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「いないいないばあ」が子どもを夢中にさせる訳

「好奇⼼」への理解を深めることは、私たちがどのようなものに⼼を動かされやすく、どのようにすれば、より効率的かつ⻑期的に学ぶことができるのかを知ることにもつながります。⼦どもへの関わり方や教育・療育はもちろん、私たち⾃⾝の学びを考える上でも、「好奇⼼」について学ぶことは、とても重要なテーマではないでしょうか。

私たちを取り囲む世界にはたくさんの情報があふれています。しかし、そのすべての情報を処理することには限界があるので、私たち人間は「何に対して注意を向けるべきか」を、無意識的に選択する能力を⽣まれながらにもっています。「好奇⼼」もその能力の1つであり、「好奇⼼」が働くからこそ、まだ知らない重要な情報に集中し、学習することができるのです。特に、⾔語をはじめとするさまざまな知識を学習していく上で必要不可欠なものだと考えられます。

乳児は「単純すぎず、複雑すぎないもの」に関心

近年、乳幼児の好奇⼼に関わる認知機能のメカニズムの⼀部が、乳児の視線を分析した研究報告(Kidd et al., 2012 Plos One)から明らかになってきました。その報告によると、乳児は単に⽬新しいものや⾒慣れたものを好むわけではなく、単純すぎず、複雑すぎないもの、つまり、“ほどよく新奇性があり、ほどよく予想を裏切られるもの” に対して注意を維持しやすい、ということが明らかになっています。

私が研究の一環で野澤祥子・東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター准教授と一緒に『いないいないばあ!えほん』(作・絵:かしわらあきお)を監修する過程で、子どもが「いないいないばあ」という遊びに夢中になる背景には、「好奇心」という心の働きが深く関わっていることがわかってきました。

「いないいないばあ」、⻄洋圏では「Peek-a-boo」という普遍的な遊びには、乳幼児の「予想」や「期待」が深く関わっています。「いないいないばあ」には、“予想していたもの(親しい⼈の顔など)に出会えた安⼼感”と、“予想していなかったものに出会う驚き”のふたつの要素がありますが、上述の研究報告をふまえると、両者のバランスこそが喜びや楽しさにつながるのではないかと考えられます。

低⽉齢(9~18カ⽉)、⾼⽉齢(18~30カ⽉)の⼦どもたちの注視する時間を分析すると、結果、低⽉齢では、顔が少数しか出てこない⽐較的シンプルなものや、⼈や動物の顔など⽣物性が⾼いものをよく⾒る⼀⽅、⾼⽉齢では、⽣活経験が少ないと予想しにくい、意外性や複雑性が高いものや、顔がついた⼈⼯物や⾃然物、お化けなどの空想的なものもよく⾒る傾向があります。

たとえば、1歳頃にはあまり興味を⽰さなかった「いないいないばあ」のイラストが1歳半ではお気に⼊りになることも出てくるはずです。それは子どもの好奇心の「変化」なのです。

 

書いてある⾔葉は「いないいない」と「ばあ!」だけでも、読み⼿が声のトーンや抑揚、「ばあ!」のタイミングなどを変えることで、予想のしやすさが変わり、さらに多くのバリエーションをつけることができます。この読み⼿の関わりも、「いないいないばあ」という遊びの重要なポイントです。

とてもシンプルな遊びだが「好奇心」が深くかかわる

また、絵本を介して読み手と「好奇⼼」を共有する楽しさは、⼦どもの⼼の成⻑にもつながっていきます。「好奇⼼」は、他者との関わりの中で、⾔語をはじめとする社会的・⽂化的知識を学習する上で重要な役割を担うからです。

「いないいないばあ」はとてもシンプルな遊びですが、その喜びや楽しさには「好奇⼼」が深くかかわっています。⼦どもは、親や保育者とのやりとりの中で「好奇⼼」を働かせることで、絵本には書かれていない⾔葉や知識も知らず知らずのうちに学んでいけるのです。

⼦どもの姿を通して「好奇⼼」について学ぶことは、大人の私たちにも、知らないことを知ることの楽しさや喜びを思い起こさせてくれます。また、私たちがいつまでも「好奇⼼」を持って学び続けるにはどうすればよいのか、そのための重要な⽰唆を与えてくれるのではないかと考えます。



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