なところでは、気温の高い日というのは、低い日に比べて自殺死亡率も上昇する傾向にある。専門家によると、イギリス、韓国、それに日本の統計から裏づけられるという。

その理由は定かではないが、高温を招くフェーン現象は地表面のプラスイオンを発生させ、この影響で人間の精神に悪影響を及ぼす、というアメリカの研究報告もある。

それよりも身近なところでは、熱帯夜の影響が考えられる。快適な睡眠がとれないことは、精神状態によいものではない。睡眠不足は昼間の活動にも影響を及ぼす。

今年の猛暑には新型コロナウイルス対策も加わる。ストレス管理も重要な課題だろう。